第2話 社務所で見たもの

どのくらい時間が過ぎただろうか。


Nは喉の渇きを覚えて踊りの輪から出た。

水を飲もうと思い社務所の方へと向かった。


社務所は村民の休憩や手洗い用に今夜は開放されているようでお茶なんかも置いてあると彼女から聞いていた。


社務所に入ると中は薄暗い蛍光灯一つが付いていた。


座敷に上がると冷茶の入ったポットが置いてあり、紙コップにお茶を注ぐとNは一気に飲み干した。

よく冷えたお茶が火照った体を冷ます。


一息ついたところでNは誰かが見ているような視線を感じ、社務所の窓の方をふと見やった。


誰かがこちらを覗き込んでいる。


ほおかむりをした老婆が笑みを浮かべてこっちを覗き込んでいるのだ。

村の人だろうか。


Nは違和感を感じた。


そしてその違和感の正体に気がついた。


こちらを覗き見ている老婆は、彼女がさっき持っていた遺影の人物にそっくりだったからだ。


Nは紙コップを放り出すと、転がるように社務所を出て彼女のもとに走った。


慌てて走って来るNを見た彼女は怪訝そうに聞いた。

「どうしたの?」


Nは呼吸を整えると、社務所の方を指差した。

「さっき、君のおばあちゃんが・・・」


彼女は社務所をしばらく見ていたが、ぽつりと言った。

「・・・誰もいないよ?」


彼女の言葉にNも社務所を恐る恐る振り返ったが、確かに近くに人影はない。

ついさっきまで、確かに誰かが窓から中を覗き込んでいたはずだったのだが。


「何を見たの?」

彼女がNの目を覗き込むように言った。


「君のおばあちゃんに似た人がこっちを見てたんだ」

「まさか」

Nが告げると、彼女は含み笑いで答えた。


「でもこの盆踊りの夜はね、あの世と現世が交わるってこの島では言われてるんだよ。だからNも亡くなった人に会ったのかも」

彼女はそれだけ言うと、再びNを踊りの輪に誘った。

「行こ、まだまだ盆踊りはこれからだよ」


Nもフラフラと彼女に続いた。


相変わらず辺りには奇妙な唄が響き渡り、なんとなく頭がぼんやりする。


踊りながらふと社務所の方を振り返ると、いつのまにか何人もの人が薄暗い蛍光灯に照らされた室内からこちらを見て笑っているのが見えた。


Nは思わず息をのんだ。

その中に先程見た彼女の祖母の顔や、やぐらに飾られた遺影にそっくりの人々の姿があったという。


ただそれが本当に死者達だったのかは今となっては曖昧らしい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奇妙な盆踊り 斉木 京 @fox0407

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ