第43話

「ところでお兄。ずっと聞きたかったことがあるのだけれど」

「やめろ、聞くな。ずっと我慢してたならこの先も一生我慢しててくれ」


 激動のメゾテラ生活を終えて約二ヶ月。快晴の朝。

 いい加減、蔵の炬燵も片付けたいのだが、リコがその魔力からなかなか抜け出そうとしてくれない。


 まぁ炬燵にこうやって隣り合って座るとなんかこうな。炬燵の中に入れてる部分はじゃれ合ってても何かセーフな感じあるし。まぁ別に二人きりだから誰に見られてるってわけでもねーんだけど。


「しかもお前はいつまではんてん着てんだよ。もうそんな寒い季節じゃねーだろ」

「話を逸らさないで。はぁ……仕方ないわね、じゃあわたしの話からするわ。あのね、わたしね、」

「いやーもうわざわざそういうの口に出さなくてもいいんじゃねーか」

「実はお兄が社内の選考会に参加してメゾテラに出ようとするんじゃないかって、元々ある程度予想はついていたのよ。それでわたしに自慢しようとしてくるって」

「なんっっっで、言っちゃうんだよ……」

「言ってほしくなさそうにしていたから」

「ああ、まぁそうだろうな……」

「だってスポンサー企業に勤めていてるメゾテラ大好きなお兄が、番組出演を試みないわけないじゃない。まぁ本当に採用されていたのにはさすがに驚いたけれど」


 まぁ確かに驚いてたよな。


「そうかそうか。それでわざわざ自分も苦痛なオーディションに参加してまで俺を追ってきちまうほど、お前は俺のことが大好きってことだな。うん、よし、これでこの話は終わりだな」

「待ちなさい。でもあなただって自分がこの番組に出てるのをわたしが見た時点で、知った時点で、わたしも応募してくるって想像つくわよね? 誰かが卒業して空いた枠を全力で狙いに来るって分かるわよね? いつかわたしが来るってことを想定して参加してるわよね?」

「うぐぅ……っ」


 そうだ、確かにその通りだ。

 初めからリコがいたことにはマジで驚かされたし、てか六人が揃った偶然なんて未だに信じられないが、いつかお前が何としてでも潜り込んでくるんじゃねーかという予測はしていた。胸の奥の奥の方でほんのりと、期待してしまっていた。恋愛リアリティショーという言い訳をもらってお前と生活することができるんじゃねーかと……。まさかあそこまでのことになるとは思ってもみなかったがな……。


「本当にあなたってわたしのことが大好きね」

「るせぇ。てかお前、何か他にも思いついたことあるって言ってなかったっけ、昨日の夜」


 聞き出す前にお前がぐっすり眠っちまったから聞けなかったが。


「そうそう、それよ。実はね、とんでもない計画がひらめいてしまったのよ……っ!」


 ああ、またろくでもないこと考えてんだろうな。目がキラキラしてる。めっちゃ面白そう。


「おい早く教えろ。早く俺にもやらせろ」

「まぁ待ちなさい。ねぇお兄、知ってた? わたしのフォロワー数はあのやらせ暴露があってからも、減るどころかむしろ増えているのよ?」

「ほう。そうなのか」


 まぁ知ってるけどな。毎日チェックしてるからな。てかお前だって俺が毎日チェックしてること気づいてんだろ。明らかに俺に向けた愚痴とか会いたいアピールとか投稿しまくってんだろ。全世界に何を公開してんだ。


「だからね――これよ!」

 リコが自信たっぷりにスマホ画面を突きつけてくる。

「カップルアカウントよ! ここにわたし達のイチャイチャラブラブ演技画像をアップしていくわよ!」

「……お前ってやつは相変わらず……とんでもねぇ天才だな……っ!」

「そうでしょう、そうでしょう。しかもそれだけではないわよ。動画サイトにもわたし達のカップルチャンネルを開設しておいたわ。ここに毎日わたし達のイチャイチャラブラブ動画を、あ、イチャイチャラブラブ演技動画を上げていくことによって広告収入でウハウハよ!」

「……っ! おい……おいおいおい、そんな魔法みたいな話があんのかよ……っ! よっ、令和の錬金術師! 極東のロスチャイルド! いやいやマジで最高の作戦じゃねーか! デメリットといえば……」

「そうね、一つだけ。カップルの演技を続けなければいけないという試練はあるわね」

「仕方ねぇ……やるしかねーだろ……!」

「そうね! こういうのは継続することがファンを獲得する秘訣だから一生やめることが出来なくなりそうだけれど……仕方ないわね!」

「だな! 仕方ないもんな!」


 ああ、これもう絶対俺こいつと結婚するわ。


 こうやってグダグダと付き合うこともなく、明確に恋人関係になることもなく、こんな感じでダラダラとやっていって、あとはお互い適当なタイミングで結婚だな。

 そんで夫婦になっても特別何か関係が変わることもないんだろう。今まで通り、ずっとずっと俺たちはこのままだ。


 だから結局、俺たちは永遠に恋愛することなんてねぇんだ。


 やっぱりこいつは俺にとって、いつまでも永遠に――世界で一番恋愛することがありえない人間だ。


 大好きだぜ、リコ。


 リコが笑ったから、俺も笑ってその唇にキスをした。

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