三月初旬の或る日。
僕は雪女と出会った。
暦の上での季節は春でも、まだ、寒さがその身を凍えさせる頃、偶然、彼女と出逢った。
具合が悪いのでは……と心配した主人公が声をかけると、その彼女は、『春を見つけた……』と嬉しそうに答える。
あまりにも季節感のずれた様相に、訝しみながらも彼女を部屋へと招く。
そこで語られたのは、衝撃的な事実と、哀しき過去。
それを聞いた主人公の、優しき行動とは? 突き動かした衝動とは?
この物語、ふたりを包みこむ情景も、ふたりが感じる優しげな想いも、そして、共にする儚げな短い時も、その表現が文学的に綴られているのが、とても素敵なのです。
永遠に近い刻を彷徨う雪人の魂が、幸せと共に解放される時を知っているのは、空から舞降る名残雪だけなのでしょう……。
生きること。死ぬこと。
運命。
誰かを、深くただ一心に愛すること。
愛する人と別れること。
自分の想いを追って彷徨うこと。
表現すること。自分の中から想いを引き出せない苦悩。
その苦悩こそが輝きであること。
今、目の前を愛すること。
ただ、前を見て歩くこと。
あまりにも様々な感情が押し寄せ、まともなレビューになりません。
けれど——「生きる」ということの輝きが、作者様の心からとめどなく溢れ出しているのです。
まずは、物語の扉をあけてほしい。無心でページをめくってほしい。そのまま、最後の一文字まで読んでほしい。
言葉では書き尽くせない深さの哀しみと、それと同量の強い輝きに満ち溢れた物語です。