第44話 もしも、この人生が小説だとして

 

そして、時は流れて、あのタイムリーパー達のゲームから十年後。


 二十六歳。


 一周目において、俺が自殺した日。


 その日、一つの映画の製作発表が行われた。

 ――出席したのは、主演、海沼ひまわり。監督、千寿マリ。さらに出演陣の中には、月見明日太の名前も。

 ……驚いたのだが、明日太のやつ、野球をやめて俳優になりやがった。そっちのがずっとマリと一緒にいられるし、二周目で違う人生を歩むのも楽しいから……とか。こいつどんだけ千寿のこと好きなんだ。紅葉は「裏切り者二人目……」と言っていた。

 さらに、原作として――この俺、桜庭春哉と……そして、雪草エリカも。

 一周目の未来とは違う。

 どちらの作品が、とかではなくて、今回は二人の力を合わせた共著だ。

 あれだけの経験があったのだ、そりゃあいろいろ二周目では未来も変わるだろう。

 もうゲームは終わっている。

 これからは、誰に気にするでもなく、未来を変えたい放題、やりたい放題だ。

 ああ、楽しい……楽……これだよこれ、やり直し生活ってこういうものだろ?

 こうして、俺とひまわり、二人の約束だったものは、いつしかみんなの約束になっていた。

 俺達みんなにとって相応しい、最高の作品を作り上げる。

 そんな最高の夢の中に、俺達はいるんだ。



 ■



 

 そこからさらに十年後――。


 雪草エリカ、三十六歳。


「ねー、えりおばさんー」


「……。なーちゃん、おばさんじゃなくて、おねえさんです」


「……えりねーちゃん、今はなにしてるのー?」

 デスクでキーを叩いていたところを覗き込んでくる小さな少女。

 エリカは少女を邪険にはせず、幼い疑問にも丁寧に応える。

「今はゲームのシナリオですね……。ちょっと人使いの荒い先輩がいまして……。ほら、あの変な喋り方の」

「あー、あの面白い人!」

「ええ、とっても面白い、素敵な先輩です」

 エリカは机の上にあるいくつかの写真に目をやった。

 二十年前――全ての始まりになる、あの舞台が終わった後に撮ったもの。

 十年前――再びあのメンバーが集まって、今度は日本中に向けた作品を作る時に撮ったもの。

「えりねーちゃん、その写真好きだねえ~……」

「ええ、大好きです」


「まー、パパもママもそれ好きだけどねー」


 少女はにこーっと笑った。

 


 彼女は桜庭ナデシコ。


 春哉とひまわりの娘だった。


 

 ■




 それから、エリカの部屋にぞろぞろといつものメンバーが集まってくる。

 太田先輩が騒いで、ナデシコがそれを面白がって。

 マリがくどくどと明日太の今日の演技について説教している。いくつになっても、まだまだ明日太の演技は伸びると信じているあたり、マリは本当に彼を信頼している。

 ひまわりはキッチンの方で料理をしているようだ。後で手伝いにいかなければ。太田先輩は料理が壊滅的に下手なので、キッチンに立たせるわけにはいかないので、ナデシコの子守。


 そういえば、春哉がいないが、どうしたのだろう。



 ■


 

「…………久しぶりね」

「おお、また出てくるんだ」

 本当に、久しぶりだった。

 ベランダで次の作品のアイデアを練っている時――――本当にいきなり、赤髪ツインテールの少女が現れた。

「なにしてんの?」

「安心しろ、自殺じゃねーよ」

「……そ、よかった」

「んで、今日はどうした? また前と同じか?」

「そうね。アンタが再び《リーパー》に選ばれたわ。どうする? 別に強制じゃないけど」

「思ったんだけどさ……、俺、そのゲームが強制じゃなくて選べるのって、やらないってやついんのかよって、昔はそう考えてたんだけど……」

「今は違う?」

「ああ、一億もらってもやんねーよ」

「そ。一応、理由を聞こうかしら?」

「あっち見てみ。俺、今すげー幸せ。後悔なんて、一つもない。この今を、絶対に変えたくない。だから、やり直したいことなんてないんだ。過去なんて行きたくない。毎日未来が楽しみでしょうがないんだ」

「……そっか。よかった……」

「なんだよ、それ」

「……ふふ、ホームランのお礼よ。アンタからその言葉が聞きたくて、アンタをゲームに選んであげたんだから」

「……マジ? そうだったの?」

「そうよ?」

「…………紅葉にめちゃくちゃ優しくしたほうがいい?」

「アタシのことがなくてもしなさい」

 蹴られた。痛い。酷い。……ま、いいか、めちゃくちゃ恩人だし……。

 その時、ガチャリ――と玄関のドアが開く音がした。

「紅葉来たぞ。会ってく?」

「会ってかないわよ馬鹿……。じゃーね、もう来ないと思うけど……」

「そっか」

 フォールが背を向けたところで、俺は――。

「なあ、フォール」

「……なによ?」

 首だけで振り返るフォール。

「シャフ度じゃん」

 もうゲームは終わったから、心理描写以外でも口に出して好き放題パロネタを言えるのだ。

 楽でいいなー。

「……なによ、だから」

「ありがとな。楽しかったよ、やり直し生活。辛いこともあったけど、それでも楽しかった」

「……でも、もうやりたくないんでしょう?」

「そりゃな」

 そう言って、俺はベランダからリビングの方へ視線を向ける。

 俺があのゲームで勝ち取った幸せ。できる限り誰も取りこぼさない、完璧なハッピーエンド。

 俺はあのゲームの中で学んだこと。

 どんなバッドエンドでも、それはただの途中経過。ハッピーエンドのための助走。

 では、ハッピーエンドの後は?

 俺の人生には、何度かそれが訪れてる。

 二十年前、あの舞台で拍手を浴びてる時。

 十年前、再びあの舞台のメンバーが集まった時。

 それでも、人生は続く。エンディングテーマが流れて、スタッフロールが流れて終わり……なんてことはなく、続くのだ。

 人生は続く。それはきっと、あのゲームよりもずっと大変だ。

 でも、大丈夫。

 俺が勝ち取ったこの幸せがあるから。

 これがあれば、どんな困難にも屈することがなく、本当のハッピーエンドまで、走り続けることができるから。

 そして、本当のエンディングを迎えた時に、俺はこう思うだろう。





 ――――もしも俺の人生が小説ならば、本当に最高の出来だろう。レビューサイトでは☆5が並ぶだろうな。

 




                                      〈完〉


 

 

 



 

 

 

  

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アオハル・リヴァイバル ~失われた彼女と、時間遡行者人狼ゲーム~ ぴよ堂 @nodoame

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