エピローグ
第43話 ラストシーンに × × を
本当に、いろいろなことがあった。
思えば自殺から始まった物語だ。暗い始まり方だな、嫌だなあ……。
ひまわりのためにやり直しを初めて。
明日太と仲間になって。
みんなで出かけたりもしたな。
それから、ひまわりと付き合えて……。
ゲームに負けるかもしれないって恐怖で、苦しんだ夜もあった。
フォールの正体。
雪草との対決。
全部終わった今なら、笑って話せる思い出になっている……はず。
――――そして、今日。いよいよ、文化祭本番当日。
俺達の舞台、その幕が上がろうとしていた。
俺と雪草が考えて、みんなで意見出し合って練り上げた自信作の脚本だ。あとは演技に託されるな。
……とはいっても。
メインヒロインの役はひまわり。
そして主人公の男子高校生の役は――――この俺、桜庭春哉だ。
これには事情があって、稽古中にどんどん上達していった明日太が、とうとう主役に抜擢されたのだが、明日太が俺にやらせようとして……で、明日太と俺でオーディション。
俺はひまわりに付き合ってひたすら練習していたのもあって、気がつけばこの役を一番上手くできるのは俺になっていた、というわけだ。
舞台度胸の方は少し心配だが……それでも、四月頃から生活全部が演技みたいなもんだったんだ、それに比べれば大して緊張はしない。
いよいよ、上演時間だ。
幕が上がり、舞台が照らされる。
人、人、人、視線、視線視線視線……当たり前だが、大勢の、しかも学校の知り合いのやつらに見られるってのはどうにも照れるな。
ま、こういうのはそういう余分な感情が残ってる方がみっともない。
ただ、全力でやりきるだけだ。
――最初のシーンは、ひまわりのキャラクターを説明する場面。ヒロインの少女は、いつも明るくみんなの中心にいる女性。
俺はそれを、教室の端っこから見ている。彼女に憧れていて、彼女を神聖視していて、それ故に、少し彼女のことが見えなくなっている。
盲目的に、彼女を崇めている。
どこかで聞いた話なのは、もうお馴染みだろう。
演技を作るのは簡単だった。だって、前の自分を再現すればいいのだから。
「――――キミ、私を主役にした、私を最高に輝かせる脚本を書きなさい!」
ちょっと誇張してるけど、だいたい本人そのままな台詞。
ただ、これ傍から見るとギャップがあるんだろうな。ひまわり、結局未だに本性モードは隠してるから。なんだから笑えてくる。みんな意外な役をしてると思ってるだろうけど、ここなんてまんま本人ですよーっていう。
■
次のシーンでは、明日太とマリが舞台に上がる。
マリは監督として、稽古中は役者全員に細やかな指示を飛ばして、舞台のビジョンを作っていきそれらを全員に共有させていたのだが、彼女自身も演技はできるし、舞台に上がるのだ。
主役とメインヒロイン以外の恋愛シーンもちゃんとある。
主役の親友と、ヒロインの親友。主役とヒロインは、親友達をくっつけるために奔走し、その中で絆を深めていく。
それぞれの努力の甲斐あってか、親友達はやがて結ばれる。
「いいのか? 私は頭の中に映画のことしかない馬鹿だぞ?」
「いいんだ。そういう一直線なところに惚れたんだから」
明日太の告白を、マリが受ける。
現実よりも一足先に、明日太がマリとラブシーンを演じる……といっても、キスしたりはしないんだけど。
まあ、それは現実で頑張れ。
…………と、この先を行く者の余裕よ。
そして、俺とひまわりはそれを見てハイタッチ。
■
そして舞台は進んで、最終幕。
いよいよ、ラスボスとの対決。
青春モノでラスボスってなんだよ……って話だけど、これはやり直しタイムリープモノであってさらにはループモノでもある。
で、ループの原因となる人物がいるというわけだ。
あのゲームの部分以外は、ほんとまんまっぽいけど……、それだけ俺達が面白い体験をしたってところか。
――さて、その自分を演じるのが、
「…………どうして? 私の方が、先に好きになったのに」
雪草が堂々とした態度で台詞を放つ。
「ううん、違う……違うんだよ、どっちが先かなんて、なかったんだよ」
応じるひまわり。二人とも気持ちの乗った演技で、互いが互いを高めていくように、二人の感情が高まっていく。
「そんなわけない……っ、だって、先に出会ったのは私で……!」
「だから、あの時に彼に助けてもらったのは、私もなんだよ……?」
ここは脚本オリジナルで、俺達の実体験じゃない――そう思うだろう。
驚いたことに、これも本当にあったことなのだ。
俺が見た夢。
幼稚園の頃に会った、前髪の長い女の子。
あれは雪草だと思っていたし、実際にそうだったのだが――真相は、そこで終わらない。
ひまわりも、当時は同じような髪型をしていたのだ。
当時のひまわりと雪草は、似たような髪型をしていて。
二人とも、幼稚園のお遊戯会で劇をすることに怯えていて。
俺は二人と一緒に、劇の練習をしていたが、結局本番前に離れ離れになってしまった。
これが真相。
夢のあの子は――、二人いたというわけだ。
けれど、納得できることもある。
ひまわりも、雪草も、どのタイミングで俺を好きになったのか、という謎。
つまり、高校で再会した時には既に……ということだ。
俺はこのことについて、二人にめちゃくちゃ怒られた。
『……なんで忘れてるかなあ……、私、あれ一生の思い出なんだけど』
『……桜庭くん……初めてちょっと軽蔑しました……。ね、海沼さん……』
『ねー、そうだね、雪草さん……。もう、ハルヤなんか放っておいて、私達付き合っちゃおうか』
『今ならちょっとそれも有りだと思ってる自分がいます』
このあと、めちゃくちゃ謝った……。
いや、幼稚園の頃だし、あまりにもややこしすぎる真実だし、しょうがなくない……?
俺にとっても、あの時の経験は大事なものなんだ。
そして、あの時見届けられなかった二人の劇を、今やっと見ることができている。
■
さあ、舞台はいよいよラストシーン。
ループを乗り越えた末に、主役とヒロインは結ばれ、最後には高校の卒業式のシーン。
無事に望む未来を掴んだ二人は、最後にキスを……というところだが、学生の演劇は。
キスはフリで、二人の顔を近づくところで暗転、となっているのだが……。
フリとはいえ、やっぱり緊張するな、みんなの前だし。
ひまわりの顔が近づいてきて――、
――――暗転、幕が降りていって、舞台は終わる。
だが、そこで――――唇に、温かい、柔らかい感触。
………………えっ!? え!? ちょ、え……ひまわりさん……!?
再び照明に照らされ、幕が上がるとカーテンコール。
舞台は大盛況だった。割れんばかりの拍手に包まれ、体育館の盛り上がりは頂点に達している。舞台が成功した喜びを噛みしめる…………と、なりそうなところなんだけど。
「ちょ、ひまわり、今……」
「えへへぇ……つい」
「こ、こいつぅ……」
可愛いから、いっかぁ~~~~~~………………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます