巨大ロボットと戦ってみよう!
牛☆大権現
第1話
「奴等の影はない。手早く済ませるぞ」
夜の闇に乗じて、畑に侵入する人影が複数人。
植物から実をもぎ取り、袋に詰める。
「必要な量は集まったな? 撤収するぞ! 」
男達が、袋を担いで走る。
畑の終わりと、森の入り口が見えはじめた頃。
けたたましいアラーム音と共に、上空から強力な光で照らされる。
「見つかったか! 止まるな、走れ!! 」
強力な光で目がくらみながらも、男達は足を止めない。
だが、地面の隆起に足を取られ、誰かが転倒する。
即座に起き上がろうとするも、上空から伸びてきた、金属の掌に拘束される。
残った男達は、連れ去られた仲間の悲鳴に、顔をしかめながら、それでも森の内部に走り込む。
「ハアッ……ハアッ……誰が、捕まった? 」
「元気と颯太の二人です」
男達は、森の奥深くで息を整え、確認する。
「クソッ! この中じゃ元気が一番力持ちだったのに! 」
一人が悪態をつき、木を殴る。
表面の破片が突き刺さり、血が流れる。
「よせ、傷が膿むと手を切り落とすしかないんだぞ! 」
窘められて、静止するものの、表情からは悔恨が滲み出ている。
リーダーらしき男は、重々しく口を開いた。
「……謙二、俺の袋を持っていってくれ。もし、俺が戻らなかったら、後を頼むぞ」
「待ってくれ! 宗吾さん、何をするつもりだ? 」
「二人を、取り戻しにいく。このまま人数を減らされれば、俺達はじり貧だ」
「無茶だ! 人類は、奴等相手に戦争すらさせてもらえなかったんだぞ! 」
謙二は、宗吾をガッシリ掴んで止めようとしている。
「アンタもあの日のニュースを見ただろうが? 米軍がミサイルを打ち込む中で、ただ農作業を続けるだけの、あの人型の鉄屑共の姿を!! 」
涙を流しながら、謙二は訴える。
「生身で、勝てる訳がない! 俺達にはまだアンタが必要だ、無駄死にしないでくれ……! 」
「分かってる! だがな、俺はもう我慢がならねぇんだ! 仲間を、みすみす目の前で失うのは……」
宗吾は、謙二の腕を力尽くで振り払う。
そして、走り去っていく……
宗吾は、放棄された民家から、ワイヤーやドライバーなど、いくつかの道具を手にしていた。
何もないのと比べたら、多少はマシだろう。
侵略者達の畑に歩いて行くと、赤黒い何かが落ちていた。
吐き気を堪えつつ近寄ると、巨大なものに押し潰された、生き物の肉片のようだった。
磨り減った靴を確認して、ようやくかつては人間であった事が分かる位に、原型を留めていないが。
「……墓も作ってやれなくて、すまない。俺も、全てが終わればそちらへ行く」
この瞬間、彼の動機に復讐も加わった。
宗吾は、肉片に手を合わせると、すぐに立ち上がり作業に移る。
宗吾は、作業を終えると、爆竹に火をつけて、わざと大きな音を出す。
けたたましく鳴る警告音、そして強烈な光。
警告音は耳を塞ぎ、光は目を閉じる事で感覚が麻痺するのを防ぐ。
ある程度、目が光に慣れた所で、鉄の巨人が走ってくるのが見える。
怖じける心を、自ら頬を叩いて叱咤し、相手の動きをしっかりと見る。
予め張ってあった、ワイヤートラップに躓き、鉄の巨人は転倒する。
予測通り、目の前スレスレに、巨人の手が落ちてくる。
指の下、関節部分に向けて、鉄の棒を縦向きに投げて合わせる。
転倒の衝撃で地面が揺れる。
地面に鉄の棒が深くめり込み、指関節の一部の破壊に成功する。
全体の機能に、殆ど支障をきたさないであろう、小さなダメージだ。
けれども、「確かに壊せる、攻撃が通じ得る」という確信で、宗吾を奮い立たせるには、充分な傷だった。
「うぉぉ!」
立ち上がる前に、すぐさまスコップで破損部分を追撃。
反動で腕が痺れそうになるものの、指パーツを一本、分断に成功。
興奮のままに、手首にも攻撃――しかし、これは弾かれる。
その事実に冷静になり、一度離れると、目の前を破壊してない方の掌が掠めていく。
「危ねぇ!?」
宗吾は、背筋がヒヤリとした。
危機の回避は同時に、攻撃のチャンスも産んでいた。
過ぎ去った掌の関節部分に向けて、尖った鉄の破片をばら蒔く。
幾つかは地面に落ちるが、巧い具合に関節の間に挟まったものもあった。
確率は低いだろうが、回路の破損に成功すれば指が動かなくなるかもしれない。
鉄の巨人は立ち上がるが、指一本の重さを欠いた為か、少しフラついている。
その隙を逃さず、膝の関節の隙間に向けて、釘を打ち込んだ。
噛み込まれた釘が、嫌な音をたてて、鉄の巨人の動きを阻害する。
攻め時だと判断して、執拗に膝部分をスコップで殴り付ける。
鉄の巨人は、そのまま地に倒れ付し、起き上がらなくなった。
人類の、初めての勝利だった。
宗吾は、勝利の余韻に浸る間も無く、異変を感じとり、作物の間に隠れる。
空間に、白い歪みが生じて、その中から宇宙服のような物を着込んだ、人間大の生物が降りてくる。
そして、鉄の巨人の周りを囲み、解体作業をしている。
どうやら、技師のような役割をもっているらしい。
漸く、敵の姿をおがみ、憎しみで飛び出したくなるのを、唇を噛んで堪える。
あの空間の歪みの先が、恐らく敵の本拠地だろう。
そこに潜伏し、彼らの技術を盗んで来られれば、人類はその時漸く、戦いの土俵に上がれる。
そういった打算の元、宗吾は空間の歪みの中に飛び込む。
地球に、自らの骨を埋めることが叶わない事を覚悟して。
巨大ロボットと戦ってみよう! 牛☆大権現 @gyustar1997
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