第3話 インキャラ目覚めたってよ。
ごぉぉお ごぉぉぉぉ おおぉぉぉぉぉお
空間を切り裂くような凄まじい轟音が鳴り響いていた。
その轟音の核を熟視すると禍々しい姿をした影のような物体が堂々とたたずんでいた。
物体が動いているというよりその物体の周りの空間が歪んでいるような耳障りな音だ。
その影はゆっくりと、ゆっくりとユートの側に近づいていく。
「目覚めよ。ユートよ。目覚めの時だ。」
1日何回腕立てしたらそんな太くなるんだよとツッコミたくなるほどの剛腕な右手に持った杖を大きく振りかざした。
空気がその物体を中心に波紋のように広がっていくのがわかる。
「、、、くぅ、ぅぅ、、」
その影の異様な激しい外圧でユートは意識を取り戻した。
「、、だっ、だれだよ、、!」
長い間眠っていたからだろうか瞳の奥の虹彩が光に負けているからだろうか、うまく目を開けることができない。しかし、その禍々しい気配からただものではないと本能がそう感じたのだろう。
「さぁ、目覚めよ ユート。この広大な世界でお前の使命を果たすのだ。さすればお前の真の望みは必ず叶うだろう。」
その影は毅然とした声で、畏怖を感じるほどの重低音で、はっきりと俺の耳に届くようにそう轟いた。
俺は目を開けることができなかった。いや、目を開ければ殺されると思い、目を開けなかったのだろうか。
その影はそれだけを言い残し、発光と共に素粒子の如く、細かく分解されていき、数秒前にはそこにいたのかとも思えないほど跡形もなく消えていた。
「も、もう 大丈夫だよな、、、」
ようやく俺は目を開けることができた。
夢の中で見たような、美しい光景が広がっている。
「さっきの禍々しいやつはどこにいったのだろうか。」
考えるだけで頭が痛くなってくる。脳がさっきの出来事を忘れようと必死に抵抗しているのだろう。
「それにしてもいったいどこなんだよ、ここ。」
周りを一通り渡したが、人影らしいものも、建物らしきものもひとつも見当たらない。どこかに繋がる一本道が地平線までただ伸びているだけだった。
やっとの思いで覚醒した脳を少しでも何か思い出そうと酷使するが、なにか肝心なところを思い出そうとすると、強く頭が痛む。
「そーだ、そーだ、思い出したよ。」
疲れ切った脳と相談した結果、俺は「ヨウキャラデビュー」!!」という広告をみてから起こったあの一連の出来事を、そしてこれがゲームの世界だということを思い出した。
「とりあえず、村人でも探すか。」
RPGのお決まりといえばとりあえず村人と話すことだと厨二病時代の俺をなかなかに褒めている。こういう場合はたいてい道なりに進んどけばお婆さんの1人ぐらい出てくるものだろう。
仕方なく一本道を歩いていくことに決めた。
「はー、疲れた。セグウェイとかないの、、、」
俺は歩いた。歩いた。必死に歩いた。もう倒れそうだった。
生まれてこの方ろくに運動もしたことがない俺にはただの歩くことですら死を意識するほどに苦痛を感じる自分が不甲斐なく思いながらも、なんとか歩みを続けていた。
「お、おぉ なんか見えてきたぞ、」
約20分ほど歩いただろうか。目の前に1人の白髪のお婆さんが立っていた。
とりわけ、綺麗な顔つきでもなければ、汚い顔でもない、のっぺりとした顔のなんの特徴もないお婆さんだ。
恐らくこの世界の一番最初のマニュアル用のAIみたいなものなのだろう。
「もうちょっと 細かく設定してやれよ笑」
なんてユートのしょうもないツッコミを完全に無視しながらそののっぺり顔のお婆さんは話をし始めた。
「ルールは至って単純明快。死ねばGAMEOVERだ。」
「え、えぇ それだけなの?」
このお婆さんに会うために歩いてきたこの道のりの長さを馬鹿にされているように感じるほど短い説明で、ユートは絵に描いたように、目を見開いている。
「お婆さん お婆さん お願いだからもうちょっと情報教えてよ〜」
正月の日に親戚のおじいちゃんにお年玉をねだる時に覚えたありったけの上目遣いを駆使し、少しごねてみる。
「ルールは至って単純明快。死ねばGAMEOVERだ。」
壊れた古い真空管式ラジオのようにお婆さんは同じことを繰り返すだけだった。
「ちっ、ドラ○ンクエ○トでももうちょっと教えてくれるわ!」
とかいう圧倒的著作権引っかかりそうな発言を言い放ち、再びユートはその一本道を歩いていった。
薄らと遠くの方で大きな建物の影法師がちらついていた。
異世界転生したのに【インキャラ】ってなんだよ。 ばいと戦士 @baitoworrior
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