第3話「クラス見学と初めての友達」

 豪華な昼食パーティーは、恙無く終わった。

正直、話し相手が見つからなくて、ずっと食べていただけなので、特に楽しいとも思わなかった。


 前世で高校卒業まで経験していると、7歳児というものが、どうも子供に思えてしまう。

いや、自分も子供だけど。


 ......それはわかっていても、流石に騒ぎすぎだろう。


 食べながら話しかけて来るし、口の回りは汚しまくるし、落ち着きはないし。


 最初のうちは、なんとか相槌を打って話してみたり、口の回りを汚しながら食べている子の面倒を見たりしていたが、だんだん面倒になってきてしまい、最終的には一人で黙々と食事をしていた。


 ある程度食べて満足すると、端の方で子供達の様子を観察して、危ないことをやりそうなら止められるようにしていたが、流石に保護者も一緒にいるから僕の出番はなかった。


 そして、ようやく午後の時間だ。


 この時間で保護者は先に帰宅する。

そして、子供だけでクラス見学をするのだ。


 ようやく新しい生活が始まると、ワクワクしながら集合場所で先生を待っていると、先ほど説明会を担当していたエリーヌ先生が保護者の見送りから戻ってきたのが見えた。


「はい、それでは、明日から通うことになる教室に案内しますね」


 先生はそう言って全員いることを確認すると、一番後ろを歩いて誰も遅れないように注意しながら引率を始めた。


 何となく、幼稚園を思い出す光景だな。年齢的には小学生か。


 そんなことを考えていると、あっという間に教室に到着した。

1階の東側。E・B・Pクラスだ。


 教室に入ると、30人くらいの生徒が自由に過ごしていた。

机を並べて勉強している姿や、お喋りをしている姿。

予想していたような授業風景はなく、教室の片隅に先生が2人座っているだけだった。


 教室はとても広く、最大で60人は入るのではないかと思えるほどだった。

教室の奥には、扉続きで2つ部屋があり、”個別試験室 空”と書いたプレートが書かれていた。

 

 ......あの部屋で個別試験を受けるのだろう。


 僕たちが入ると何人かの生徒はこちらを見て反応をしたが、大多数の生徒は無反応だった。

入学者に慣れている生徒と、慣れていない生徒だろう。


 この世界では、春夏秋冬で誕生日は決まっている。

1年に4回も新入生が来れば、流石に慣れる生徒が多いのも頷ける。


 そんな中で、僕たちが入ってきたことに一番反応した生徒がいた。

見た目的に、年上だろう。恐らく9歳の生徒だ。

僕たちの方に駆け寄ってきて、自己紹介を始める。


「こんにちは。入学おめでとう。それと、ようこそEBPクラスへ。このクラスで年長Pクラスのジュリアンです。リーダーでもあるから、わからないことがあったら聞いてくれ」


 そう言って笑った少年は、明るい茶髪に緑の瞳が特徴的な優しそうな少年だった。

元気に挨拶をして、礼儀正しく先生に話をしている姿は、学級委員のような印象だ。


「先生、新入生にクラスの説明をするのは任せてください」


 そう言って期待を込めた眼差しをエリーヌ先生に向けている姿は、なんだか微笑ましい。

先生も微笑ましく思っているのか、笑顔でジュリアンに説明役を任せている。


「そうね、じゃあ、お任せしましょう。困ったら先生に言ってね」


 先生はそう言うと軽くジュリアンの背中を押して、いつでもフォローに入れるよう、彼の後ろで見守るように立った。


 説明役を任されたジュリアンは誇らしそうに一度笑ったあと、張り切って僕たちに説明を始める。


「じゃあ、説明するね。この教室には7歳から9歳の子がいて、それぞれで勉強をしています。教科書を使って、自分で勉強してもいいし、上級生に聞いても大丈夫。教室内でなら、他の人の迷惑にならない程度のお喋りもしていいけど、基本的には勉強かな。奥にある試験室は、個別試験を受けるときに使う部屋で、防音室になっているから静かだよ」


 ざっくりとした説明がジュリアンからされた。

続きがあるのかと待ってみたが、ジュリアンはやりきったような顔をしている。

恐らく、これで説明が終わったと思っているのだろう。

先生も、後ろで口を出していいのか困った顔をしているのが見える。


 ......ここは、質問していくべきだろう。


 質問をしなければ先に進まない空気を感じて、ゆっくりと挙手をした。


「えっと、質問いいですか?」


 そう言ってジュリアンの方を見る、一緒に説明を受けていた生徒からも注目を浴びた。

早く質問の許可を出してほしいのに、ジュリアンは首をかしげて中々許可をくれない。


「エドワードくん、質問ってなにかな?」


 見かねた先生が、ようやく許可をくれたので、挙げていた手を下ろして質問をしようとするが、緊張してしまってうまく言葉が出てこない。


 緊張を解すように、ゆっくりと息を吸って、質問するべきことを頭のなかに思い浮かべる。


......質問したいことは2つだ。年齢の見分け方と、個別試験の受け方。


 質問事項を頭に思い浮かべてから、今度はゆっくりと息を吐く。


「2つ、質問です。まず、上級生はどのように見分ければ良いでしょうか? 次に、個別試験を受けたいときはどうすれば良いでしょうか?」


 なるべく早口にならないように、丁寧に質問したつもりだったが、なにか失敗しただろうか。

質問の答えが先生から返ってこない。

先生の方を見て質問をしていたから、先生から返ってくることを期待していたのだが、予想に反してジュリアンが答えた。


「上級生はバッチを見ればわかるよ。君たちのバッチはE。僕のバッチはP。毎年誕生日に新しいバッチがもらえるんだ」


 そう言って、ジュリアンはバッチを指差した。

そう言われて、よく見てみると確かに僕がもらったバッチにはEの文字が描かれていた。

ジュリアンのバッチは同じ形ではあるが描かれた文字がPだ。

これで年齢が分かるらしい。


「それと、個別試験は試験室の前に座っている先生に声をかけたらいつでも受けられるよ。でも、毎回問題が変わっちゃうし、一度受けると3ヶ月は受けちゃダメだから、よほどの自信がないと受ける人は少ないかな」


 それはそうだろう。

僕だって、高校生までの知識はあるけれど、この世界での必要知識がなんなのかは知らないから、安易に受けようとは思わない。


「ありがとうございます」


 答えてくれたお礼を述べて、これ以上質問はないことを示すと、今度は別の子が手を挙げた。


今度はジュリアンも挙手の意味がわかったのだろう。すぐに反応をした。


「質問かな。えっと、名前から教えてもらっていいかな」


 そう言われて、挙手をした子が話し始めた。


「あの、アレックス・ケフェウスです。質問です。ジュリアンさんはリーダーといってましたが、どうやってリーダーは決まるのでしょうか」


 消え入りそうな声で質問を終えた子は、アレックスというらしい。

先ほどの昼食でも静かに食事をして、子供達の話しに相槌を打っていた子だ。


「リーダーは、Pクラスに上がったときに成績が一番だった子がなるんだ」


 ジュリアンはそう言って少し誇らしそうに答えた。


 なんと、ジュリアンは成績優秀なのか。

何となく、目立ちたがりの子供なだけで成績は中くらいの印象だった。


 ......人は見た目によらない。覚えておこう。


 その後は特に質問も出てこなかったので、クラスで自由行動になった。


 自由行動になっても、何となく馴染めなくて一人で教科書を眺めていると、アレックスが声をかけてきた。


「あの、エドワードくんだよね」

「あ、うん。そうだけど......」


 教科書から目を上げてアレックスを見ると、彼は緊張した様子で教科書を僕の方に差し出した。


「よかったら、明日から一緒に勉強しない?」


 差し出された教科書の意味が解ると、アレックスの初々しさが可愛く思えてきた。

何となく弟ができたような気分になり、僕はなるべく優しく見えるように笑顔を向けた。


「もちろんいいよ。よろしくね、アレックス。僕のことはエドワードで良いよ」

「ありがとう! エドワード。明日からよろしくね」


 嬉しそうに笑って、走り去ったアレックスを見ていると、明日からの学校も楽しく過ごせそうだなと自然と思えてきた。


 この世界で初めての友達だ。


 明日からの生活にワクワクしていると、あっという間に時間は過ぎて、下校時間になっていた。

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マルクス探偵事務所の見習いエドワード 橘 志依 @shi-i

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