リサイクルショップで見つけたゲームにどハマりした件
サン助 ハコスキー
第1話
つい先日、35年連れ添った妻と離婚した。
60歳で、定年退職したのが春先の事。
妻が離婚を突き付けた理由は、仕事をしていない私が、昼間にやる事も無く、家にずっと篭ってゴロゴロしていたのが許せなかった。と言う事が1番の原因らしい。
ハンコを付いた離婚届を、妻が受け取って、家から出て行く直前に。
「毎日アホ面引っさげて、ぼーっとしてる貴方と二人きりで、死ぬまで顔を合わせて暮らすなんて、生理的に無理」と言われた。
それまでの35年の夫婦生活は、何だったんだろうか?
2人居る子供は、どちらとも家庭を持っている。どちらの家族も隣の県に住んでいて、元妻は、上の子供の家に同居するとの事だ。
独りになって、ポッカリと時間に穴が空いた。
家事などは、苦手では無いので、まったく苦にもならず、朝の9時には、終わってしまう。しかし、その後にやる事が無い。
なので、滅多に上がることの無い、2階に上がってみた。
息子や娘の部屋に入るのは、いったい何年ぶりだろう。
息子の部屋で懐かしい物を見付けた。
今年33になる息子が、まだ小学生の頃に遊んでいたゲーム機。
クリスマスに欲しいと言って、私の少ない小遣いからお金を出して買ったんだよな、と懐かしい記憶が蘇ってくる。
他の物を見ても、たいして何かを思い出す事もない。
リビングのテレビに、ゲーム機を繋いでみた。どうやら動くようだ。
しかしソフトが入っていないようで、ホーム画面が表示されるだけだった。
なので、ソフトでも買いに行こうと思い、久々に近所にあるリサイクルショップにでも行くとする。
確か、カゴに積まれた古いゲームソフトが、1本100円で売られていた筈だから。
リサイクルショップに入ると、平日の昼間なので、客など殆どおらず、店員もカウンターの中でテレビを見ている。
現行のゲーム機や、ソフトが並ぶコーナーの先に、目的のコーナーがあるので、通路に平積みされているゲーム機の箱を避けて、奥まで進んだ。
横文字のゲームソフトが並ぶ中で、漢字のソフトを探してみた。
将棋や囲碁等のソフトが、乱雑に積まれている中で、悪代官というタイトルが目を引いた。
シリーズ化されているようで、数本並んでいたのだが、ひとつだけパッケージの違う物があった。
他のパッケージには、いかにも悪代官という感じの人物がニヤリと笑みを浮かべている。
しかし、このパッケージだけは、沢山の正義の味方風の人物達が、ニヤリと笑みを浮かべていた。
値札を見ても、他の悪代官と同じ100円だったので、ひとつだけパッケージの違う悪代官を持って、レジに向かい購入した。
「袋は、要らない」と、店員に伝えて、説明書を読みながら帰宅する。
ゲームなんて何年ぶりだろう、ファミコンがスーパーになった時には、既にやっていなかった気がする。
私も一応スマートフォンを持っているが、老眼で、小さい画面を見続ける事が嫌なので、ゲームなどはやっていない。
なので、少しだけ楽しみである。
リビングのテーブルに、飲み物と食べ物を用意した。
自称プロゲーマーの息子が言っていた筈だから「ゲームに集中するなら、トイレに行ってから、食べ物と飲み物を用意して、動かなくて良い環境を作ってから、始める事が肝心。」それを忠実に守ってみた。
ゲーム機に、ソフトを入れて、ゲーム機を起動した。
ソファーに座りテレビに注目する。
ゲーム機のメーカーのロゴが画面に表示された後に、ゲームが起動する。
最初のタイトル画面が、ファミコンの頃と比べたら段違いに綺麗で、オープニングに見入ってしまった。
【開始】を選んでゲームをスタートさせる。
最初に、名前を入れる画面になった。
自分の名前を入れる事に、少しだけ躊躇したが、他に良い名前など思い付かず、自分の名前を入れてみた。
どうやら、“越後屋どん兵衛”という人物が、チュートリアルや本編の説明をしてくれるキャラのようだ。
キャラの動かし方や、このゲームの主目的を教えてくれた。
どうやら、このゲームの主目的は、悪代官になって、正義の味方に討伐される事のようだ。
どれだけ気持ち良く、正義の味方が悪代官を討伐出来たか。
それが評価されて点数が出るらしい。
チュートリアルの説明パートで、越後屋に説明された通りに、数人の浪人を雇って、代官屋敷に配置した。
私の分身でもある悪代官は、最奥の部屋に居るようだ。
チュートリアルで出て来る正義の味方は、
登場するキャラの名前がテキトー過ぎないか?
そんな事を考えていたら、配置した浪人と、正義の味方の戦いが始まる。
テレビの中で、コミカルに動く寿司太郎侍と浪人達。
バッサバッサと切られる浪人達を抜けて、寿司太郎侍が、悪代官の部屋に辿り着いた。
そして寿司太郎侍が実写になって、決めゼリフを放った。
「てめえの悪事なんざ、全部お見通しだ。しかしクソだな。正義の味方をしていて初めてだ、こんなクソつまらん代官屋敷は。」
なんかイラッとした。
そして一撃で、私の分身である悪代官が、寿司太郎侍に切り殺される。
チュートリアルの評価は、最低ランクのE評価だった。
チュートリアル総合評価 E
護衛配置 E 不快感しかない
罠配置 E 何も置いてない
爽快度 E 気分が悪い
浪人力 E 雑魚もいい所
悪代官力 E それでも貴方は悪代官?
正義の味方より一言
クソだな。それ以外に言いようが無い。
チュートリアルなのに、この評価とは……
「ムカつく」と子供達が言ったら、言葉遣いが悪いと、怒っていたが。
「ムカつく」としか表現出来ない。
こんな時などは、ムカつくが正しい表現なのかもしれない。
子供達を怒った事に、少しだけ後悔した。
腹が立ったので、もう一度チュートリアルから再開してみた。
名前は同じ。しかし今度は、浪人を雇えるだけ雇って、各部屋に配置してみた。
「ふふふふ。各部屋に、15人ずつ浪人を配置してやった。
そして寿司太郎侍の決めゼリフ。
「てめえの悪事なんざ、全てお見通しだ。しかし、浪人をうじ虫の如く、うじゃうじゃ配置すりゃ良いなんて考えるなんて、お前の頭の中身は、どうなってんの? こんなのは、最低ランク以下の代官屋敷だ。」
コントローラーを投げそうになった。
そして、前回と同じように、一撃で切られて死ぬかと思った、私の分身である悪代官が。
1合だけ、寿司太郎侍と打ち合ってから、呆気なく切り殺された。
チュートリアル総合評価 E
護衛配置 F 詰め込みすぎ
罠配置 E 何も置いてない
爽快度 E 不快感しか感じない
浪人力 E 結局は雑魚
悪代官力 E 悪代官のくせに頭使えよ
正義の味方より一言
小学生か。人数が多ければ良いなんて、安易な発想、ホントにお前はアホだな。
「あああぁぁぁムカつくぅぅぅ。」
何年かぶりに叫んだ気がする。
佇まいを直して、ソファーに座り直した。
あまりにも悔しいから、もう一度チュートリアルをプレイしてみる。
今度は、浪人を各部屋に5人。
落とし穴とトラバサミを、各部屋に1つずつ。
悪代官の部屋に2人の浪人を配置した。
そして配置完了を選んで、正義の味方を招き入れた。
今度は、クソとか言わせねえ。
寿司太郎侍が、最初の部屋に入った時に、他の部屋の浪人達が、落とし穴に詰まる。
落とし穴に、入り切らなかった浪人達が、トラバサミを踏み抜く。
一部屋目の浪人達だけ、罠を避けながら戦ったのだが……
他の部屋を通過する寿司太郎侍は、罠に掛かった浪人達の隙間を、素通りして行く。
そして寿司太郎侍の決めゼリフ。
「てめえの悪事なんざ、全てお見通しだ。しかし更にアホだな。浪人の足元に罠を置いたら、馬鹿浪人が掛かるにきまってんだろ? や〜いアホ代官ww」
コントローラーを投げた。
コードが付いているので、遠くまで飛ばなかった。
チュートリアル総合評価 E
護衛配置 D 前回より少しだけマシ
罠配置 F 配置が馬鹿丸出し
爽快度 E 胸糞悪い
浪人力 E 雑魚もいい所
悪代官力 E 笑える
正義の味方より一言
頭の悪い悪代官に雇われて、罠に掛かった浪人が可哀想。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
言葉にならない声が出た。こんなの60年の人生で初めてだ。
コントローラーを拾って、ソファーに座り直して、もう一度チュートリアルをプレイする。
まずは浪人の配置だ。
各部屋の、部屋の真ん中に近い場所に、浪人を三人ずつ配置した。
次に罠の配置。
今度は、浪人の2マス後ろに、落とし穴を配置した部屋と、トラバサミを配置した部屋に分けてみた。
そして、悪代官の部屋の入口から、1マスの部分に、全てトラバサミを敷き詰めてやった。
「ぶっ殺す、寿司太郎侍!」
今度は、浪人達が罠に掛からない。
寿司太郎侍も、浪人達と戦ってる最中に、罠を気にしているようだ。
バッサバッサと浪人達が切り殺されて、悪代官の部屋にやって来た、寿司太郎侍。
そして決めゼリフ。
「お前の所まで、どうやって行けば良いんだよ? 歩くスペースくらい作れよ。バカなの?」
「お前の悪事」の下りが省略された! セリフも滅茶苦茶ムカつく。
帰ろうとする寿司太郎侍に、駆け寄って切り掛かって行った、私の分身の悪代官。
寿司太郎侍に辿り着く前に、トラバサミに挟まって、ジタバタともがいている……
寿司太郎侍は、普通に歩いて帰って行った。
チュートリアル総合評価 D
護衛配置 C 普通よりちょっと下
罠配置 D+ 糞
爽快度 D 途中まで少し良かった
浪人力 E やっぱり雑魚
悪代官力 E 死ねばいいのに
正義の味方より一言
成敗される気があんのかよ? 頭が悪いにも程がある、途中までは、前回までより良かったのにな。諦めんなよ、ドンマイ。
「ぐぁぁぁぁぁぁ! なんだこれは!」
リビングに、私の叫び声が響き渡った。
佇まいを、もう一度直して、考えてみる。
いい事を思いついた。
こんな時は、自称プロゲーマーの息子に聞けばいい。
時計を見ると、正午を少し回った時間で、今なら昼休み中だろうと、電話を掛けてみた。
「もしもし、智則。父さんだけど、少しいいか?」
「どうしたん?珍しい。昼休みだから大丈夫だけど、何かあった?」
就業中の息子に、ゲームの話題をしても良い物か? と考えたが、あんなに腹立たしい事を、連続で経験した事が無かったので、仕事の邪魔になるかもしれないが、聞いてみる。
「父さんさ、今日テレビゲームを始めたんだけど、凄く腹立たしい評価しか貰えなくてな。お前は、プロゲーマーとか、自称してただろ? だから色々と相談に乗って欲しくてな。」
「父さんがテレビゲーム? どうしたのいったい。まあ分かる範囲でなら相談に乗るけど、どんなゲーム?」
「悪代官になって正義の味方と戦うゲームなんだ。」
「あ〜、アレね。ちょっと話したい事もあるから、仕事が終わったら、そっちに行くよ。」
「そうか。そしたら、こっちに来てから、アドバイスして貰おうかな。気を付けて帰って来なさい。」
「ん。それじゃ7時くらいに。」
明日は、祝日だな。たまには、息子と酒でも飲もうかな。
そんな事を考えて、酒が無い事に気付く。
ここ暫く、離婚する事が衝撃的過ぎて、晩酌すらしなかった。
どうやら私は、嫌な事があっても、酒に逃げるような人間じゃ無かったみたいだ。
酒やツマミの材料を買うのに、近所のスーパーマーケットまで来た。
しかし、息子の好む酒の種類を知らない。
なので、数種類の酒を買い物カゴに入れた。
どれかひとつでも、好ましい物があれば良いと考えて。
私としては、酒の肴に、こだわりなど特に無く、強いていえば少しだけ塩っぱい物が良いと言うくらいだから、息子が好きな鶏の唐揚げと、イカリングを作るための材料と、パックの焼き鳥を1つ買って帰宅する。
周りを見れば、同世代の男性が数人レジに並んでいて、あの人達も離婚して1人なのか?などと考えてしまう。
帰宅して、唐揚げとイカリングを作る為に油を探した。見つけるまでに30分程費やした。
チューブに入ったすりおろしニンニク、塩胡椒、少量の醤油を混ぜて、1口サイズに切った鶏肉に揉み込む。
イカリングは、揚げるだけの物を買ってきたので衣までは作らなくて良い。
軽く小麦粉をまぶして、唐揚げを揚げ始める。息子が来たら、もう一度揚げて仕上げるつもりだ。イカリングも、息子の到着直前に揚げたら良いだろう。
さて、息子が来る前に、もう一度チュートリアルに挑戦してみよう。
さっきの失敗を考えてみる。
寿司太郎侍が、悪代官に辿り着けないとダメらしい。
なので、悪代官の部屋のトラバサミを、一つだけ開けて設置してみた。
悪代官の部屋に来るまでは、前回と変わらない寿司太郎侍。
しかし、部屋に辿り着いてからの、寿司太郎侍の決めゼリフが。
「1箇所開ければ良いと思っただろ? そうじゃ無いんだよ、もっと
ダメ出しをされた。
寿司太郎侍に襲いかかった悪代官は、刃を合わせる事も無く、寿司太郎侍に一閃されて、何も出来ずに死んでしまった。
チュートリアル総合評価 D
護衛配置 D+ 2回目だから飽きた
罠配置 D 殆ど前回と変わらない糞
爽快度 D 最後の部屋がダメ
浪人力 E やっぱり雑魚
悪代官力 D 馬鹿な切られ役?
正義の味方より一言
2回も同じ事をするのはダレる。もう少し配置を変えてくれ。
「なんで偉そうな口調なんだ、寿司太郎侍!」
しかし、前回より少しだけマシだ。
今回の事を、メモに取りながら考察してみた。
ゲームでメモを取るなんて、ドラクエの復活の呪文以来だな。
結局の所、息子が来てから見てもらおうと思った。既に6時半を回っている。
イカリングと唐揚げを揚げて、焼き鳥をレンジで温めよう。
今は、空きスペースになっている駐車場に、車が入って来た。
どうやら息子が到着したようだ。
「ただいま〜。皆で来たよ〜。」
「こんばんは、お義父さん。」
「じいちゃん、やっほー。」
なんと、息子が嫁と子供を連れて来てくれた。久しぶりに、我が家が賑やかになりそうだ。
「あれ?揚げ物の匂い。もしかして、父さん料理でもした?」
「ん、唐揚げとイカリングを揚げたぞ。」
何故か息子が驚いている。
「料理出来たんだ。知らなかった。」
「若い頃は、一人暮らしだったからな。自炊くらい出来るぞ。」
へぇ〜、と呟いた息子の手には、ビニール袋を持っており、数種類の惣菜を買って来てくれたようだ。
「お義父さん、少し台所を借りますね。おツマミでも作りますから。」
そう言って息子の嫁さんが、台所に向かう。
「じいちゃん、どんなゲームしてんの? 僕でも出来そう?」
「そうだ、どんなゲームを買ったか、パッケージを見せてよ。」
息子と孫に言われて、ゲームソフトのパッケージと説明書を渡した。
「うわ、これって自主制作ソフトじゃん。珍しいな。」
「古っ。こんなのスイッチじゃ出来ないよ。つまんないの。」
自主制作ソフト? そんな物があるのか?
孫の言ってるスイッチとは、離婚前に、私の小遣いから買い与えたゲーム機だな。
「自主制作ソフトとは? 普通にリサイクルショップで買ってきたんだが。」
「ちょっとタイトル見てみなよ。普通の悪代官は、悪代官とナンバリングしか書いてないけど、これって……」
そう言われて、パッケージの悪代官と書いてある部分を良く見てみる。
悪代官の前に、小さな文字で“やられ役の”と書いてあった。
「“やられ役の悪代官”なんて、市販されてるソフトじゃないよ。」
そうなのか?よくわからん。
「よく見たら、映画のDVDのパッケージに、コピー用紙にプリントしてある表紙を入れてあるだけだし。説明書も、手作り感満載じゃん。」
でも、わかりやすい説明書だったぞ。
「市販されていないソフトだと、何か不味い事でもあるのか?」
「攻略サイトなんかが無くて、全部を自分で考えて、試行錯誤しないとってだけかな。」
ほっ。それなら良かった。
「とりあえず、酒でも飲みながら、チュートリアルをやってみてくれ。酒は何が好きか分からなかったから、色んな種類を買ってある。」
「おっ! それなら、発泡酒や第3のビールじゃない、普通のビールで。」
そう言って、星のマークの付いたビールを、冷蔵庫から取り出した息子。
息子と一緒に冷蔵庫を開けて、入っていたオレンジジュースを取り出した孫。
リビングのテーブルに料理を広げてくれた息子の嫁さんは、息子と同じくビールを持って。
そして私は、いつもの様に冷酒をコップに半分程。
「お疲れ様。」
「ん、お疲れ様。」
そう言って、息子家族と夕飯を食べる、と言う滅多に無い出来事が始まった。
「しかし、父さんがゲームか。母さんが出て行ってから少しだけ変わった?」
「確かに、少し思う所はあったな。定年してから、無気力過ぎた気がするよ。」
さすが自称プロゲーマーな息子だ。
私が操作すると、配置を終えるのに1時間位は費やすのに、息子がやると、雑談をしながらでも、15分程で終わった。
「ここで三角ボタンを押すと、浪人の強さも調整出来るみたいだね。」
おお、それは良い事を聞いた。メモしておかねば。
「あとさ、無限に使える落とし穴とトラバサミ以外にも、越後屋って項目を選んで、店に入れば、吊り天井や隠し弓なんかの、1回使い切り罠も用意出来るみたい。」
おお、越後屋どん兵衛が、役に立っている。
「とりあえず1度やって見せるよ。上手い具合に浪人や罠を配置して、正義の味方が気持ちよく、代官屋敷を攻略するようにし向ければいい訳ね。」
そう言って、最初に配置した物を全て撤去して、息子が再配置し直す。
そして、寿司太郎侍が動き出す。
前に居る浪人だけじゃなく、横からも浪人が襲いかかる。
それを、コミカルな動きで制圧して行く寿司太郎侍。
寿司太郎侍が罠を警戒しつつ、少しだけ強い浪人との戦うのだが。
罠を避けながらも、部屋の中を、縦横無尽に駆け回っていた。
そして決めゼリフ。
「てめえの悪事なんざ、全てお見通しだ。お天道様が許しても、江戸のお寿司は許さねえ。覚悟しろい!」
う〜ん……
お天道様より、江戸のお寿司の方が偉いのか? そんな疑問が浮かんで来たが、前回までは散々なセリフだったのが、正義の味方のセリフみたいだ。
悪代官の前に配置された、ちょっと強めの浪人が、寿司太郎侍に切られる。
そして悪代官の番が来た、一閃で終わるのは変わらないようだ。
だがしかし。
「あの世で閻魔様に謝罪しな。」
悪代官を切り殺してからのセリフもあるのか。
気になる評価は。
チュートリアル総合評価 B+
護衛配置 B そこそこ良い
罠配置 B かなり良くなった
爽快度 A なかなかに爽快
浪人力 B 強弱があって良い
悪代官力 B その調子で頑張れ
正義の味方より一言
突然どうした? 人が変わったみたいだ。
もしか代役を雇ったなら、さっさと解雇しろ。いきなり爽快感が増すなんて、不正だ。
「何だこの評価ww これ、めちゃくちゃ面白いじゃん。」
凄い高評価だ。
私とは、比べ物にならない。
「高評価だな、父さんが配置した時は、酷いもんだったぞ。」
孫も、ゲーム画面を見ているのが楽しかったようだ。
「次は、僕が配置してみる。」
そう言って孫の番になった。
こんなに楽しい夕飯は、いつ以来だろう。
「父さん、今日は泊まっていくから。しっかりとチュートリアルのS評価を取ってから、次のステージに進もう。」
楽しい夕飯は、楽しい夜会へとなるようだ。
息子の嫁さんも参加して、何度もチュートリアルをやり直したが、結局1度もS評価は、取れなかった。
それでも、次の日の夕方まで、息子夫婦と孫に囲まれて、楽しい2日間だった。
「母さんさ。離婚届は、役所に出してないから。もうちょっと、母さんの事も考えてあげてよ。やっと定年退職して、まとまった時間が出来たんだからさ。」
帰る前に、息子が私にボソリと言った言葉は、何故か嬉しい事だと感じた。
明日は、娘の所にでも出掛けて、妻に謝ってこよう。
妻が、出て行く直前に言った言葉を思い出したら、“ぼーっとしている貴方と”と言っていたはずだ。
そして半年後。
今日は、朝から、妻と2人でオートバイに乗って、北海道に向かう旅の初日だ。
妻に謝罪して、許して貰った後に、2人で一緒にオートバイの免許を取りに、教習所へ通った。
教習所に通う間、毎日のように、あのゲームをやっていた。
妻と2人で、どこに強浪人を配置するかや。
ここは、落とし穴で良いけど、ここは、下から現れる浪人罠にしよう等、相談しながら。
半年経っても、1度もチュートリアルのS評価が取れず、未だに寿司太郎侍との付き合いは、続いている。
退職金で購入したオートバイは、それほど高い物では、無かった。2台で50万円を少しだけ超えた程度だ。
何気なく入った息子の部屋で、見付けたゲーム機。
何となくで選んだ“やられ役の悪代官”は、私の老後を変えてくれた。
息子が近くの工場に、転勤になったおかげで、息子夫婦と孫が、今では、同居している。
「行ってらっしゃい、おじいちゃん、おばあちゃん。」
「気をつけてな、安全運転だぞ。」
「忘れ物は、無いですよね? 楽しんで来てくださいね。」
見送ってくれる3人に手を振って、オートバイを走らせる、妻とインカムで会話をしながら。
会話の内容は、もちろん。
「寿司太郎侍って、ちょっとムカつくよな?」
「ちょっと所じゃ無いですよ、かなりムカつきます。」
やられ役の悪代官の事。
おしまい
リサイクルショップで見つけたゲームにどハマりした件 サン助 ハコスキー @San-suke
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