第4話 彼女

 あいつとの激闘(?)から二時間位経ったかな。あたしは小屋に戻った。まず最初に窓を開けたよ。だってあいつの臭いが凄かったからね。その後、ロウソクの芯にライターで火をつけ、あちこちを照らしてみた。

 臭い以外、何にも残ってなかったよ。肉片も、あの気持ち悪い粘液も、な~んにも。

 えっどういうシステム?

 でも、不思議とあんまり驚かなかった。あんな化け物が存在してたんだもん。もう生半可なことでは驚けないよ。


 あたしは彼女の写真を見て報告した。


 やったよ。あたし、あいつをやっつけたよ。


 その時だった。バックからいつの間にか出ていたあの黒い石が光出したの。


 そして・・・彼女が現れた・・・


 頭真っ白のあたし。自然に涙が溢れてきた。

 だって・・・いなくなってしまった愛する人が目の前にいるんだよ?

 でもあたしの喜びとは裏腹に、彼女は険しい表情をしてる。

「今すぐここから逃げて!この中の結界は今とても弱くなってるの。外にいるあいつの分身があなたを襲いに来るわ!だから早く逃げ・・・」

 そこまで言って彼女は消えてしまった。そしてそれと同時に・・・


 バンッ!


 勢いよく小屋のドアが開いた。ビクッとなったあたしは恐る恐る振り返る。


 そこには・・・あいつがいた・・・


 巨人のようだった本体に比べ、だいぶ小さい。でも普通の人間くらいの大きさはある。

 そいつはじわりじわりとあたしに近づいてきた。


 ん?一気に来ないな。


 そうか。彼女は言ってたね。結界がって。

 ということは、弱くなってるだけで効いていない訳じゃないんだ。


 じゃあ勝てるかも・・・


 あたしは斤を拾い上げ、振りかぶり、あいつを切りつける。


 ザシュッ


 腕を切り落とした。


 ギャガァ!


 やった!ダメージを与えることができたよ。これはいけるね♪


 あたしは再び斤を振りかぶった。だけどあいつは口から長い舌を出してあたしの足を絡めとり、転ばせたんだ。


 イタタタッ!


 思いっきりお尻と背中を打ったよ。でも痛がってる場合じゃなかった。

 あいつはあたしに覆い被さってきて、あたしの服を脱がそうとしてきたんだ。長い舌はあたしのスカートの中に入ろうとしてきている。


 ちょーキモいんだよ!!えい!


 グチャッ!


 あたしはまたしても、あいつの股間を思いっきり蹴り上げてやった。


 グモァァァ!!


 痛みで悶え苦しむあいつ。

 学習しないのかな?


 あたしは斤を振り上げる。でも今度は腕に舌を絡めてきた。そしてもうひとつの舌で、あたしの全身を舐め回し始める。


 うわっ、気持ち悪い!くすぐったい!


 ・・・!?・・・んっ!・・・


 あいつの舌はあたしの敏感なところも執拗に舐めてきた。


 もう耐えられない!こいつ殺す!!

 

 あたしは強引にあいつの舌から逃れると、斤を振り下ろした。

 あいつの股間めがけて・・・


 グシャァ


 !!


 悲鳴にならない悲鳴。あいつは両方の口を限界以上に開き、舌をジタバタさせてる。

 あたしはもう一度振り上げ、同じところに振り下ろす。


 ~~~~~!!!


 口や股間からドロドロの粘液を出して、のたうち回るあいつ。


 まだまだ・・・


 アタシは何度も何度も同じところを斤で攻める。


 死ね・・・死ね死ね死ね死ね死ね死ね!


 もうあいつは絶命していたけど構わない。

 あたしは斤を振り下ろした続けた。


 何だか楽しくなってきたよ。


 まるで、世界中の性犯罪者の股間を潰してるみたいだ・・・


 ああ、凄く気持ちいい~♪


 ハァ、ハァ、ハァ・・・


 あたしは快感を覚えてしまった。もうあいつの身体はぐちゃぐちゃだけど、興奮が治まらない。


 ああ、ダメ・・・変になっちゃいそうだよぉ・・・


 何だか自分が別の生き物になってしまうような感覚。このままじゃ・・・

「ダメ!戻ってきて!こんなのあなたじゃない!」

 背後から彼女の声が聞こえた。


 ・・・?


 ・・・・・・!!!


 あたし、何やってるんだろ!


 急いで斤から手を離したよ。手に伝わるこの気持ち悪い感触が嫌だったから。

 ああ、でもダメ。興奮が治まらない。

 あたしは両肘を抱えうずくまった。身体が熱い。どうしよう・・・誰か、この疼きを鎮めて・・・

 あたしがパニックになっていると、彼女が後ろから抱き締めてくれた。

 柔らかくて、暖かくて、優しい彼女のぬくもり。それだけでもあたしを落ち着かせてくれた。

 その上更に・・・


 彼女はあたしの唇に、自分の唇を重ねた。

 夢にまで見た彼女とのキス。

 あたしは完全に自分を取り戻すことができたよ。

「よかった。戻ってきてくれたようね。」

 吸い込まれるほど美しい笑顔で彼女は言った。

「あれを見てみて・・・」

 彼女の言った方を見ると、すでに肉塊と成り果てたあいつが透けて見えなくなっていく。

 えっ何?無くなっちゃったよ?

「あいつが見せた幻よ。あなたが戦っていたのはあいつの本体じゃないの。」

 どういうこと?だって、制服ボロボロにされたし・・・身体舐め回されたし・・・

「そうね、幻と言っても、全く実体がない訳じゃない。あれは念体だからあいつの思うように動くし触れる。」

 じゃああたしを・・・犯そうとしたのは?

「あいつはあなたが欲しいの。あなたの身体が。あなたの心が。だからあなたを闇に落とそうとしてる。あなたの精神を壊してあなたを乗っとるために。」

 えっじゃあ悪い霊があいつを操って、あたしを犯して、ボロボロになったあたしに入ろうとしてるの?そんなの・・・何であたしなの!

「あいつはあなたがこの山に入る前からあなたに憑いていたのよ。あなたを操ってここに来させた。」

 あたし、操られてたの?だってあなたのお葬式の帰りに・・・

「思い出して!あたしは・・・死んでないよ!」

 ???


 えっ、だって・・・交通事故で・・・

 あれ?何の交通事故だっけ?

 お葬式も何でこんな遠くの山の麓でやったの?全然彼女の家と違う場所じゃない。

 っていうか・・・ここ、どこ?


 あたしはやっと正気に戻った。

 そうだよ。彼女は死んでなんかいない。でも、誰にも何も言わずどこかに行っちゃったんだ。

 会えない日々、その喪失感が凄くて・・・毎日ぼーっとしてた。


 きっと、そこにつけこまれたんだね。


 でも何でここに彼女がいるの?

「この石はね、お守り石なの。あなたに何かあった場合、あたしが守ってあげられるように。あたしがあの町を出る前にこっそりあなたのバックに入れておいたんだけど・・・でも、この結界があって中々助けに来れなかったの・・・ごめんね。怖い思いしたね。」

 謝らないで。

 あなたに会えた。あなたと唇を重ねることができた。

 あたし、それだけで十分救われたから・・・


 ん?ちょっと待って・・・


 じゃあ、あいつって誰なの?

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