奇妙な盆踊り

斉木 京

第1話 彼女の実家で体験した話

知人のNに聞いた話。


それは数年前、Nがまだ大学生だった頃の話。


大学が夏休みに入った時、当時付き合っていた彼女の田舎に一緒に遊びに行こうという事になった。


彼女の実家は小さな離島にある。


都心から何時間もかけて車で移動した後は、フェリーに半日ほど揺られて目的地に到着した。


Nは彼女の家族からも歓迎され、しばらくは美味しい料理や周囲の美しい海を楽しんだ。

長い時間をかけてきた甲斐はあった。


何日かたったある日。

Nは彼女に盆踊りに誘われた。


その夜は毎年恒例の村の盆踊りが開催されるということだった。


 都心で暮らしていると、なかなか盆踊りなどの季節のイベントに参加する機会はなかったのでNは喜んで一緒に行く事にした。


盆踊りが催されるのは、島のほぼ中心に位置する山の上にある神社の境内という話だ。


夕方になると彼女とその家族と連れ立って家を出た。


ちょうど日が落ちた頃、神社の境内に続く長い石段を汗を流しながら登り切ると、すでに村の人達がだいぶ集まっているようだった。


境内にはたくさんの提灯が吊り下げられ、オレンジ色の淡い光が幻想的な雰囲気を醸し出している。


彼女は家から持ってきた風呂敷をほどくと、四角い額の様な物を取り出した。



「・・・それ、何?」

気になったNは彼女に聞いた。


「おばあちゃんの遺影だよ」

彼女は四角い額を大事そうに胸元に抱えた。


「え?なんで遺影?」

Nは少し面食らった。


「毎年、盆踊りの時は持ってくるんだよ」

彼女は遺影を持ってやぐらの方へと歩み寄った。


Nは少し驚きながらも彼女の後を追った。


彼女はやぐらの周りに設置された台に、遺影を飾った。


よく見れば彼女のおばあちゃんの遺影だけではない。

大小さまざまな無数の遺影が並んで置かれている。


白黒の随分古い写真もあれば、比較的新しいものもあるようだった。


それらが提灯の淡い光に照らし出されている。


Nが言葉を失っていると、彼女がクスリと笑って教えてくれた。


「盆踊りはね、もともとご先祖様を供養するためのお祭りなの。だからこの島だとこういう風に遺影を持ち寄って飾るんだよ」


Nは気になって後々自分でも調べてみたが遺影を飾る地域はよくあるようで、盆踊りは土地ごとの文化や特色があるのだと知った。

驚いた自分が何となく気恥ずかしい。


しばらくすると、やぐらの上に腰の曲がったお婆さんが登った。


すると先程までスピーカーから流れていた録音された音頭が止まる。


お婆さんにマイクが渡されると、やぐら上の太鼓を男たちが勢いよく叩き出した。


太鼓のリズムに乗るようにお婆さんが独特の節回しで歌い始めた。


日本語と外国語が入り混じったような独特の歌。

心地よいようでどこか不気味な音律。


その低く響く唄が境内を包むと、多くの人がやぐらを回る踊りの列に加わった。


「行こ!」

Nも彼女に手を引かれて踊りの輪へと加わった。


独特の熱気と一体感に包まれ、Nは見よう見まねで時を忘れて踊った。

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