家に帰ったら全裸の黒髪の美少女がいました

文屋旅人

前編

 私の名前は小埜誠也。

 今現在行っているのは、異常な細胞を正常な細胞に修正する薬品だ。これを皮膚に塗ることで、異常な癌細胞は正常な細胞になる。

 皮膚がんに苦しむ人々を治すための薬を作る、誇り高い仕事についている。

 そのせいで、35にもなって童貞。

 しかしながら、私が作る薬が多くの人の命を救うと信じて、今日も邁進する。


 さて、今日も終電まで研究所で研究していたのである。中央線に乗って、都心から少し離れた我が家に帰宅した――その時である。

「おかえりなさい」

 家に全裸の黒髪美少女がいた。

「……警察、呼ぶか」

 警察を呼ぼうとした。

「ストップ!」

 スマホを出した瞬間、全裸の美少女はそのスマホを奪い取った。

「……殺されるっ!」

 動きが速すぎる。まさか、対立する企業が殺し屋を雇ったのか? 死を覚悟する。まずい。そう思った時だった。

「とりあえず話を聞いてください」

 土下座された。

「あ、はい」

 なんか勢いに押されてそういってしまう。



「で、君は何者なんだ?」

 とりあえず、全裸の少女を座らせて問いかける。

 すると、少女はすっと指をさした。

「私はゴキブリです」

 指の先には、奇妙な脱皮の殻があった。

「……なんだ、これは」

 私からすると、それは神秘であった。

 ゴキブリの形をした殻の横に順々に殻があり、どんどんと人間に形が近づいている。そんな奇妙なものが連続的に存在していたのである。

 美しい、そう言葉を漏らしてしまいそうな見事なゴキブリから人間への進化の軌跡。

「貴方がこの間持ち帰った試作品、ありましたよね」

「……あったな」

 なんか微妙に効きが悪いから、育毛剤代わりに使えないかと思って会社の許可をもらって持ち帰った奴だ。結局お隣の村田さんの髪は生えなかったが……。

「あれを、食ってました」

 食ったのか、あれを……。

「ゴキブリにとってはおいしかったので、こっそり毎日食べてました。なんかふたも空いてたんで、毎日食べれました」

 失敗作だから管理を甘くしていたことを思い出した。

 なるほど、存在を忘れていたあれをずっと食ってたのか。

「そうしたら人間になりました」

「……なるほど」

 頭が痛い。

 ゴキブリが人間になった、という事態だけでも頭が痛い。

「とりあえず、身を置くところも無いので……養ってください」

「……事情は分かった、仕方がない……」

 成程、事情としては確かに私が悪い。

 ……そうなってしまうのが、非常に納得いかないが……仕方がない。

 こうして、私は美少女になったゴキブリと暮らすことになってしまった。



          続く

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