顔のない死体を否定する

沖野唯作

顔のない死体を否定する

事件が起きた部屋は完全な密室ではない。


私たちが小窓から部屋の中を覗いて死体を発見した時、窓の鍵はかかっていなかった。凶器の高枝切りバサミを小窓から入れれば、部屋の外から被害者を殺すのは不可能ではない。


だが、死体には首がなかった。窓越しに室内を見回したが、首はどこにも落ちていなかった。


人間の首が出入りできるほど、小窓は大きくない。駆けつけた警官が鍵のかかった扉を壊して部屋中を物色したが、それでも首は見つからなかった。


その後、被害者の首が部屋の外で発見された以上、これは密室殺人だと言わざるを得ない。




しかし慌てる必要はない。この事件の真相を見抜くのは、そう難しいことではない。


謎を解くためには、思いこみを捨てなければならない。死体発見時、私たちは室内の全てを見たわけではない。


私たちは超能力者ではない。だから死体の裏側を見ることはできない。




そう、あの時点ではまだ、被害者の首は部屋の外にはなかった。


被害者の首は完全には切断されていなかった。


皮一枚で胴体とつながり、窓とは反対方向に垂れ下がっていたため、私たちには首が見えなかった。ただそれだけに過ぎない。




被害者の首は部屋の外で見つかっているので、密室が開かれた後、犯人が死体の首を回収し、部屋の外に移動させた、としか考えられない。


よって犯人は、首はなかったと嘘をついた警官しかありえない。

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