第2話探索

「たく! 何なんだよ! あの教師はよー!!」

ここは、食堂。そして、今は昼休み。つまり、沢山の生徒がいる。

 そこで、カイザは一気にジュースを飲み干しグラスを勢いよく机にぶつける。

「まぁ、まぁ、ここは、落ち着いた方が」

「そう言うけどよ天使…じゃぁ、アイリスは良いって思ってんのかよ! あの教師を!」

「確かに、授業全てを自習にするのはどうかと思います……けど」

「けど、何だよ」

「いえ。ただ……その、ただの怠惰な教師では無いと思うんですよ。それに、あの目は」

(あの目は、怠慢をする人の目じゃ無かった。あの目の中にあるのは虚無と、そして……)

何かを考え混んでいるアイリスを見ながらカイザは昼食のセットを口に頬張り込む。

 その間、アイリスに声を掛ける事はしない。アイリスが黙るのは何かを考えている時だ。邪魔をしてはいけない。と言うのがカイザの考えだ。

 それに、これはある種のルーティーンでもある。故にカイザは黙っておく。それが最適解だと分かっているから。

 そして、数秒後。アイリスは、何かを閃いたように目を丸くして口に昼食を放り込む。

 といっても、紅茶にサンドイッチ三つと元々の量は少ないのだが。

 そして、それらを紅茶で流し込むとカイザに言う。

「カイザさん! 図書室に行きましょう!!」

「……えっ?」


          ♢♢♢


そして、来たのは図書室。

 カイザとアイリスはそこの英雄書籍というブースに立ち寄った。

「で、何で? ここなんだアイリス」

「と、言いますと、ととうわっ!」

アイリスは両手の上に積み上げた本を崩しそうになりそれをカイザが支える。

 カイザは、アイリスの持っていた本を自分の腕に移しながら言う。

「だから、俺達はさっきまであのグウタラ教師について話してたよな」

「はい」

「で、何でここ何だよ」

「それはっ、と」

アイリスはまたもや本棚を眺めながらめぼしい本を見つけたのだろうそれを取る。

 それを見てカイザは、「自分の腕に乗せろ」と促す。アイリスはコクリと頷きその本をカイザの持っている本の塔の上におくと、またもや本棚から本を探す。

 探しながらさっきの続きを話す。

「シャディーさんの噂をカイザさんは覚えていますか?」

「? あぁ、アレか。英雄が来るって言う。結局あれは、噂だったんだろう。現に来たのはグウタラなアレだったし」

「私がここに来たのはそこです」

「そこ?」

「普通の怠慢の教師でも形ばかりの授業をします。プリントを配るとか。しかし、あの人はそれすらもしていません。明らかに露骨すぎます。

 それも、ここ名門のピューリアス学園で。変です。変すぎます。そんな事したって、何になるんですか?」

「つまり、あのグウタラ教師の行動は教師の仕事をサボれるっていうリターンにしてはリスクが高すぎるって事か? けど、人間なんてそんな損得感情だけで動いて無いだろう。単にアレが馬鹿だったってだけかもしれねーんだし」

「そうかもしれません。しかし、こうは考えられませんか?」

そう言い、アイリスは今先程手に取った本の表紙を開く。そこにはこう書かれている。

[英雄とは、常に常人であらず。英雄とは、最高した狂人の事を言う」

カイザは、それを見て苦笑いをする。

「まさか、お前アイツが」

「はい、ただの怠慢教師ではなくて英雄だと、栄光〈セカンド〉の名〈ネーム〉保持者だと思っています」

「おいおい、マジかよ。じゃぁ、この本を」

「はい、歴代の栄光〈セカンド〉の名〈ネーム〉保持者の名前と実績の書かれた物です」

「やっぱりか」

カイザはコテンと首を折った。

栄光セカンドネーム

 戦争で英雄と言われる武勲を。

例えば戦況を一変させる。

例えば死者を蘇られせる。エトセトラ……

などのような功績を五回築き上げ、表彰された者に与えられる二つ名事。

 そして、それらを持った者を総じて栄光〈セカンド〉の名〈ネーム〉保持者と呼ばれ、皆が英雄だと認められ軍に貴族に、あいとあらゆる事柄に絶大な影響を与えられる。

「おいおい、アイリス。ちょっと待て。あのグウタラ教師の行動が変だからって英雄に結びつけるのは、ちょっと無理があるんじゃないか? それに、こんなに本を集めたって」

「しかし、可能性はあります。今の〈セカンド〉の名〈ネーム〉保持者だって顔がわかる人は3人しかいません。それに、もしかしたら歴代の血縁者という可能性もあります」

「なんか、すごい飛躍した話のような気がするするけど……」

カイザはチラッとアイリスの目を見る。

 その目はキラキラと輝いている。

(あー、これは。絶対、何言っても引かない目だな……どうする? 逃げるか? いや、俺が逃げてもコイツは一人でやるだろうし。うーん……)

「あーー! 分かった。良いよ! やるよ!」

「えっ?」

「俺も手伝ってやるって言ってんの。お前一人でやらせたらそれこそ何しでかすかわからねーし」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「ハイハイ、良いからあんまり声を出さな。ここは図書室なんだから」

と、言う事で2人は本を捲るのだった。そして、数分後。


           ♢♢♢


「無いなー」

「そうですねー」

「クソ! シュンゲイマサトとか、ゼッテー簡単に見つかると思ってたのに!」

「そうですね。けど、これだけ探しても無いとなるとー」

 アイリスはグッと背伸びをする。

「血縁者っていう可能性は無いな。第一、黒髪に黒目っていうだけでもかなり絞られると思うんだけどなー。それで無いって」

「身体的特徴じゃ無いとなると……スキルか?」

「ふむ、歴代の栄光〈セカンド〉の名〈ネーム〉保持者の目録、か。昼休みも勉学に励む。関心、関心」

「「!!」」

二人は、目を丸くする。

 そこにはたわわな実を2つ備え、ワインカラースーツとモノクロの眼鏡をつけた銀髪の女性。

 バクロ・リント理事長だった。

「り、リント理事長!」

「やぁカイザ君」

「な、何で俺の名前を?」

「何、君のお父様とは好意にさせて貰ってね。それに、自分の学園で学ぶ生徒の顔と名前ぐらい一致させてあるよ。そこの、君はアイリス君だろ」

「は、はい!」

急に呼ばれたアイリスは勢いよく返信をする。

 2人の反応を見て満足しているのか、リントはにこやかに笑う。

「それで、また何故目録なんかを?」

「えーと」

カイザは言い淀む。

(どうする? 話すか? いや、あのグウタラナ 教師も一応この人の部下なんだよなー。部下な恥は上司の恥ともいうしー。それに、今思えば本人のいない前でバッシングって英雄らしくないよな。

 そうだよな。よし、ここは黙っておこう!)

「いや、さっき理事長が言ったように勉強w」

「マサト先生について調べていました!」

「!!」

(おまっ!)

カイザは、内心慌てるがすぐにアイリスの首に腕を回し後ろを向かせる。

「おい! アイリス! 何言ってだ! ここは、真実をぼかす所だろう!」

「……何でですか?」

「はぁー、アホか! アレも一応は、理事長の部下なんだぞ! 部下の事を悪く言われて腹が立たない上司がいるかよ!」

「そうでした!」

アイリスは今気づいたのだろう目を丸くさせる。それを見てカイザはまたもやため息を吐く。そして

「いいか、何があっても何も話すな! 良いな! 今のはこっちで誤魔化すから!」

「わ、分かりました」

そう言いや否やカイザはリントの方に向き直る。そして

「その、今のは」

「シュンゲイマサト」

「えっ?」

「いや、なんでも無いよ」

リントは笑う。と、そこで放送がかかる。その内容は

[リント理事長! 至急戻って来てください!!]と騒がしい者だった。

 リントはそれを聞くと苦笑いする。

「おや、呼び出されたたようだ。私は行く。勉強、頑張りなさい」

「は、ハイ!」

「はい」

 カイザとアイリスの反応にまたもやにこやかに笑う。そして、その場を離れようとしてピタリ止まる。

「そうだ、マサト先生の事だが、あまり詮索しない方が良い」

「えっ?」

「それじゃぁ、また」

そう言い、リントはその場を離れた。

「どういう事だ?」

「さぁ?」

 2人は呆然とその後ろを見ていた。

 因み、午後の授業も自習だった。


 

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