最終話 必ずあなたを見つけるから
「あいつは・・・魔女の霊よ。」
魔女?魔女ってあの魔女?
じゃあ、あたしは魔女ッ子になるところだったの?
「そんな可愛いもんじゃないわ。人に害をもたらす邪悪な魔女よ。あいつは・・・男が嫌いなの。だからあなたが選らばれた。属性があいつに似てるから・・・」
まあ、確かにあたし男が嫌いだけど。でも、殺したいほど嫌いな訳じゃないよ。ただ壊すだけだよ?女の敵だけを。
えっ、普通だよね。
「そうね。あなたには悪気がないものね。でもこれだけは・・・」
そこまで言って、彼女は言葉を切った。目線は小屋の開けっ放しの扉の方へ向けられている。あたしもそっちを見てみた。
そこには、黒い布で身を包んだ女性が立っていた。その姿は幼女とも、老人とも捉えられない。もしかして・・・魔女?
「全く・・・とんでもない子じゃな。ワシの分身を倒すとは・・・気に入ったぞ。」
やっぱり魔女だった。
う~ん。気に入られたくないなぁ。
あたしは落ちている斤を手に取る。魔女なら殺っちゃってもいいよね。
「ダメ。今あなたが倒したら、あいつはあなたの中に入ってくる。それだけ今のあなたはあいつに近くなってるの。」
じゃあどうすればいいの?黙ってやられればいいの?
「大丈夫。聞いて・・・」
彼女はあたしに耳打ちする。
・・・
・・・
・・・わかったよ。あたしはあなたを信じる。
あたしは斤を捨て、黒い石を拾い上げる。石の大きさは直径3cm程。それを・・・
パクッ ゴクリッ
口に入れ、飲み込んだ。
「まさか・・・させるかァァ!」
何を慌てたのか、魔女はあたしに襲いかかってきた。
でも魔女の長い指が、腕があたしに触れる寸前で、ピタリと止まったの。
魔女はあたしにそれ以上近づけないでいた。何故ならあたしは今、淡い光に包まれ彼女に守られているからだ。
優しい感覚。こんな状況なのに、今あたしはとても幸せな気持ちになっていた。心の中にある黒いモヤモヤみたいなのが晴れていくみたいだ。
「やめろぉぉぉ!!!」
魔女は更に悲鳴のような声を上げる。
そっか。きっとあたしに憑依するための何かを失ったんだろう。これが彼女の言っていた作戦。これで魔女が倒せる!
でも、不思議とあたしは魔女を殺したいとは思わなくなっていた。殺すのはいけないことだと思ったんだ。
・・・今までのあたし、どうかしてた?
魔女は慌てて小屋の中の御札を剥がしまくった。変な模様も長い爪で傷をつけている。
「こうなったら始末するしかないね。」
魔女はそういうと、あいつを呼び寄せる。あのキモイあいつだ。
改めて見なくても気持ち悪い。あたし、こんなのをやっつけたの?
「もう手加減無用。八つ裂きにしておしまい。」
その一声で、あいつはあたしに飛びかかってきた。
「もう大丈夫よ。」
いつの間にか現れた彼女が、あたしの前に立ち塞がる。
ダメだよ!危ない!
あたしはいっぱい心配した。あんな変態化け物にあなたを汚されたくない!
でも・・・
心配はいらなかったよ。
あいつはあの長い爪で攻撃してきたけど、彼女は蚊でも払うかのように左手で弾き飛ばしてた。
驚く魔女とあいつ。そして彼女はあいつの顔をガッチリ掴み、そのまま壁に激突させる。
たったそれだけのことで、彼女はあいつを絶命させたんだ。
「バカね。あたしみたいなものから自分を守るために、生前折角作っておいた結界をわざわざ自分で壊しちゃうなんて・・・お陰で動けるようになったわ。」
あたしもビックリしたけど、魔女はもっと驚いてた。
「なっ・・・お前、まさか・・・」
何かに気が付いたみたいの魔女。
?何だろ?
彼女は口を開く。
「やはりゴーストイー・・・」
何かを言おうとしたみたいだったけど、魔女は彼女の口に吸い込まれていく。吸い込まれる直前には、人の形から霊体に変わっていた。断末魔の叫びを上げる間もなく、魔女は彼女の口の中へと消えていったんだ・・・
夜の・・・本来当たり前だった静寂が訪れる。
辺りにはもう魔女もあいつもいない。いるのはあたしと、彼女だけ・・・
「これでもう安心ね。夜が明けたら帰りなさい。家族や友達が心配してるわよ。」
わかってるよ。
でも今は帰りたくないの・・・
あなたといたいの!
「気持ちは嬉しいわ。でもね、ここにいるあたしはあたしのほんの一部。長くはいられないの。」
・・・あなたは一体何者なの?
その一部の力で魔女とあいつを簡単に倒しちゃうし、あたしの中の黒いのも取ってくれた。
・・・人間じゃ・・・ないの?
もしかして、天使とか?
「フフフッ、あたしはそんな神聖なものじゃないわ。でも、人間じゃないってのは当たりよ。ごめんね。あたしを好いてくれてるのに・・・嫌いになっちゃったわよね。」
切な気な表情を見せる彼女。
そんなことない!あたしはどんなあなたでも好きなの。
あなたを・・・愛してるの!
あたしは今まで言葉にして言えなかった気持ちを彼女に伝えた。
「ありがとう・・・今はお別れでも、きっとまた会えるわ。だって、あなたはあたしの一部を持ってるんだもの。」
彼女の一部って、あの石のこと?あたしの身体の中にはあなたがいるのね。
・・・凄く嬉しい・・・
気がつくと、彼女の身体が透けてきていた。
ダメ・・・待って・・・行かないで・・・
あたし、あなたがいないと・・・
「あなたなら大丈夫。この危機を乗り越えられたんだもの。きっと幸せになれるわ。あっ、でもこれだけは言わせて。男はね、悪いやつばかりじゃないの。中には女性を守るために身を呈して生きている人だっている。偏見を持つのもいいけど、それだけは忘れないでね。・・・それじゃ、さよなら・・・帰り道、毒虫とか蛇には気をつけてね。あたしの専門外だから・・・」
待って!!!
彼女の姿は完全に消えていた。
でも、それでも・・・
あたし、あなたに会いに行くから!
必ずあなたを探し出してみせるから!
だから、その時は・・・
・・・
・・・
朝がきて、あたしは下山を試みた。
今日は何だか行けそうだ。あんなにわからなかった帰り道も、ここに来た時に通った道を今は思い出せている。
楽勝楽勝~~♪
彼女から言われた通り、虫とか蛇とかに気を付けながら歩いたよ。そしたらあっという間に夜。でも何とか麓に降りることができたんだ。
あたしは民間に助けを求めた。だって、こんなボロボロの服着てるし、このまま電車に乗って帰れないじゃない?
だから思いきって訪ねてみたんだ。そしたらね、その民家に住んでいるおばあさんがスッゴクいい人で、警察署に連絡してくれたあと、お風呂貸してくれたり服を貸してくれたりしてくれたんだ。久しぶりにさっぱりできたよ。
おっと、そうこうしてるうちにパトカーがやって来た。後部座席にはお母さんが乗っている。
お母さんはあたしに抱きつき、いっぱい泣いてくれた。ごめんね。心配させて・・・
こうしてあたしは、家に帰ることができたんだ。
そして、またあの平穏で空虚な日常を送ることになった。
・・・それにしても何だろ。この違和感。どこかであのおばあさんに会ったことがあるような・・・
・・・一週間後・・・
いつものように、当たり前の日常をあたしは過ごしている。
そうそう、あたし、あと数週間で15歳になるの。
15歳・・・あたしの1個上の彼女がいなくなったのも15歳。しかも誕生日だった。
・・・あたし、あなたを見つけるよ。
頑張って生きて、きっとあなたを探すから。
必ず探し続けるから・・・
そして会うことができたら・・・またあたしを強く抱き締めてね。
それまでは・・・
サヨウナラ、カエデちゃん。
夜来るあいつ 猫屋 こね @54-25-81
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます