第4話 そして……
三か月が過ぎた。
CHOMPはデビュー当日に失踪した幻のグループとしてひところ噂になったが、今ではもう話題になることもない。
俺は何となくあのときの会場に足を向けた。
あいつらは今どうしているんだろう。ちゃんと生きているのか――。
いや、よそう。感傷にひたっていてもしょうがない。
俺はステージに背を向けて、帰ろうとした。
その時――あの青白い、爆発的な光を背中に感じた。
気配に、ゆっくりと振り返る。
まさか。
「やあ西さん、久しぶり」
「やあじゃねえや、ちくしょう」
「あれ西さん泣いてる?」
「光が眩しかっただけだ」
「三か月も連絡一つよこさない馬鹿野郎どもが」
「あちらでは三年でしたよ。時間の流れが違うのかな」
日に焼けて精悍になった御末が笑う。
「しかし……まだちょんまげ続けてたんだな」
「まあ、これがなければ俺たちは出会わなかったんだろうなってどこかのお調子者が言うから――なんとなく、俺たちのシンボルマークみたいになってしまって」
「――魔王は倒したのか」
「もう一息ってところです。ただ、俺たち無性にこちらの缶ビールが飲みたくなって、無理言って来ちまいました」
「居酒屋でも行くか?」
俺が誘うと、そろって首を振る。
「俺たち、ここがいいです」
コンビニでビールとつまみを買い込んで、ささやかな宴会を行った。
後のことはご想像に任せることにしよう。
結局、彼らはもうこちらでのライブ活動とかの興味をなくしていた――それはそうだろう、あちらの世界では英雄として崇拝されているのだから。それに、向こうにいた間に筋肉がつき、体格が一回り大きくなっていた。もうアイドルというにはゴツすぎる。
現在はこちらとあちらの時間の流れの差を利用して、パートタイムの英雄として二つの世界を行き来している。
俺も芸能事務所をやめ、彼らが持ち込む金貨や宝石を資産化して運用する、重要なマネージメントを任された。儲けもかなり出ている。
俺自身はまだあちらへ行ったことはない。
死ぬまでに一度くらいは見てみたいのだが、シグナイヤが俺を連れて行ってくれないのだ。
最後は彼らに聞いたこの話で締めたいと思う。
相手に憧れて、外見を真似るというのはよくあることだ。
魔王を倒した英雄となればなおさら。
もし、他の人間――別の国の――があちらへ偶然行ったとして、そこの住人の少年がみんなちょんまげボーイズだったら。
ちょっと笑えてくるだろう?
終
ちょんまげボーイズ 連野純也 @renno
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