卒業生のみなさん! 学校マニュアルは準備できてます?
ちびまるフォイ
しっかり読むほどドツボにはまる
「今日で学校を卒業となります。
そして、これからの門出の前に下級生に残すべきものがあります」
先生は分厚いファイルを取り出した。
「それでは、3年の経験を元に学校生活のマニュアルを作ってください」
「が、学校生活のマニュアル……?」
「ええ、3年もこの学校で過ごしたのだから勝手はわかっているでしょう。
どこどこのトイレが汚いとか、〇〇先生が怖いとか。
そのほか学校生活をするうえで大切なことをマニュアル化してください」
「なんで俺が!?」
「あなたはマニュアル係でしょう?」
とくに仕事がないと聞いていたのでマニュアル係を選んだのに
最後の最後にこんな大仕事をノーモーションで振られると思わなかった。
「まとめられたマニュアルは新入生に配られます。
まだ右も左もわからない新入生を手助けできるマニュアルを作ってくださいね」
「わかりましたよ……」
まずは学校を歩き回って書き留めるべき内容をまとめていった。
売店のパンのおすすめなどの過ごした人しかわからないことを記す。
「意外とこれはこれで面白いなぁ」
これまでの学校生活を振り返るようで楽しくなってきた。
マニュアルをまとめ終わると先生は「お疲れ様」と言って受け取った。
「これで新入生が俺のまとめた内容をもとに過ごすのか。
なんか人助けをしたようで気分いいや」
卒業から数日後、よもやそのマニュアルのことで呼び出されると思わなかった。
「せ、先生。いったいどうしたんですか。
すでに俺はこの学校の生徒ではないんですよ?」
「あなたのマニュアルに記載不備があったんです。
なのでそこを直してもらおうと呼び出しました」
「記載不備?」
「友達の作り方についての記述がない!!」
「……え? それ……書くことなんですか」
「書くことなんです。マニュアルを渡した新入生から苦情が来たんですよ。
どうしてマニュアルに友達の作り方が書いてないんですか
これじゃあどうやって友達を作ったらいいかわからないです、と!」
「そんなの人によってそれぞれじゃないですか!」
「なにひとつ道を示してあげないということは、
新入生の育成放棄にほかならないんですよ」
「あーーもうわかりました! 書きます! 書けばいいんですね!」
友達の作り方をマニュアルに書いた。
また記載不備だとごねられるのも嫌だったので、
友達との仲の深め方だとか突っ込んだ内容も踏み込んで書いておいた。
「はい、これでいいですね!」
「お疲れさまでした」
やっと肩の荷が降りた。
そして、3年間お世話になった学校に別れを告げた。
翌日、ふたたび呼び出された。
「今度はなんですか!?」
「新入生のほうから勉強の仕方について記述がないとクレームが……」
「勝手にやればいいでしょう!!!」
「新入生が勉強しなくなったらどうするんですか!?
学生の本分は勉強! それがマニュアルに書かれていないと言っているんです!」
「わかりましたよ!」
学校生活マニュアルへ事細かに勉強の方法を書いておいた。
予習復習やノートのとり方、はてはペンの持ち方まで抜かりなく書き留めた。
「……これで満足ですか?」
「ありがとう。これで新入生も迷わずに済みます」
すべてのカタがつくと、3年間過ごした学び舎を去った。
翌日、みたび呼び出しが行われた。
「もういい加減にしてくださいよ! 今度はなんですか!?
俺はもう早く新しい生活に集中したいんですよ!!」
職員室に怒鳴り込むと、すでに多くの新入生でごった返していた。
先生はマニュアルを持った生徒への質問の乱打に困っている。
「先生! マニュアルにトイレの使い方が書いていません!」
「先生、どうしてマニュアルに告白の仕方が書いてないんですか!?」
「先生! マニュアルに自分の得意教科の見つけ方を書いてください!」
「先生、お昼休みの過ごし方についてマニュアルに書いてください」
先生に文句を言うう気満々だったが、この惨状を見て流石に気が引けた。
授業開始のチャイムで生徒が波が引くように去ってから先生に声をかけた。
「先生、また記載不備ですか」
「見てたのか。ああその通りだよ。書いても書いてもきりがない。
細かく書けば書くほど、もっと細かいことを書いてほしいと言われるんだ」
「……こんなことになるならなんでこんなマニュアルを作ることにしたんですか」
先生は虚をつかれたように目を点にした。
「さあ。だって先生マニュアルには作るって書いてあったから……」
卒業生のみなさん! 学校マニュアルは準備できてます? ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます