あやかし商店街

獅音

第0話 こちらあやかし商店街

 とある山のなかに不思議な鳥居がある。木々が鳥居を囲むように生い茂り雑草も生え、土はまるで沼のようにぬかるんでいる。とても人間が近寄れるようなところではない。だが、それでいい。なぜなら、元から人間を来させるために作ったのではないからだ。なぜこの鳥居が作られたか、だれが何のために作ったか。すべての理由はこの鳥居の奥にある。


 “あやかし商店街”。鳥居を抜けた先にはそう書いてある。まわりの木々はどこへ行ったのか、見当たらなくなる。それどころか町が広がっている。僕はここに住んでいる低級のあやかしなんだ。じゃあ、あやかし商店街を案内するね。まず、商店街に入って最初にあるお店。仕立て屋の白屋はくやさん。

「琴ちゃん琴ちゃん、この前仕立ててもらった着物すごくかわいかったけど、着たらもっとかわいかった。ありがとう。」

「いえいえ、ミズキさんが気に入っていただけたならなによりです。また何かあれば言ってくださいな。」

お店の前で2人立ち話している。1人はミズキさんは河童の妖怪。商店街でいちばん優しくてちょっと見た目が幼くてふわふわしてる。でも、確か商店街の最年長。ミズキさんが琴ちゃんって呼んでいたのは、九尾の琴吹ことぶきさん。仕立て屋の白屋の店主。とても美人なで仕立ての腕も本当にいい。ちなみに、僕も琴吹さんが仕立ててくれた着物を着てたりする。性格は……世の中知らなくていいこともあるよ。

「ミズキさん、琴吹さんお疲れ様です。」

「坊やもおつかれ。頼んでおいたものあるかい?」

実をいうと、僕は商店街の人たちに頼まれたものを人間界からわざわざ取りに行くのが仕事。

「もちろん。麻をいっぱいでしたよね。」

「そうそう。助かるよ。あ、ちょっとお金持ってくるから待ってておくれ。」

琴吹さんは僕が渡した麻をもってお店の奥へと行ってしまった。ふと、ミズキさんの視線が気になりミズキさんに顔を向ける。やっぱり僕を見つめていた。今日はミズキさんからの頼まれたものはないはず。

「ねえ。」

「はい。なんでしょうか。」

「……。」

返事をしたもののミズキさんから何か言葉を発することもなく沈黙が流れる。こういうところがほんとに不思議な人だと思う。なんて考えていると僕の頭にミズキさんの手が乗った。

「いつもちゃんとお仕事しててえらいえらい。」

当たり前のことをしているのにこうやって褒めてくれる。こういうのを癒しというんだろうなと瞬間的に思った。

「おまたせって、ミズキさんなにしてるんです?」

「癒されてた。」

いや、それは自分です。

「そうですか。ほら坊や。まだ仕事があるだろ。遅くなって悪かったね。今回分のお金だよ。」

「いただきますね。ちょうどですね。ありがとうございます。」

「またよろしく頼むよ。」

「ばいばい。」

2人に手を振り次の店に向かう。あくまでも予想だが、嫌な予感がして行きたくない。でも、仕事だから働かなければ生きていけない。なんて考えていると

太蔵たいぞうさぁぁん。その位置変わってくださいよぉ……。」

「変われるなら変わってやりてぇよ。」

「太蔵ぉ、お前そんなこと言うのかぁ?こんな美人捕まえといて変わりたいだと?……まったく照れんなよ。」

「照れてねぇ。」

いつもの騒がしい声が聞こえてきた。でも、まだマシって思わないとこの人たち相手に商売ができない。僕はその騒がしい3人組に近づいた。

「すみません。太蔵さん、ゆきさん、そうさん。頼まれたものお持ちしました。」

「ありがと。そこに置いといてくれ。お代はそこに置いといてある。俺は今忙しくてね、手が離せないんだ。」

この人は天狗の綜さん。一応花屋をしている。簡単に言うとある人に対して変態。だけど顔はいいからいろんな女あやかしにモテる。うらやましい。なんて言いつつもこの人は頻繁に僕に仕事をくれるから感謝はしている。

「分かりました。太蔵さんは……どうします?」

「俺も綜と同じだ。お前が来る前からこうなることは予想していたからな。代金はいつものところだ。悪いな。」

「大丈夫ですよ。気になさらないでください。」

鬼の太蔵さん。もうほんとにいい人。それしか言えない。酒屋をしているんだけど売ってるお酒は全部太蔵さんの手作り。あやかしはお酒が大好きだから大変なのにすごいと思う。

「おチビも一緒に飲もうぜ。うまいぞ。」

「仕事中なのでお断りします。」

「つれなーい。たいぞー飲むぞ。」

なんとなく察してほしい。この酔っ払いは雪女の雪さん。小料理屋を営んでいる。とにかく酒癖が悪い。こんなんでも、料理の腕は確か。ちなみに、琴吹さんとは犬猿の仲で綜さんの好きな人。綜さん見る目がない。とりあえず、商品を渡してお代を頂き家に帰る。

「ありがとうございました。またのご利用を。」


 ほかにもこの商店街にはあやかしがいる。ざっと200はいると思う。その中でのこの人たちが商店街の重要なあやかし。あ、そういえば鳥居の話していなかったね。作ったのはミズキさんらしい。僕が来たのはつい82年前だから分からないんだ。あの鳥居は1000年くらい前からあるものらしいから。作った理由は長くなっちゃうから短く話すけど、あやかしという僕たちが人間界で居場所がないから逃げ場として作ったって聞いたよ。じゃあ僕はまた人間界に行って仕事をしてくる。この商店街が気になるなら、僕がいなくなっても見てていいよ。でも最後に一言。


-- ようこそあやかし商店街へ--

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あやかし商店街 獅音 @092700007

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