第60話 かのリリカル社畜のファンである
さて、51話から続いてきた紹介シリーズもラストです。栄えあるラストを飾るのは「リリカル社畜」で有名な淡島かりすさんです。
同じくエッセイを書く身として「こんなブラックな仕事生活をハードボイルドかつコミカルに出来るのは素晴らしいなぁ」といつも感嘆の息を漏らしています。今回は『毎日ろくでもないことに脳みそをフル回転させるのが生きがいなので、これを読んで何か得ることは期待しないように。』と前置きしている日常エッセイを取り上げますが、前作の社畜エッセイもめっちゃ笑えます。言っちゃ悪いですが、普通の人なら多分3回くらいは死んでるんじゃないでしょうか。それくらい過酷です。でも、過酷に見せないのがリリカル社畜としての腕の見せ所ですね。違いますかね。
さて、突然ですが、みなさん歯を抜いたことはありますか?
僕は親知らずを4本抜きました。定期健診に行った時、歯磨きするのが楽と言われたので即決です。1本は虫歯になりかけていましたが、幸い生え方は綺麗だったので痛みもなく全てさっと抜けました。今では電動歯ブラシデビューもして、歯の健康なり、身体の健康なり、頭以外の健康はばっちりです。
しかし、やっぱり歯も身体も頭も人それぞれ。友人は親知らずが斜めに生えていて、歯ぐきを切開して歯を取り除き、1週間は痛みと熱にうなされたとのこと。歯を抜いた次の日から文字通り血の味を噛み締めながら普通に寮の食事を食べていた僕とは経験が違う……。
そして、淡島さんもその大変な方の人間なのです。生え方が悪いとか、虫歯になったとか、そういう理由だったら、まぁ、普通なんですが、淡島さんは一味違うんですよ。「えぇ、そこなの……?」と読んでいる方も困惑出来ます。
モテる人って男女問わず共感力があると言います。が、淡島さんの場合は本人も困惑しているであろうことに、読者も困惑してしまうというか。あるある、じゃなくて、そんなことある? タイプを一緒に体験できる文章世界ですね。いや、現実世界なんだけど。共感の方向性が逆なのが面白いです。文章力はもとより、だからこそ魅力的なのだと思います。
ちょっと話は逸れますが、ヒーローって下手すると嫉妬の標的になるじゃないですか。生まれながらの純血サラブレッドとか、そもそも人種が違う(サイヤ人)とか、残酷なことに一般人では到達できない域にいます。人はそれに憧れを持ちますが、同時に羨ましいと思ってしまうことがある。ヒーローは「君の気持ちもわかるよ」と言葉を投げますが「才能を持って生まれた奴に何が分かるんだよ!」と反発したくなるやつですね。構造として共感が成立しにくい土俵があります。
ですが、淡島さんは違う。才能を持って生まれた淡島さんですが、なぜか民衆からも共感を得てしまう。「え、そんなこと普通ないけど、それは大変だよねぇ」と。分からないんだけど、分かっちゃうんです。才能があるからこその苦悩が一般人と同等レベルなんですね。サイヤ人に生まれてしまったばかりに、注射の針が通らなくてただの予防接種が全身麻酔が必要な大手術になってしまう、みたいな。「分かるよ」とか言わなくても、その行動を見ているだけで民衆が勝手に「わかるわぁ」ってついて行っちゃう、みたいな。
僕はこれを不憫属性と呼んでいますが、いかがでしょうか。持って生まれたのに不憫な人、いませんか。何だか応援したくなりません? 自分より凄いと分かっているのに、それでも「頑張れ」って言いたくなるんです。なんだかね、そんな感情がじわりと出てくるんです。まさに
ともかく読んでみて下さい。じんわり、温かな気持ちになれますよ。
淡島かりす
空洞に穴を穿つ / 7.歯への衝撃で自白する
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896704158/episodes/1177354054897450311
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