第4話変化と魔力
「なぁ、今日はどう思う?」
カイザがポツリと言う。
「何がですか?」
アイリスがやたらとニヤニヤと笑いながらそう言う。まるで、誕生日を前にしている子供のようだ。
「いや、だからアイツだよ」
カイザは嫌気がさすようにジト目で言う。
「アイツとは?」
「グウタラ教師」
カイザはソッポを向きながら言う。その顔は苦虫を噛み締めているようだ。
「誰ですか? グウタラ教師とは」
「……」
カチッという何かボタンが押されたような音がした。
「たがら! マサト!」
「入るぞー」
とその時、ガラララッというドアを開ける音と共に一人の青年が現れた。この国では珍しい黒い目に黒い髪をした青年。
「なっ!」
カイザは、表情を険しくし構える。
それを見て真斗はニヤリと笑う。
「よぉ、カイザ」
「お前! 何でここに!」
「何でって、決まってるだろう。授業をする為だ」
「はぁ! 授業だと!」
「あぁ……ま、と言った所でお前らが納得しないのは分かってる」
真斗は教卓から前に出ると頭を勢いよく頭を下げた。
「お前ら! すまなかった!」
スカーレットクラスの面々は目を見開いた。
「……何で、いきなり俺らに……」
スカーレットクラスの思いを代弁する様にカイザが口を開く。
「……別に、悪いと思ったから頭を下げた。ただそれだけだ。じゃ、授業を始めるぞ」
そう言い、真斗は黒板の前に立った。その態度はさっきまで頭を下げた者とは思えない程あっさりしている。そして、スカーレットクラスの面々の顔を見る。
「まず、俺が最初にお前らに教えるのは〈魔力流動〉についてだ」
〈魔力流動〉
魔力を人や物に流し、性能を上げたり自分の意のままに操ったりする事ができる技術。
いわば、魔術の初歩の初歩とも言える技術である。
そして、それを聞いたスカーレットクラス面々は
「プッ、プププ」
「アッハハハハー!」
「ヒーヒッヒッヒッヒッ!」
と笑い声がこだまする。
「何か? おかしいか?」
その声に他の者と違いカイザがイライラとしながら言う。
「おい! グウタラ教師。今更〈魔力流動〉ってそれ基礎中の基礎だろう。それを今更……俺らを馬鹿にしてるのか!!」
「馬鹿にはしてない。これが基礎ならお前らは基礎もできて無いという事だ」
と、そこでサッと手を挙げる人がいた。
若草のような綺麗な緑色の髪と凛とした雰囲気を持った少女。このクラスの副委員長。メラス・キューラ
「何だ? メラス」
「失礼ですが真斗先生。私達は〈魔力流動〉は小等部から習い続け、中等部で完全にマスターしたと言えます」
「マスターか。なら、お前シャボン玉で鉄板を壊す事が出来るか」
「シャボン玉。それは……って! 先生は出来るんですか! まさか自分は出来というのに、相手にはそれを要求するとは言いませんよね。第一! 何故今更〈魔力流動〉を!!」
真斗は、手に術式を展開する。すると、その術式の中に手を入れる。そして、取り出したのは子供が庭で遊ぶようなシャボン玉セットだった。
真斗はシャボン液にストローを突っ込み、ふぅと息を吐く。するとシャボン玉が出来る。そこで、真斗はシャボン玉セットを治す。
真斗は球体になったシャボン玉に手をかざす。真斗は薄く、しかし濃ゆく魔力をシャボン玉に惑わせる。次に教室の最奥に鉄板出現させるとシャボン玉をその鉄板に向けて思いっきり投げる。
シャボン玉は空を切り鉄板に激突し轟音と共に埃を舞わせる。舞った埃が止むとそこにはフヨフヨと舞うシャボン玉と貫通した鉄板だった。
スカーレットクラスの面々は驚きを通り越して呆れの域に達していた。
「俺は、出来ない事は言わないぜ。そして、〈魔力流動〉を極めたと言うならこれぐらい出来ないとな。で、お前は極めたのか?」
「す……すいません」
「分かれば良い。で、何で〈魔力流動〉かと言うと、魔華機〈エリーゼ〉にも使われるからだ。魔華機〈エリーゼ〉を操縦する原理をお前らはMGスーツを着て人機一体〈フュージョン〉をする事により動かす。と思っていかもしれないがそれは半分。もう半分はお前らが燃料を入れる行為だと思っている、魔力を魔華機〈エリーゼ〉に流す。その流す魔力に含まれている思念によって動く。つまり、〈魔力流動〉が下手な奴は魔導技術士〈エンジニシャン〉としても二流ってわけだ。そして、それはお前らが自分の目で見てるはずだ」
スカーレットクラスの面々は一瞬頭を悩ませるがそこで何かに気づいたような表情をする。
「気づいたみたいだな。じゃ、アイリス、答えてみろ〈魔力流動〉がダメだとどうなる?」
「はい! 攻撃を避けられます!」
「正解だ。カイザの攻撃を俺が避けられたのはカイザが〈魔力流動〉の技術がら二流で動きが単調そして大振りだったからだ。さて、ここまでで〈魔力流動〉の大切さは分かったはずだ。じゃ、次のステップ。お前ら外に出ろ」
その声スカーレットクラスの面々は真斗とカイザが模擬戦をした中庭に出る。
皆、手元に一つづつゴムボールを持っている。皆が疑問を持っていろところに置かれて真斗が現れる。
「遅いぞ!」
とカイザが噛み付くが、真斗は涼やかに返す。
「少し準備があってな」
真斗はそう言い指を鳴らす。すると、スカーレットクラスの面々が集まっているところから50メートル離れた所に術式が浮かび上がる。そして現れたのは人形の物体だ。しかし、顔には目や鼻の凹凸は無く関節は球体になっている。魔術の練習などに使うゴーレムだ。
「あの、先生。これはー」
「何、ただの的だ。お前らがやってもらう事は俺がさっきやったのと同じ。ここから魔力を流してボールをここから投げる。そして、アレを壊せば良い。簡単だろ」
「こ、壊すって……」
スカーレットクラスの面々の反応はバラバラだった。やってやろう、とやる気に満ちている者。
できるか不安なのか浮かない顔をする者。
やる気の無い者。
真斗は、そんな生徒達を見て口を開く。
「そうだな。なら、お前らに一つアドバイスだ。
〈魔力流動〉の基本は流す物体に合わせて流し方を変えることだ。
例えば剣なら。刃の部分に薄く鋭く流す。そして、流した魔力を剣の形に合わせて回転させる。
そうするれば、切れ味は増す。そして、もしこの授業で1発でゴーレムを買わせた奴は評価をAプラスにしてやる」
スカーレットクラスの面々に激震が走る。目つきが変わりやる気を滲み出す。
(現金な奴ら)
と真斗は少し呆れたながらも合図を出す。
「では、初め!」
♢♢♢
「オーラーーー!!」
カイザが大きく振りかぶって投げる。しかし、ボールはゴーレムに当たるがかすり傷をつけるだけで全く壊す、という域には届いてない。
「くそ!」
カイザは地団駄を踏む。
実際、この授業を始めて3日。
結局初日は誰もクリアする事は出来なかった。まぁよく考えれば当たり前だ。
一日でクリア出来るなら真斗もあんな事は言わない。
勿論、彼らでもゴムボールでゴーレムを壊す方法が無い訳ではない無い。
このクラスは魔華機〈エリーゼ〉科。つまり特徴を持った魔力。〈スキル〉クラス全員がを持ったクラスだ。
それを使えば簡単にこんな試練クリア出来るのだが……勿論それは真斗に禁止されている。
「第一魔力の流し方を変えるってどうすんだよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいカイザさん」
いつものようにアイリスがカイザが宥める。
「けどよー。普通、魔力って魔術を使う為の燃料だろ。あのグウタラ教師の言ってる事は燃料の使い方じゃなくて、燃料の流し方を手動で変えろって言ってる事だろ。そんな事出来んのかよ」
と、カイザはその場に倒れ込む。
「けど、それをあの先生はやってみせた。それも、ゴムボールよりも壊れやすいシャボン玉という者で。そこら辺が彼と僕たちの違いなんだろね。我がライバル」
横からラマが話に割り込む。その顔は疲労の色が見える。
「ラマ……で、お前は出来たのか?」
「……アーハッハッハ。さて、ソロソロ昼食だ。どうだろう我がライバル一緒に」
「まだなんだな。ま、良いけどよ。アイリスも行くだろ」
「あ、はい! けど、先に行って下さい。寄るところがあるので」
アイリスはそう言いカイザ達から離れると一旦教室に戻る。そして、自分のロッカーから小包を出す。
その足で屋上に向かう。
そこには御目当ての人物がいた。
「先生!」
「ん? 何だアイリス」
そこには今まさにスティックを開けようとしていた真斗だった。
「先生これを」
そう言いアイリスは小包を渡す。
「これは?」
真斗が小包を開けるとそこには色とりどりの具が入ったサンドイッチだった。
「これ」
「先生、前スティックしか食べてないと言っていたので。では」
そう言いアイリスは嵐のように消えた。
「……」
真斗は一口それを飾る。それは色々な具が絶妙なハーモニーを奏でる絶品のサンドイッチだった。真斗は次から次へとサンドイッチを頬張った。
そして、束の間の昼休みも終わり午後の授業。スカーレットクラスの面々は再度真斗の試練に挑むが案の定誰も突破する事は無かった。
「さてここまで。お前らゆっくり休んで明日に備えろよ」
真斗は地面にぶっ倒れているスカーレットクラスの面々に呼びかけるが返事は無い。真斗はそんなスカーレットクラスの面々に目もくれず後者に入っていった。
スカーレットクラスの面々が寮に戻るまでに三十分要した。
「おや。我がライバル? 帰らないのか?」
ラマはヘトヘトになりながらカイザに聞く。
「あ、あぁ。ちょっと用事があってな」
「そうかい。僕は帰るよ」
ラマはそう言うと他の者と同じようにゾンビのように歩きながら校舎に入っていった。
カイザは皆が帰ったのを確認すると真っ直ぐゴーレムを見据えるのだった。
銀の弾丸と機械姫 ゆーにー @Y2004kami
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