黒いプーリースライム

目の端に捉えた物は未だ見た事も聞いた事もない黒いプーリースライムだった。


考えるよりも先に体が動いていた。


今にも捕食されそうになっていたプーリースライムを抱き上げ、松明をがむしゃらに振り回す。


しかし数が多過ぎてあまり役には立たず、アメーバが張り付いて来た箇所の服がジワジワと溶け始めていた。


「何してるんですか!!」


マリアがかなり怒った顔で駆け寄って来てアメーバを蹴散らした。


どうやらロックマッシュに擬態している状態なら打撃で吹っ飛ぶようだ。


「怖かっただろ?もう大丈夫だぞ」


「何言ってるんですか?まだ大丈夫じゃありませんよ!」


マリアが私を抱えて猛ダッシュで森を抜けて行く。


ロックマッシュもどきは一定の距離までは追い掛けて来たが、森を抜ける頃にはもう姿も見えなくなっていた。


「本当に何を考えてるんですか!死にたいんですか?馬鹿ですか?馬鹿なんですか?」


怒って怒鳴り散らすマリアを無視して腕の中にいる黒いプーリースライムに目をやると、プーリースライムは小さく震えながら私の胸元にしがみついていた。


「か、可愛い!」


野生下のプーリースライムが人にしがみついてくるなんて聞いた事がない。


しかも今まで発見されていない黒いプーリースライム。


貴重かつ尊い!!


「もう大丈夫だぞ。怖かったなぁ」


震えるプーリースライムの頭を指で優しく撫でながら声を掛けた。


こちらを見上げるその顔の何とも可愛い事と言ったら!!


プルんとした小さく丸みのある体につぶらな瞳。


小さな手足。


どれをとっても極上に可愛すぎる!!


「怖くないぞ。私は君に危害を加えたりしないぞ。」


言葉が通じるのかは分からなかったがそう声を掛けると、プーリースライムは警戒するように周囲を見渡した。


一挙手一投足全てが可愛い!!


「博士…あなたって人は!」


マリアの呆れ返った声が聞こえたがそんなのはどうでもいい程にプーリースライムが可愛過ぎた。


「私の言葉が分かるのか?」


何とは無しにそう声を掛けると、プーリースライムはコクリと頷いた。


「マリア!大変だ!このプーリースライムは可愛くて尊いだけじゃなく、私の言葉を理解しているぞ!」


「へぇー、そうなんですかー」


馬鹿にするかのように感情の籠っていない返事が帰って来た。


そりゃそうだ。


一部の知能の高いドラゴンやレベルの高いゴブリン、リザードマン等が人の言葉を話す事例はあるが、プーリースライムにはその事例を知らない。


「本当なんだ!ほら、見てみろ!」


不信そうな顔をしているマリアの前でプーリースライムに声を掛けた。


「私の言葉が分かるんだよな?」


するとまたプーリースライムはコクリと頷いた。


「え?」


マリアが信じられない物を見た様な顔でプーリースライムを見た。


「怖かったか?」


そう尋ねるとまたプーリースライムは頷いた。


「それプーリースライムですよね?人の言葉を理解してるんですか?信じられない…」


マリアがプーリースライムをまじまじと見ると、プーリースライムはもぞもぞと私の腕と胸の間に潜り込んだ。


『可愛過ぎるぞー!!!』


心の中でそう叫んでいた。


「黒いプーリースライムなんてこの世界にいました?」


「今まで聞いた事はないがそんな事はどうでもいい!そんなに可愛い尊い存在が未だかつていただろうか?いや、いない!これは神が私に与えてくれた最上級の贈り物に違いないと思わないか?!」


「…鼻息荒いですよ…気持ち悪い…」


鼻血を噴き出しそうな程に可愛らしい、可愛過ぎるプーリースライムが今私の腕の中にいる奇跡!!


「でも、そんなに人馴れしてるって事は誰かに飼われているんじゃありません?」


マリアの言葉に思考が停止した。


固まる私を無視してマリアがプーリースライムに声を掛けた。


「あなた、飼い主とはぐれました?」


プーリースライムは潜っていた腕から顔だけを出してフルフルと首を降った。


「あぁぁぁ、良かったー」


一気に力が抜けてヘナヘナとその場に座り込んだ。


「嘘を付いてる可能性もありますし、まだ本当に言葉を理解しているかも疑問ですから、ぬか喜びはしない方がいいと思いますよ」


マリアは冷たく言い放った。


「君が嘘を付くなんてある訳ないよな?」


そう言うと、プーリースライムはコクコクと頷いた。


「それより、ロックマッシュの事はどうします?ロックマッシュじゃなく、擬態したアメーバでしたけど」


「そんなのどうでもいいじゃないか。今はこの素晴らしく愛おしいプーリーちゃんを愛でようではないか!」


「どうでも良くありません!依頼の期日、明日ですよ?まだやる事が残ってるんです!」


「そんなの何とかなるさー。ねー、プーリーちゃん」


プーリースライムをニヤニヤしながら見ていたら、マリアがひょいとプーリースライムを腕からかっさらって行った。


「な!何するんだ!」


右手にプーリースライムの尻尾を持ち、左手は腰に当てているマリアが鬼の形相で睨んでいる。


今にも全身から炎でも吹き出しそうだ。


「わ、分かった、分かったからプーリーちゃんを返してくれ!ちゃんと仕事するから!」


「本当ですか?」


「本当に本当だ!ちゃんと仕事はするから!」


「もししなかったら…分かってますよね?」


ドラゴンすら瞬殺していまいそうな迫力を身にまとったマリアがそこにいた。











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ミニマムモンスター愛好家~小さくて可愛いのはお嫌いですか?~ ロゼッタ @jerry-beans

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