第2話 大きな希望の戦士!ついでにお前の黄色い歯!

「なんだよ、結局持って帰って来たんじゃねぇか。」どうやら晃は不服のようだ。「で、今日結局カウントダウン行くのか?」宇田が思い出したかのように言う。そうだ。そもそもはカウントダウンまでの暇つぶしとしてカラオケに来ていたのだ。別に人体蒸発マジックを見に来たわけでも無ければ、ましてやたこ焼きを食って世界を救え、だなんてイカれたお告げを聞きにきたわけでも無い。新年を祝うカウントダウンに行く予定だったのだ。確かに新年最後を締め括るにはカラオケボックスの出来事は余りにパンチが効いたイベントだったけど、でも、冗談きついよ。だろ?

「まぁカウントダウンは行こうぜ。これで行かなかったら本末転倒だ。」隊長らしく(こいつらが勝手に呼んでるんだけど。)威厳を持って言ったつもりだ。「ま、そうだな。もしかしたらお好み焼き怪人、来るかもな!」不服そうな晃の顔は次第に綻び、なんだか浮かれている。やめろよ。たこ焼き食ったらやられる程度の異星人になに期待してるんだ。と言いたい気持ちをグッと堪えた。「来たら隊長のかっこいい所、見れるなぁ!」宇田も嫌にテンションが高い。そしてこいつらの共通認識では、やっぱり戦うのは俺らしい。こいつらもう主食お好み焼きにしてくれ。会場に着くと出店も出ており、はしゃぎまくっているグループも幾つか目に止まる。いかにも新しい年が始まるぞ、という感じだ。俺たちは屋台で適当に食べながらカウントダウンの花火が上がるのを待つ。腕時計の針は11時40分くらいを指している。しかし嫌でも考えてしまう。えっ?何のことだって?少なくともお年玉の額とか浮ついた話ではなくて、襲来するはずのお好み焼き怪人なる存在のこと。そしてたこ焼きのこと。ちなみに出店のたこ焼きは全く買う気にはならなかった。そして襲来のタイミングがこの新年最初では無いか、と言うことなのだ。聞くところによるとどうやら今年は平成が最後らしいじゃないか。来年の元号は...まぁ聞き取れなかったが、レコーダーは確実に2年、と言っていた。と言うことは間違いなく近い将来訪れるはずなのだ。勿論あれがテレビ番組でなければ。俺は忘れよう、とは言ったんだけどもう完全に信じ切っている。きっとあれだけ話し込んでた宇田や晃よりも信じている自信がある。「おいお好み焼き怪人来るぞ!」晃が言う。俺は思わず周囲を見渡したが、時刻が12時になっただけだ。ハッピーニューイヤー。そこには至って平和な光景が広がっていた。恐らくここにいる人間の大多数はお好み焼きなんて単語、頭に浮かんでないだろうしましてや主食をお好み焼きにする異星人の事なんて考えているのは恥ずかしながら俺たちだけだと思う。俺たちは、まぁ結果から言うと少し期待していた。あんなの見せられたらな。そりゃ、新年に来るとは限らないけどたこ焼きにだって賞味期限があるだろ。三人で途方に暮れて帰路に着くと、曲がり角に何かが、いる。この不気味な感じ。間違いなくヘルメット野郎に接触した時と同じ感じだ。もしくは、少し薄着だから寒いのかもしれない。だんだん近づくにつれ顔がはっきりと見えてきた。そして思いの外でかいな。男は大体180は超えているだろうか?かなり長髪だな。和式トイレは使えないだろう。全身をスーツに身を包み、右手にはフライ返し、左手にはソースだ。色男が台無しでは無いか?ともかく明らかにお好み焼き怪人がそこにいるのだ。もしくはただのお好み焼きマニアだ。「おい!お前お好み焼き怪人だろ!」晃が威勢よく唱える。仮に一般人だとしたら死ぬほど失礼なのだけど、こんな格好だったらどっちにしろ間違いでは無いな。「フン、君たちはこれより削除される予定なのだよ。死にゆく者にかける言葉など無いのだが、教えておこう。私は好厄美耶鬼。貴様ら人間の冥土の餞別には贅沢すぎる名だったかな...?そしていかにも私がお好み焼き星の誇り高きエリートなのだよ。」なんだ、偉くお喋りじゃ無いか。聞いても無いことばかり答えるし、本当にエリートなのか疑わしい。お好み焼き星人、居たんだな。そしてなんか俺の想像と違う。やけに物騒だ。発言が、と言うだけでフライ返しとソースなので別に怖くは無い。晃がこの姿を見て笑いながら「馬鹿かお前?それはただのお好み焼き好きな人だ!消す?冗談はソースで汚れそうなその真っ白いスーツだけにしとくんだな!」物凄く好戦的だ。一応未知の存在だぞ。そしてお前のその穴が空いた革靴も冗談ではすまない。「良いだろう。みせしめにはお前のような馬鹿が丁度いいのだ。」美弥鬼と名乗る男はフライ返しを構える。そしてそれがなんと晃の足元まで一気に伸びた!嘘だろ!フライ返しで脚がちょん切れる事にも驚いたけど、こいつ俺たちをまじで殺すつもりだ。「さぁ、そのたこ焼きを渡してもらおうか。そいつは我々の計画に邪魔でね...」脚が千切れ呻く晃を蹴飛ばし俺に近づいて来る。南無阿弥陀南無阿弥陀。俺は震えた。涙も出てきた。馬鹿らしい名前の響きからは想像もつかない恐怖が全身を覆う。しかし助かる方法、少なくとも俺ら三人が無事、まぁ一人は完全に義足だろうが生きて帰る希望がまだある。俺がこのたこ焼きを食べるのだ。このたこ焼きがどういう作用があるかは知らない。しかし何も手を打たなければ俺たちがお好み焼きの豚バラになるのは目に見えている。そっと取り出す。「良い子だ。土下座すれば楽に殺してやらんくも無いぞ」見てろよ?調子こいてられるのも今のうちだぜ。「俺たちは生きて帰る!絶対にだ!」俺は威勢よくたこ焼きを口にした。眩い光が俺の体、厳密には主に口の中の虫歯を中心に放たれた。奴はフライ返しを伸ばしていたがかなり怯んでいる。「野口、なのか...?」宇田が問う。逃げてなかったのか。俺は頷く代わりに宇田の方を向き、小さく拳を握りしめた。「貴様...ただで帰れると思うなよ...」やつの顔がまるで乾いたレーズンのような顔で怒り狂っている。「それは俺の台詞だな。」俺も負けじと漬けた梅干し、ええいそんなのどうでもいい。実際のところ俺はかなり頭に来ている。なんだか体から力が漲る。俺の体をふわふわした鎧が包む。耐久性が心配だ。恐らく顔にも何か着いている。鏡を見る暇は無いから確認は出来ないけど、とにかく着いてる。そしていつの間にかベルトがしてあり大きなたこ焼きが二つ、専用の穴にはまっている。見た目はこんなだが明らかに強くなっている。やつの伸ばした殺人フライ返しを一蹴で弾き飛ばしたのがそれを物語っている。「いい気になるなよ!他力本願の弱者どもが!」負け犬が吠える。舐めるなよ。俺たちには誇りがある。人としての意地がある。仲間を傷つけられた怒りがある。

「仮面ライダー大希、見参。」

それは自然と口を突いて出ていた。

戦いの幕は開かれた。

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仮面ライダータイキ 俺たちまじでカッコeイケメンs @scp888763677jp

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