まさかり忘れた金太郎:足利山に強制送還されるのが嫌なので、魔神をたおしにい行き申す
ファンタスティック小説家
第1話 平穏への来訪者
「金太郎、いや、年齢的には坂田金時か。そろそろ魔神たおしにいかんかのぉ? ほら、その
「
「……」
いったいどこで間違えたのだろうか。
自分は、魔神すらほふれるはずの英雄をなぜ腐らせてしまったのか。
自責と罪の意識が、賢者の双肩に重くのしかかる。
彼を召喚して、はじめのうちはよかった。
英雄にふさわしい力をふるい、人々を助けてくれた。
だが、ある時から彼、別世界より呼びだした英雄・
甘えに甘えさせ、ほったらしか結果がこれか。
金太郎以外の英雄を呼んで、かわりに魔神退治させようと思ったのが間違いだったのだろうか。
賢者はかつての自分の選択を悔いていた。
「部屋中のお人形や、ポスター、破廉恥な寝床の装飾……いろいろ言いたいことはあるが、まずは
「なんと、賢者殿ともあろうお方が、メイド服を知らぬでござるかー!? これはご主人様にご奉仕するうら若き少女の決戦装備でござる! そなことも知らぬとは、いったいその英知は、なんのためにあるのでござるかぁあ!」
ミニスカートから、見たくもないパンティをチラリズムさせる金時に、賢者は嫌悪顔を隠さない声で、ストップをかける。
「どうどう、金時。思いだすのじゃ、お主の使命は、魔神を倒すこと。こんなところで似合わない衣装遊びをすることではないのじゃ」
「似合う、似合わないは他人が決めることではないでござるよ。着たいから着る。他者になにを言われようと己を通すこと。拙者から賢者殿にいいたいのはそれだけでござる」
「ぐぬぬ……ッ! 気色悪い格好しおるわりに、イイこと言いおって。いい加減にするのじゃ、さぁ、金時、はやく魔神を倒しにいくのじゃよ!」
「たっはぁ〜っ、何を言っているのか。拙者以外にたくさん英雄を呼んだのではござらぬか。ギルド本部が各国から高名な冒険者も選抜した。拙者、知っているでござるよ、この20年で増えた拙者の後任英雄たちは、みな優秀でござる。
彼らの能力ならば、魔神なぞ、とるにたらないでござるよ。ん、何故知っているのかって? それは英雄ランキング上位100位までの美男子美少女は、常に把握済みでござるからなぁ! あっはは、ちなみに今夜のおかずはランキング21位の若手実力派英雄『グンタネフ王国の蒼い閃光』キリカ姫でござる。彼女の雷鳴ほとばしる
「先日、魔神の再誕に際して、魔と人間との本格的な衝突があった。そこで、英雄のおおくは命を散らし、そして二度と魔神に立ち向かえなくなった者も多い。頼む、目を覚ましておくれ。おぬしだけが最後の希望なのじゃ、英雄・坂田金時!」
「むぅ……なんだか、まずそうでござるなぁ……これは先走ってる場合ではないと。しかし、拙者には世界の危機を救ってる暇などないのもまた事実」
「いや、んな事実があってたまるかッ!?」
ブチギレ寸前、目を見開く賢者を押しとどめ、金時はのっそりと立ちあがり部屋をでていこうとする。
「賢者殿、悪いと思いますが、他をあたってほしいでござる。拙者、これからこのメイド服姿を仲間に見せにいかねば、ならぬゆえ」
「待て、待つんじゃ、金時!」
人々の目がある往来を、堂々とつきすすむ男の影で、賢者は冷や汗を浮かべながら羞恥にもだえる。
「考え直さぬか、金時!」
「考えることなどないでござる。あと拙者の名はゴールデン・サカタでござる。間違えぬように……おや?」
金時の迷いない足がとまる。
彼の視線のさき、日の当たらない影で小さくなる少女がいる。
賢者はハッとして、金時と少女の視線上に体をはさみ、両手をひろげた。
「それだけいかぬ! 金時、道徳をわすれた目で少女を見るんじゃない! おぬしは仮にも英雄、だったはずじゃ!」
黙したまま金時は、賢者の枯れた体をどかし、少女へ大きな手を伸ばした。
やむおえん、ここはわしの攻勢魔術で無理やりにでも……!
そう賢者が覚悟を決め、懐からぬいた杖に手をかけた瞬間、彼は自身の目を疑った。
「そこなプリチィ、そう、おぬしでござるよ。どうしたでござるか。む、お腹がすいたのでござるか。わかり申した。では、まずはこれを食べるでござる。拙者のお昼ごはんでござったが、特別に可愛いおぬしに差し上げるでござるよ」
いろいろな恐怖でかたまる少女は、差しだされたおむすびに目を爛々と輝かせて、勢いよく白飯を口のなかに詰め込みはじめた。
金時は満足そうに少女がお腹いっぱいになるのを見守り、彼女が親のいない迷い子だとわかると、肩にかついで、そのままなれた足取りで神殿へとおくりとどけた。
一連の手際良い動きを、感嘆した賢者が見守る。
しばらく
おぬし、やはり英雄じゃなーー。
賢者は嬉しそうに頬をほころばせる。
「なんだ、まだいたでござるか。はやくあの
「坂田金時」
ふざけた空気を
「ゴールデン・サカタでござる」
「おぬし、本当に魔神を倒しにはいかぬのだな?」
「だから、そう言ってるでござる。プリチィで優雅な日々をおかしてまで救う世界など、拙者の脳内ピクシブ辞典には載ってないということ。そんなこと、皆までいわずとも、賢者殿ならばわかるでござろう」
「そうか……では、世界を救わない英雄など、残しておいても仕方ないのぉ。もう、あの
「ッ! 横暴でござる! 拙者が何をしたでござるかぁあ!?」
「何もしてないから今こうなっとんじゃ! たわけ!」
賢者はしびれを切らしたとばかりに、ふわりと空へ舞い上がっていく。
金時は歯ぎしりしながら、かつての色気ない、動物たちと
「さぁ、行くのだ、金時、いいや、この際、ゴールデン・サカタでも、プリティ・サカタでもないでもいい。とにかく無精髭をそって、まさかりかついで、動物ひきつれて魔神を倒しにいくのじゃ! わしは次の街『ガトラニエ』で待っとるからの! 3日以内に来なかったら強制送還じゃ!」
そう言って空の彼方へと飛びさっていく賢者を、坂田金時は、絶望を顔にうかべて見送るのだった。
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