第3話真斗の実力と変化

「はぁ」

真斗は、屋上で黄昏ている。真斗は、ポケットから手に入れ取り出したのは軍用の非常食〈スティック〉だ。

 真斗はそれを躊躇なく飾る。

「相変わらず、不味いな」

真斗はポツリと言う。

 生地はパサパサ、味も薄い……どころか、全く無い。

 唯一の利点としては一本食べれば、理論上必要なエネルギーを摂取できると言う所だ。

 まぁ、ただ必要なエネルギーを摂取するだけの行為を食事と言って良いかは疑問ではあるが……

 真斗は懐から金の懐中時計を取り出す。その懐中時計には、弾丸と蝶が彫り込まれていた。真斗は、それを渡してくれた人物を脳裏に浮かび、ギュッと時計を握る。

「……時間か」

真斗は腰を上げて長身の銃のベルトを肩にかける。

 そして、屋上から飛び降りた。

 

          ♢♢♢


「ふぅ」

真斗は息を吐く。その顔には、多少の疲労が見える。あの後真斗は地上に真っ逆さまに落ち、地面に着くギリギリで体を反転させて着地。

 と、そこまでは良かった……真斗本人は。

 だが急に人が屋上から落ちれば誰だって慌てふためく。しかも、時間は昼休み。真斗が落ちのは、中庭。目撃者が多くいれば助けようとする人も多くいる。

 しかし、人が二十五メートルはある巨大な校舎から重力に逆らって落下となれば周りには否応なく被害が出る。

 真斗は着地する時、周りにいた真斗を助けようとした生徒を巻き込んでしまった。

 そうなればいくら英雄でも今ではただの教師の真斗もお咎めがくる。

 故に、真斗はあの後コッテリと学園長に縛られたのだった。

(まさか、怒られるとは……あれぐらい普通だと思っていたんだがなー)

真斗は、そんな事を言いながら教室に向かう。

「遅くなった」

相変わらず全く覇気のない言葉だ。

「えーと、授業内容は引き続き自習だ」

そう言い真斗はその場から去ろうとするがその直

階段状になり教壇が最も低いように設置された教室の真ん中の席から勢いよく椅子が飛んできた。

 真斗は、それを避ける訳でもなくただゆっくりと右手を突き出す。そして、飛んできた椅子をキャッチ。そして、バキッ!! と椅子は壊れた。

 教室はシーンと静まりかえる事3秒。怒鳴り声が響く。

「いい加減にしろ! 昨日だけじゃなくて今日の授業も自習だと! 俺らをばかにするのも大概にしろ!」

その声の主は赤い髪を持った筋肉質の少年だった。

と、そこで白髪の少女が静止する。

「落ち着いて下さい! カイザさん!」

「止めるな! アイリス! やっぱ、コイツが英雄、栄光〈セカンド〉の名〈ネーム〉保持者な訳無かったんだ! コイツはただの! グウタラ教師の、時代遅れの雑兵だ!!」

その声が教師に響くとまたもや教室は静寂に包まれる。

 静寂に包まれた。それは、つまり真斗を擁護する者は誰もいなかったという事だ。

 恐らくスカーレットクラスの皆も同じ事を思っていだんだろう。

 そんな、居心地の悪い空気を壊したのは、意外にも真斗だった。

「グウタラ教師、か。まぁ、そうだな」

「認めるのかよ」

カイザは一瞬虚をつかれたかのように目を丸くするがすぐに怒りに包まれた形相でこちらを見る。

 それに対して真斗は対照的に涼やかな表情でいう。

「認めるも何もお前が言ったんだろう。それでどうする? 学園長にでも言って辞めさせるか? まぁ、別にそれでも良い。俺は教師になりたかった訳じゃないからな。だが……そうだな。一つだけお前に授業をしてやる」

「授業、だと?」

「あぁ。外に出ろ」


           ♢♢♢


数分後。スカーレットクラスの面々は一同中庭に集められた。

「あ、シャディーさん、それにラマさんも。2人とも何処に?」

「何、我がライバルにちょっとしたげきれいを、ね」

「……うん」

「はい?」

後から着たラマとシャディーの言葉にアイリスは首を傾げたがすぐに中庭の中央に立っている真斗に目をやる。そのいでたちは教室の時と同じ服装だ。本当にやる気があるのかすら疑問だ。

「あの、勝てると思いますか?」

「普通は、無理だろうね。″人間と魔華機〈エリーゼ〉″の勝負なんて。いや、勝負にもならないだろね」

とラマは言う。

 そう、今から行われるのは決闘。それも最先端の兵器にして戦場の花形。魔華機〈エリーゼ〉と時代遅れの魔導歩兵の勝負。いな、勝負にもならないだろう。″普通なら″。

「ソロソロ、だな」

真斗が言うとそこには、ピッチリとした黒に赤のラインが入った全身タイツのようなスーツを着たカイザがいた。しかし、後ろには巨大なプラグが六本寝た形でついている。それは、魔導技術士エンジニシャンの戦闘服。MGスーツと呼ばれる物だ。

「よぉ、カイザ。逃げなかったようだな」

「当たり前だ」

真斗はカイザのその表情にニヤリと笑う。

「良い目だ。と、ここでお前にハンデを二つやる」

そう言い真斗は肩にかていた長身の銃を片手で持つ。

「これは『MGRFー12,7CM』通称〈ヘカトニクス〉という」

「『MGRFー12,7CM』!」

シャディーが声を荒げる。と、そこでハッとなりシャディーは顔を背けた。だが好奇心の塊であるアイリスはそれを見逃さない。すぐにジャディーにアイリスが説明を求める。

「知っているんですか?」

シャディーは最初は答えないつもりだったがアイリスのキラキラした目に負けて答える。

「『MGRFー12,7CM』。プレシジョンバー社が作ったこの世に十丁しか存在しないライフル銃だ。その大きな特性はパーツを組み合わせることでほぼ全ての銃に変形可能という点。けど、それを持つ者なんて軍部。それもかなり上のものぐらいしかいないと思っていたけど。やはり、あの人もただものじゃないという事だろうか?」

「さて、ハンデの内容だが。〈パージ〉」

真斗がそういうと、〈ヘカトニクス〉は一瞬光それが消えると同時にパーツがいくつか落ち銃身が長いリボルバー銃に変わった。

「俺はこれを使う。そして、もう一つだが俺は一種類の弾丸しか使わない。どうだ? 半人前のお前にはちょうど良いハンデだろう」

「舐めた事を。今に吠え面を描かせるよ!」

カイザはそう叫ぶと右手に嵌めていた指輪が赤色に光りだす。

「こい! 『破炎桜ブラスト』!!」

カイザの後ろに巨大な円に幾何学模様の文字が連なった模様が現れる。魔術を使う為の術式だ。そして、その術式から一つの鉄の巨体が現れる。

 その鉄の巨人、魔華機エリーゼは全身を赤色の装甲で覆われ右手は魔力砲。左手は人間のような腕。肩にはミサイルポッドという正に暴力を体現した機体だった。

 完全に魔華機エリーゼの姿を表すとカイザの姿が消える。カイザも目の前が暗くなる。

 カイザが次に目にしたのは巨大なスクリーン。

 そこには、真斗やクラスメートの姿が映し出されその横に文字の羅列がいくつもある。

 カイザの専用機『破炎桜ブラスト』のコクピットだ。

 と、そこでカイザの頭に声が響く。

[マスターの搭乗を確認。人機一体フュージョンします]

 カイザのスーツの背中に寝ていたプラグが立つとコクピットの後ろに備え付けられいたコードと連結する。

 これにより今、魔華機〈エリーゼ〉は完全にカイザの神経と繋がった。つまりこの魔華機〈エリーゼ〉は今カイザの手足と否、第二の体となったのだ。

[人機一体〈フュージョン〉を成功しました。続いて魔力供給をお願いします]

 カイザは自分から見て右手ある小さなボックスの穴に魔力を流している指輪をはめる。これでこの魔華機〈エリーゼ〉はエネルギーを供給され動けるようになった。

 と、そこで真斗からカイザに通信が入る。

『準備は整ったみたいだな』

「あぁ、こい! 雑兵グウタラ教師!」

その声を聞き真斗はニヤリと笑う。そして、アイリスに合図を頼む。

「アイリス頼む」

「は、はい! これより決闘を開始します。汝らは帝国騎士として、恥と悔いのない戦いをして欲しい。それでは初め!!」

アイリスが腕勢いよく下げる。

「1発で終わらせてやるぜ!!」

カイザは左手のところにある水晶。機体を動かすコントローラを操作する。それによりカイザの『破炎桜〈ブラスト〉の極大な拳が真斗に突き出される。

 地面に拳が当たり粉塵が舞う。

「やったか!」

カイザの口元が自然と弛む。と、そこで通信が入る。それは、

『何がだ?』

真斗の声だった。カイザはギョッとした。スクリーンにはカイザの繰り出した1発の隣に何事も無かったように立っている真斗がいた。

『さて、ここからは俺のターンだ』


          ♢♢♢


真斗はその場から走り出す。カイザはその真斗の姿を追いかけるように何度も拳を突き出すがそれらは全て真斗には擦りもしない。

「おいおい、その程度かよ。俺を倒すんじゃ無かったのか? 半人前」

『うるせー!!』

 カイザは今まで以上に鋭い拳を突き出すが全く当たらない。

と、そこでまたもや真斗はカイザに挑発の通信を入れる。

「どうした? お前のその武装はなんだ? 何のために魔鋼武装〈マジックコート〉を装着している? 使えよ」

 魔鋼武装〈マジックコート〉魔華機〈エリーゼ〉を魔華機〈エリーゼ〉たらしめる武装。それは、魔導技術士〈エンジニシャン〉のスキルをより引き出す為の武装。これを装着しているとのとしていないのでは、性能が三倍〜五倍は違うと言われる。

『後悔するぜ』

カイザは怒りに震えながら言う。

「二言は無い」

真斗はそれに間髪入れずに答える。

『そうかよー!!!』

カイザは、コクピットの水晶を撫でる。すると、肩のミサイルポッドが開き六発のミサイルが発射される。

 真斗はそれが発射された瞬間、地面を蹴り走る。

ミサイルが来るとジグザグに走ることで回避する。

 そして、ミサイルを全て避けると〈破炎桜〈ブラスト〉の股をスライディングで潜り背中を取る。

 そして、銃を構えるとすぐに引き金を引く。しかし、硬い装甲で覆われている魔華機〈エリーゼ〉に銃弾なぞ焼石に水だ。勿論、魔力で弾丸はコーティングしているので普通の弾丸よりも威力はある。それでも魔華機〈エリーゼ〉の装甲を貫くには至らない。しかも、すぐにカイザは障壁魔術を展開するので銃弾は装甲に届く事すら無い。

『効かねーよ!!』

 カイザの勝ち誇った声が聞こえる。真斗はその反応を聞き重たい溜息を吐く。

 再度一発銃弾を発射する。その弾丸も今までと同じ障壁魔術に遮られる……誰もがそう思っただろう。だが、そうはならなかった。

 その弾丸は障壁魔術を貫き装甲に傷をつけた。

『「「……」」』

スカーレットクラスの面々、カイザは驚愕する。

「おいおい、何を驚いてるんだ? まさか、障壁魔術に物理攻撃が効かないとでも思っているのか。まさか弾丸を変えたと思っているんじゃないだろうな。悪いがどちらも不正解だ。俺は今までと同じように、物に弾丸を流す〈流動魔術(りゅうどうまじゅつ)〉しか使ってなぜ。ま、流し方は変えたがな!」

 そう言い続けて2発、3発と撃つ。それらは装甲に傷をつけ、ダメージを負わせる。

 そう、真斗は魔力の流し方を変えたのだ。

 最初に撃っていた弾丸は、魔力をただ弾丸に纏わせていただけ。だが、今のは違う。弾丸を発砲する時纏わせる魔力に回転をつけ弾丸それ自体の貫通力を上げたのだ。

 それこそ、〈障壁魔術〉のような物理的攻撃では本来壊れないような魔術を物理的な攻撃で壊す程までに。

 カイザもいよいよ不味いと感じたのだろう。避けようとするが、もう遅い。

 カイザは水晶を撫で動かそうとするが機体は動かない。カイザはすぐに機体を調べ、目を見開いた。そこにはおよそ人間技とは思えない現象が起きていた。

『く、駆動系のパーツに弾丸を挟んる、だと』

カイザがポツリと呟く。

「やっと気づいたたか」

真斗は、そのカイザの言葉を知ってか知らずか合いの手を入れるように言う。

 そして、弾丸を装填する。

「さて、カイザ。お前にもう一つ教えてやる。俺の使う弾丸を。〈散式魔弾〈さんしきまだん〉零一メテオ〉」

引き金を引かれ、弾丸は発射される。

 その弾丸はよく見ると幾何学模様の文字がびっしりと彫られている。

 その弾丸は今までと違い青白い光を纏っている。そして、〈破炎桜〈ブラスト〉〉に直撃する3メートルの所でその青白い光は六つに分かれる。

 その弾丸が装甲に当たると同時に轟音を轟かせる。

 カイザのスクリーンは何も見えない。と、そこに敵接近のアラームが鳴る。

 真斗は足に魔力を流し空高く跳ぶ。そして、魔力を右手を手刀にして惑わせる。それもただ纏うのではなく、薄く、鋭く、纏わせる。

 そして、落下する力に合わせて装甲に手刀を突き出す。 

 その、手刀は装甲を貫く。そして、真斗はそのまま装甲を剥ぎ取る。

「なっ?!」

 カイザは驚愕する。だが、真斗はそんな事関係ないと言わんばかりに何の躊躇もなく左手でカイザの襟首を掴みそのまま背負い投げの要領でコクピットから無理なら引っ剥がす。

 カイザは重力に従って地面に落ちる。真斗は、〈破炎桜〈ブラスト〉〉から飛び降りるとそのまま、カイザの上に乗り左腕で首を圧迫し額に銃を突き出す。

「そこまでです!!」

と、そこでアイリスが終了の合図を出す。

「ま、こんなものか」

 真斗は、冷たく言い放つ。カイザは悔しそうに奥歯を噛み締める。

 真斗はそんなカイザの心情は知らないとばかりに話す。

「ま、こんな所の下級生徒なら仕方ないか」

 その言葉にカイザは頭がカット熱くなる起き上がるとすぐに噛み付く。

「こんな所って! お前! ここを何処だと思ってんだ?」

「名門ピューリアス学園。殺戮を、人殺しを教える最低最悪な場所、だろ」

       「「「「「……」」」」

クラスメートの面々は今日何度ともなる驚愕をする。だが、それも仕方のない事だろう。

 名門と名高く。全ての少年少女の憧れとも言えるピューリアス学園を「最低最悪な場所」と言い切ったのだ。

 こんな侮辱一体他に誰が言うだろう。

「お前……お前ッ!!」

カイザはさらに激昂するが真斗は変わらず涼やかに言う。

「だって、そうだろう。お前ら、化学や魔術がどんな風に発展していったか知ってるか?」

その言葉にカイザは口籠るり悔しそうに下を向く。だが、真斗は続ける。

 そう、知っているのだ。彼は。目を背けてきた現実を。

「人を殺す為だ」

真斗のそれをいう時の雰囲気は他を圧倒するオーラがあった。

 それこそスカーレットクラスとの面々を圧倒するなぞ容易な程の。真斗は尚も続ける。

「ましてや、お前らが神聖視している魔華機エリーゼなんて今の時代、殺戮の王だろう。

 なら、そんな物を操るお前らは人殺し予備軍で、ここは人を殺す為の機関ならば最低最悪の場所だと言って何が悪い。そうだな、教師らしく一つお前に授業してやる。さっきお前、英雄が何とかって言ってたな。お前、英雄になりたいなら人を殺せ。

 戦争の英雄なんて者は人を殺せば殺す程成れるんだからな!」

真斗は、今までのクールな言い方とは違った。徐々に言葉感情に支配され表情は意地悪く笑う。しかし、その目には何かを憎む感情が垣間見えた。

 他の者は黙る。

 カイザもそうだが、皆知っている。いくら英雄と称えられようとやっている事は人殺しと変わらない。

 だが、皆それを背けている。

「結局、平穏なんて他の国から搾取して作られた物。そしてお前らはそんな搾取された物の上に立って」

パァーン!! 教室に乾いた音が響く。

 真斗の頬が赤く染まる。真斗は徐に頬に手を当てる。

 目の前には、白髪を持つ少女。アイリスが手を出していた。誰がどう見てもアイリスが真斗を平手打ちしたのは明白だった。

「落ち着いて下さい!」

「おま」

「カイザさんも、黙って下さい! マサト先生も少しは冷静になって下さい!」

「……」

「……。授業はさっき言った通り自習だ。お前らで勝手にやってろ」

そう言い真斗は教室を出て行った。


          ♢♢♢


「何やってんだろうなー、俺」

真斗は、小さな公園のベンチに座っている。上を見上げれば月が白く輝き街頭には蛾が群がっている耳をすませば店の中から笑い声が聞こえるが。今の真斗にはそのどれもが真斗を拒否しているようだ。真斗は手に持っているパックの紅茶とスティックが握られている。

「こんな所にいたんですね、マサト先生」

「ん?」

真斗はチラッと上をを見る。そこには白髪を持った少女だった。

「お前、はー……」

「覚えいないんですね。アイリスです。初日の時、話しかけた」

「あー、そうだったな。すまん」

「別に、良いですよ。今度ちゃんと覚えてくれたら。そういえば、何でマサト先生はこんな所にいるんですか?」

「そういうお前は、何でここにいるんだよ。寮の就寝時間はとっくに過ぎてるだろう」

「名前は覚えていないのに、寮のルールは覚えているんですね」

「規則を覚え、規則を守る。これは、軍人としての常識だからな」

真斗はそう言いスティックを齧る。

「不味……」

「それ、スティックですよね。もしかして、夕食は」

「三食全てスティックだが? 何か問題があるか?こっちの方が効率がいい。それにこんなの、軍人として常識だ」

「……普通、スティックを三食食べるなんて常識的では無いと思いますよ」

「そうなのか?」

「はい……多分。あの、料理は」

「しないし、技術も無い。なんなら戦場じゃそんな時間も無いしな。……まぁ、使用人の中にはいるけどな。料理のできる奴」

「そうですか」

そう言いアイリスは徐に隣を座る。

「……」

「……」

二人の間に沈黙が訪れる。しかし、それはほんの一瞬のことだった。

「って! そうじゃなくて。何で、お前がここにいるんだよ」

そう、話が逸れたが真斗が疑問に思っていたのは、何故アイリスがここにいるか、だ。

「あ! そうでした。私は先生を探していたんです」

「はっ?」

真斗は、口を開けてポカーンと開ける。

(小言でも言いに来たか?)

 真斗も今日の一件は言い過ぎたと自負はある。クラスメート達はきっと真斗自身に近寄る事もないだろうと思っていた。

 そんな考えを持っていた真斗には全く予想外のことだったのだ。

「何で、俺を」

「簡単です。知って欲しいと思ったからです。カイザさんの事」

「カイザ? あーあの、赤髪か」

「そうです。私の幼馴染のカイザさんについてです」

「幼馴染、ね」

真斗の目に憂いが満ちる。そして、それを頭を振る事でその憂いを断ち切る。

「で、その幼馴染の何を知って欲しいんだ?」

「夢、です」

「夢? あー、英雄になりたい、か。それなら教えたはずだ。人を殺せば慣れる」

「それは、ただの英雄ですよね」

「ただの?」

真斗は顔を歪ませて首を捻る。

「はい。カイザさんがなりたいのは英雄では無く、″最高の英雄″です」

アイリスはトンとベンチから立つとクルリとターンをし真斗の方を向く。そして右腕を上に上げて高らかに言う。

「最高?」

「はい。最高の英雄です。敵を殺して、仲間を守るだけじゃなく、敵も味方も守れ助ける英雄。それがカイザさんの憧れる、夢。です」

「最高の英雄」

「はい。では」

そう言いアイリスは一礼し夜の闇に消えようする。が真斗はそれを引き止める。

「ちょっと待て、これで終わりなのか?」

「はい。私は知って欲しかっただけですので。カイザさんの事を」

 アイリスは真斗に向き直りニコリと微笑む。その姿は月明かりに照らされ真斗は不覚にも「美しい」と思った。

 美しいなんて感性はとうの昔に忘れたと思っていたはずなのに。

そう言い、アイリスは寮の方に歩いて行った。

「最高の英雄」

真斗はポツリと言う。


♢♢♢


『ねぇねぇ、真斗も将来武者になるの?』

大きな桜が舞う陽気な日。赤と黒の着物を着た黒髪、黒目の幼き少女が笑顔で少年に問う。

 少年はその少女に優しく言う。

「えぇ。私もなります武者に。それもただの武者ではありません。全てを守れる、それこそ自分のそして、″お嬢″のお父上よりもデカい武者に」

その目には希望が煌めいていた。その少年の未来はとても明るく輝いていた……はずだった。

 そう、あの時までは


♢♢♢


「ここは。夢、か」

どうやら真斗はあの後数分間考えている間眠っていたらしい。

「デカい武者、か。お嬢、俺はなりましたかね?」

その言葉は夜の空に溶ける。

 だが、その言葉を返してくれる者は誰もいない。

 真斗は、数秒目を瞑りゆっくり開く。

 その目には、決意が満ちていた。

 


 


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