希死念慮。「死にたい」という思いがこみ上げてくる状態。
一般人では想像しきれない「暗い感情」の実態を、周りの人向け、当事者向けの二章構成でまとめられている。
拝読させていただいたところ、色々と思うことがあったため、語弊を恐れず伝えていきたいと思う。
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この作品の内容を「分かった気」になるのは、そんなに難しいことじゃないと思った。
敢えて引っ掛かる言い方にしたのは、この作品はうつ病をはじめとする、精神の失調をきたした人物が、
いかに重篤(病的)な状態で、いかに誤解されやすいかを、秀逸な表現を使って表現されているためである。
作品の冒頭にある、以下の例えがすべてを言い表している。
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そもそもうつは「心の風邪」なんて言いますがこれはもう『とんでもない!』話で、適切に治療しなくては死に至る「ガン」に匹敵する存在です。
例えば「死ぬこと以外、かすり傷!」なんて言って元気にしてた人ですら「死ねば2度とかすり傷を負わなくて済むんだ……」って言いだして自ら命を絶ってしまう。
そんな「恐ろしい」病です。
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「死にたい」という言葉を、(軽はずみ含め)一度たりとも使わないで生きてこられた人は中々いないはずだ。
だからこそ中途半端に「同情してしまう」。自分の尺度が相手の尺度と同じであると思ってしまう。
見当違いの優しさを振るってしまうし、見当違いのアドバイス(または叱咤)をしてしまう。
この作品を見て眼が冴えたのは、その点にある。
「なぜ【頑張れ】が禁句なのか?」を分かりやすく示している。
分かりやすくといっても、別に「うつ病の人はとっくに限界まで頑張っているから」みたいな、分かりきった要約ではない。
「あなた方がアドバイスしている間、当事者の意識はこんな状態です」というのを(誇張があるかは分からないが)文章で再現しているのである。
その表現力は上記に引用した箇所が示した通りで、こういったものが随所にちりばめられる。
この作品の優れている点として、段階を追って少しずつ心をほぐそうという構造がある。
まず、当事者向けではなく、周りの人向けになっている点からも明らかだ。
周りの人向けとしては、まずは誤解を解くところから入っているように感じられた。
まずは重篤さ、メカニズムを知ってもらって、「ではどうするか?」という流れに進む。
やっていいこと、やってはいけないこと、やらないといけないことが並んでいく。
読み終えた頃には、少なくとも「面倒だ」という印象は消えているのではないか。
当事者向けとしては、まずは寄り添っている。
経験者として、常に浮かびあがってくる「自殺」の選択肢とどう向き合うかということを書いている。
上を向いて歩こうとは言わない、だから、せめて視線を少しずらせないか。
人生を無我夢中で軽くしろ、と言っているようだった。
明るい感情は時間とともに減っていくのに、暗い感情は複利のように加速度的に積み上がる。
理不尽な仕組みの中で、声にならない助けを叫び求める人に、懸命に手を差し伸べようとしている。
そんな印象を受ける一作だった。