ターンもらいます!

@sartre

雑居ビル4F

メイド姿の女の子が急造仕様の笑顔でビラを渡してきた。

こういうバイトもあるのねー。なるほど。


周りの大人は学生が羨ましいと口を揃えて言う。私にはよく分からない。

これから楽しいことがたくさん待ってる。

未来なんて誰にも分からないのによくそんなことが言えたもんだ。

特に母親。能天気すぎるぞー。


学校がつまらないわけではないけど、なんとなく周りに合わせてアルバイトを始めようと思った。お金はあるに越したことはない。

使い道はそのとき考えればいい。


笑顔とビラを振りまくメイド喫茶は死んでも嫌だけど、普通のバイトも時間をお金に変換してるみたいで納得がいかない。


たかがアルバイトに大げさだけど

天職なんてそうそう見つかるもんじゃない。

諦めが肝心よ。うんうん。


今日の天気みたいにどんよりした気分で歩いていると「カードショップちひろ」の文字が目についた。


「うわ、、私の名前じゃん…。」


運命と呼ぶにはあまりに安っぽい出来事に逆に面をくらった形となった。



雑居ビルの4Fという訳の分からない場所にちひろはあった。

お世辞にもオシャレとは言えない格好の男性が続々と階段を登っていく。

なんでもいいや、と思いながら「アルバイト募集」のポスターを頼りに私はエレベーターで4Fに向かった。


「さーせー」


メガネをかけたやせぎすの男性が、カードをガラスケースに並べながら私に放った歓迎の言葉だった。やる気あんのか。


雑居ビルの4Fはすごい世界だった。

店内の人口密度がすごいことになっている。

普段この人たちはどうやって生活をしていて、どこからやって来たのか知らないけど、キラキラ光るカードの束をお互いに見せ合っている。

今日も日本は平和だ。


何人かがこっちをチラチラ見てくる。

多分お前らのほうが世間では珍しいからな??

擁護するわけではないが無理もない。

この狭い面積に私しか女性がいない。

ごめんな邪魔して。


チラチラタイムも束の間、男たちはまたカードの束で遊び始めた。盛り上がっている。

総じて早口だ。


うるさいなー、と思いながらもやることがないので、ガラスケースに飾られたカードを見始めた。

紙1枚の値段とは思えない法外な値札が貼ってある。それも1枚や2枚じゃない。

ヘンテコな絵が描かれてるカードや、キラキラしているカードや色々だ。

どうやら光り方で値段が決まっているわけではないらしいというのがこの10分で得た知識だ。


眺めていると、1枚のカードと目が合った。

光り方が綺麗なのはもちろん、イラストも不思議と惹かれる何かがある。

イラストに描かれてる女性が恥ずかしくて目を逸らすんじゃないかというくらいに見つめてしまった。


「それ売り物じゃないんすよね」


「??は??!?、!!?」

やせぎすメガネ、急に話しかけてくるんじゃないよ。


「手元で見てみますか?売らないですけど」


イラストの女性の魅力に免じて、頷いてやった。


はじまりはじまり。


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