第59話 下らない人間くらいが丁度いい どうせ下らない世界だ
八月三十日、日曜日。二日酔いで午前中は吐き続け、予定していたゴルフはキャンセルし、Youtubeでドンキーコング(スーファミ)の
「ほんと、バカじゃないのか」と思います。昨夜頂いたお食事をトイレに戻し、金をどぶに捨て、時間を浪費して、おのれのアルコール分解酵素の働きを怨む。一人で死にそうになりながら「僕は下らない人間だ」と再認識していました。
実際、僕は(客観的に)僕が生きている意味なんてものはないと思っています。もっと言えば、(客観的に)人間が生きている意味なんてないと思っています。偉人も、愚人も、運命的な出会いをしたカップルも、人生を楽しんでいる独身も、全部が全部、たまたまそうあっただけ。前世の行いとか、意味を持って生まれてきたとか、そういうものではなく、運があって努力したかの違い。悲劇的にも(才能の無い)多くの人は運がないだけなんです。
こう聞くと「そんな夢も希望もない」と思うでしょうか。違うんです。こうした考えを出発点にするから、夢も希望も持てているんです。ニーチェが提示した「積極的ニヒリズム」と言う概念を援用しましょう。積極的ニヒリズムとは、「すべてが無価値・偽り・仮象ということを前向きに考える生き方。つまり、自ら積極的に『仮象』を生み出し、一瞬一瞬を一所懸命生きるという態度」(Wikipedia)です。永劫回帰は置いておいて、とにかく、「何ごとにも意味なんてないから自分で創って楽しめばいーじゃん☆」というニーチェの有難いお言葉は、もやもやとしていた僕の考えを形にしてくれたような爽快感がありました。
また、体調が悪いときは気持ちも落ち込むことが多いのですが、そんな時に「僕は下らない人間だ、そして、この世界も下らない」と積極的ニヒリズムを思い起こさせてくれるのが、タイトルにしたAmazarashiさんの楽曲です。
別連載している音楽紹介エッセイでやっても良いのですが、僕の気分的にこちらで紹介したいと思います。批判は受け付けます。
「それを言葉という」という歌なのですが、歌詞を表示してくれるスピーカーとコラボレーションしたMVが秀逸です。この歌は歌詞を見ながら聞いて欲しいですね。積極的に言葉を届けようとしているカクヨムユーザーならば、秋田さん(ボーカル)の言葉に対する想いに共感できる人が多いかもしれません。
少し歌詞を引用しましょうか。
――――――
期待出来ない時代に 期待されなかった僕らは
「あいつはもう終わりだ」と言われながら 屈折した尊厳はまるで青く尖るナイフだ
幸福を競い合うのに飽きて 不幸比べになったらもう末期だ
僕が歌を歌って得る安心と あの娘が自傷行為して得る安心の そもそもの違いが分からない
どっちにしろ 理解しがたい人の集まりの中で 自分さえ理解出来ない人間の成れの果てだ
やり遂げる事で得る満足も 小銭と同じであっという間に消費した
――――――
僕たちの言葉にできない気持ちを代弁するのが上手過ぎる。屈折した尊厳を青く尖るナイフと表現するのも好きだし、それでいて「不幸比べになったら末期だ」と言う自嘲気味の警鐘も好きだし、安心を比較して道徳観に切り込んでいるのも好きです。
そして、一貫して伝えているメッセージはひとつ。「言葉にして」ということ。このエッセイでも「幸せは文字の上に成る」(※1)と言ってきた通り、まさに共感の嵐です。その上、秋田さんは「伝える事をさげすんだりしない」と肯定してくれます。
だから僕はこの歌が好きなのでしょうか。気持ちが軽くなると言うか、こうして恥しか晒していないエッセイを書き続けることを正当化できる気がします。いつかは教祖となって崇め讃えられるとしても、今はまだ俗人の身。その理想と現実のギャップに嫌になりそうですが、下らない人間で丁度いいんですって。だって、世界も下らないんだから。この発想の転換。すごいですよね、奥様。
カクヨムでも「下らないエッセイですが」と謙遜される方をよく見かけますが、それで良いんですよ。マサイ族の戦士も失明するような金銀財宝の輝きに埋もれている人とか、ジローラモでも口説き疲れるほど美女に囲まれている人とか、そんな世界に住んでいる人はくだらなかったらダメかもしれませんが、普通の人は下らなくて良いんです。どんどん、書きましょう。僕は「チョコなしのトッポ」みたいな記事を書き、「それはただの棒なり」とツッコまれていても、平然とこうして文字を晒し続けているんですからね。臆することはありません。むしろ、その下らなさだけは褒めて欲しいです。
――――――
「言葉にすればたやすくて」って言葉にしなきゃ分かんねぇよ
君は伝える事諦めてはだめだ それを届けて
――――――
そうなんです。
どれだけ幼稚な言葉遣いだろうが、伝えることを諦めてはだめです。
だから、僕も今日一番伝えたいことを言葉にして終わりたいと思います。
「お酒を飲む時は、水も飲め」
地獄を見たくない人は心に留めておきましょう。
Amazarashi / それを言葉という
https://youtu.be/YaR9gzJ8RUc
スピーカーの周りで移り変わる本も良い味出していますよね。三島由紀夫や安部公房、寺山修司など、本好きにはぐっとくるかもしれません。
※1 第27話 幸せは文字の上に成る
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893700544/episodes/1177354054895019123
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