度々旅
@kurukrubba
プロローグ 何処も彼処もここは異世界。
「ある日、夢を見ました」
夏でした。蒸された木々の間で虫が騒ぎ、太陽はかんかんと照っています。
小さな木造の家は古い日本の古民家のような出で立ちで、屋根は真緑色の苔を生やしていました。簾のような、木の繊維で編まれた布は、その民族に伝わる幾何学模様になっており、縁側にかけられています。布は不思議なもようの影を作り、座る老人と、ぽつりと声を漏らした少年の顔にも模様を落としていました。
「たぶん、神様とかそんな類の、人の形をしたやつで、僕は潰れないようにしているのが精々だったのを今でも夢に見ます」
そう言う少年の髪は真っ白です。
衣服はと言うと、この世で言う学ランでした。十代後半から中頃の顔立ちでした。
しかし老人と並んでいるので、遠目には二人の年寄りが縁側で涼んでいるようにも見えます。老人の服はペラペラの布を幾重にも重ねた、服というより布を巻き付けているような物でした。
少年は遠い昔を思い出すように目を細め、自分の記憶を探り、視界にかかる白髪に焦点が合いました。そろそろ切らなくてはなりません。そう言えばこの髪も昔は黒々と艶めいていました。
「……髪が、黒かったんです、昔。僕の世界では至って普通の子供でした。もう、余り思い出せないんですけど、ある日いきなり世界が揺らいで、そこに神様みたいなのがいて、僕に言うんです『君は選ばれた、悲しい世界に生まれたね。しかし選ばれた。だから外に出なければならない、そして……』……この先でいつも思い出せなくなるんです」
そう言って少年は曖昧に笑いました。
吹く風は冷たく、止まる空気は熱く、めちゃくちゃな気候です。
鳴いている虫は地面から木のように生え、その場で合唱しています。ここは異世界。
少年の生まれた地ではありません。
「僕の名前は、仮として、マルと名乗っています。昔のあだ名です。僕は世界をあちこち巡って、旅をしています」
彼は世界を転々と渡り、旅をさせられています。それは何故なのか彼自身わかりません。
元の世界に帰らなければならないのですが、記憶もイマイチぼんやりと靄がかっており、元の世界のことはあまり思い出せません。
老人は何度か頷いた後、よろよろと立ち上がり、暫くしてスイカのような、しかし全体的に青い果実のような物をマルに出しました。
マルは老人にお礼を言って一口齧ろうとして、食物に祈りを捧げる彼の姿を見て慌てて同じように手を合わせました。
これは彼の運命を見つける物語です。
度々旅 @kurukrubba
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