第13話 お前たちは一体?

これが魔法戦士なのか…実は変身する所は初めて見たんだ。なんだかかっけーな。


虹色にじいろに包まれて変身した太一たいちは、逆転した暗い街中でモデルポーズを決めていた。


場違いだけど…余裕あんだな。


「さ、いくよ!

オート ル・ブセン ラディカ!

純心じゅんしんより生まれし力よ わが元に出でよ


ファントムカイザー!」


放つ言葉と共にその手は、金色こんじきの弓を掴んでいた。


ゲッ!例の紫の怪物が迫ってくる!


「おいっ!来るぞ!」


「まかせてちょんまげ♪」


魔法戦士スコルティーネは、何もない空間をジャンプしながら移動する。


「さ、いくよ!」


余裕の表情でクルクルと舞いながら放たれた光の矢は、次々と精魔獣せいまじゅうに命中してははじけていく。


サンシャインシティで明日夢の魔法を見たけど、アレは派手な竜巻たつまきだった。太一のは優雅ゆうがでショーをているようだ。


って、げっ!なんだありゃ!


光の矢にられた紫の人型がみるみるうちにからびていき、小さな蛇になっちまった!


よく見れば、倒された奴ら全部だ。


「ふぅ。とりあえずこれで全部かな。」


セミロングの髪をなびかせて、まるで社交ダンスを踊るように俺の元に戻ってきた。


「おい、これどーなってんだ?」


「彼らはね、元来、精神体アストラルの存在なんだ。肉体がないから、何かに憑依ひょういして人間界に現れる。

僕らは憑依された肉体を打つか、精神体そのものを攻撃するかなんだけど。

僕は後者こうしゃ。」


「それじゃ、あの精魔人…イシュタ…とかいってたやつも?」


「あぁ、例のサンシャインに出たやつね?彼らも憑依する肉体を手に入れてその姿を保っているんだ。ま、僕らもだけど。」


スコルティーネは、ウィンクひとつして肩にかかった髪を手で払う。明日夢の顔立ちもキレイだが、あれとは違うオトナの妖艶ようえんさを持っているようだ。


「そーいえば、明日夢が自分の事を人造人間って…。」


俺は思わずうつむき考え込んだ。

明日夢達が、水を飲むだけで生きられるってのもそーゆーことか…。


ん?


元々は精神体って…?


「なぁ、おまえや明日夢達は……」


「シッ!親玉のお出ましのようだ。」


スコルティーネは長い指を口元に当てて会話を止めた。

その視線の先には、いつの間にか西洋せいよう貴族きぞくの部屋のような舞台が出現していた。


きらびやかな調度品ちょうどひんや絵がたくさん飾られ、ソファの肘掛けは金色に光っている。


中央のカーテンがさっと開くと、先程の蛇人間へびにんげんが数体姿を現した。


「おい、また出てきたぞ!」


「僕の側を離れないで。」


太一は、俺の前に出て弓をかまえた。


どこからか優雅な音楽が流れ始めると、蛇人間達が音に合わせて踊り始めた。


って、なんだよコレ。


すると今度は中央のドアから場違いな格好をした人?が、腰を左右にくねらせながら姿を現した。


豪華な桃色の振袖ふりそでに、日本髪をこれまたキンキラのかんざしが飾っている。

舞台がヨーロッパ調なのに、和服なのかよ。


大きな扇子せんすで顔を隠しながら、蛇人間達と入り乱れて踊る。


何が始まったのか、よくわからない光景に俺は唖然あぜんとしていたが、太一は硬い表情で弓を構えてつづけていた。


バックに流れる音楽がひときわ激しくなっていき、ドンっとした終わりの音と共に舞台上ぶたいじょう面々めんめんが同時にポーズを決めた。


余興よきょうは終わりかい?そろそろ本題ほんだいに入ろうよ。」


スコルティーネの魔力が高まり、金色こんじきの弓に光の矢をつがえた。


「いやねぇ…そうあせらなくても。」


品のある少し高い声で答えた振袖姿ふりそですがたは、顔を隠した扇子をパタンと閉じてその容姿ようしあらわにした。


長面おもながに白い肌。日本人形のように整った顔立ちだ。

一重の細い目がさらに細くなる。


えっ?ふつーの人間っぽい。

また、蛇顔のバケモンが出てくるかと思った。


「アタシぃ…カトマンジェロよ。よろしくね。何の用かすぃら?」


とたたんだ扇子をかたむける。


「仕掛けてきたのはそっちだろ?この乱行らんこう騒ぎもね!」


「あぁ、コレねぇ…イシュタ…って、アタシの仲間がやれっていうからさ。計画的に繁殖はんしょくをして食料供給しょくりょうきょうきゅうを安定させるとか何とか。」


今度は首をかしげて口元にパッとおうぎを開く。


それにしてもいちいちポーズを決めんと喋れんのかコイツは…。


「コレはやり過ぎだね。同じマンション内では、親族内しんぞくないでの交配こうはいもありえる。近親者きんしんしゃで交わったら、障害児しょうがいじが生まれる確率が高い。」


「ん?何のことやら?

アタシ的には食料が増えればそれで良いのよ…ンフフ♪」


開いた口元から時折ときおり見える舌は真っ赤で、先がふたつに割れている。

見た目ふつーだけど、やっぱ只者ただものじゃねーってワケか。


「やるならちゃんとやりなよって事。コレは失敗だよ。お引き取りを…。」


スコルティーネは矢をつがえ直すと、振袖姿の精魔人、カトマンジェロに狙いをつけた。


「アンタねぇ…アタシ達の魂に直接攻撃してくるって魔法戦士は。お手並拝見…」


カトマンジェロは、扇子をあおぎながらゆっくりひと回りすると、再び扇子をパタンと閉じてポーズを決めた。


「といきたいけど、やめとくわっ!じゃあねぇ〜!」


と、パタパタと扇子をあおぎながら周りの蛇人間と共に消えてしまった。


「なんだよ…アレ…。」


身勝手、自分勝手な展開に俺は唖然あぜんとした。


さすがに拍子抜けしたのか、太一も構えた弓を降してほほをボリボリとかいている。


「どわっ!」


次の瞬間、景色が本日二度目の回転をした。

脳味噌を手掴みで回されたらこんな感覚なのか。


何もない足元と空をおおうビル群が入れ替わり、暑い日差しが照りつけ、セミの鳴き声が耳に飛び込んできた。


「元に戻ったのか?」


「そうみたいだね。あっさり引き下がったけど…。」


振り向いた太一は、鎧姿ではなく長袖に薄手のニットを重ねた元のいでたちに戻っていた。


例の乱行騒ぎのあったマンションは、空いた窓から漏れていた行為中の声も聞こえなくなり、沈黙している。


「なぁ、こりゃどういう事なんだ?」


俺は以前から胸に湧いていた疑問もあり、太一に問いかけた。

そもそもあのバケモン達はなんなのか。人の言葉も喋るし、ちゃんとした意志を持っている。

こんな騒ぎを起こす意図…食料って


それに…


「それに明日夢やおまえだって…」


聞きたいことがいっぱいあり過ぎて、逆に言いよどんでしまう。


太一は熱気が戻っても汗一つかかず、手をかざして空を見上げた。


「今年の夏は暑いねぇ…それに長くなりそうだ。そう思わない?」


俺はそう言いながら太一が答えを考えているのがわかったので、次の言葉を待った。



「ボクも言える事と言えない事があるんだけど…


ひとつだけ言えるとしたら…君たちは人類最後の希望なんだ。」


「人類って…そんな大袈裟おおげさな…。」


そう言いながらも、俺はここ最近の出来事が頭をよぎった。


「もう元の日常には戻らない…新しい世界を作っていく必要があるんだ。」


俺たちの間を熱気を奪うように風が駆け抜けた。

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新宿魔法BOYS 世田谷一師 @setagayaisshi

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