第43話
小原警視正は、奈良博物館館長の部屋にいた。
ひまわりの絵画の前に座り込んでいた。
「ああ・・・これは、龍作が描いた絵画だ」
深い吐息を吐いた。
(俺に芸術の良さなど分かるはずが無い)
「分かる気もない。ははっ」
彼は笑ってしまった。おのれの才能の無さを嘆くしかない。
「しかし・・・」
小原は語気を強めた。
「俺は刑事だ。警視正だ。芸術がなんだ」
毒づいたが、ふうっと肩から力が抜けた感じだった。
(何かが違う・・・)
彼はじっと絵画を見つめていた。
(それくらい、俺にも分かる。だが・・・)
「俺も刑事だ。警視正だ」
少しして、
「違う」
と声を上げた。
(ここか・・・)
彼はゆっくりと絵画に近づいて行った。
絵画の右下の方が薄い灰色にぼやけていた。
(ここだ)
小原は目をこらし、何が描かれているのか、見極めようとした。そうすることで、九鬼龍作の意図が・・・今度の事件が何なのか分かると思ったのである。
(人だ)
しかも、二人いる。ああ・・・大人と子供・・・いや、こどもというより小さい・・・。
(どこかで見たことがあるような気がするのは、きのせいか!この光景・・・)
目をつぶった。何かを思い出そうとするとき時、こうする。
「何だ?」
突然飛び出た自分の声で、彼は目覚めた。
「知っている。以前、何処かで見た光景だ」
はっきりと思い出した。
しかし、確証はない。
後は、彼が推理するしかなかった。
(あいつは・・・ほんとうに九鬼なのか!)
そして、抱いていた子供は、あいつの・・・
「そうか」
こう結論するしかなかった。
小原は握り締めている紙片をひらいた。
くしゃくしゃになっていて、もう何が書いてあるのか判別するのは不可能だった。ただ紙面全体がマゼンダ色に滲んでいた。
九鬼龍作はソファに背を落とし、ゆったりとした気分を味わっていた。
「いい絵だ」
彼は腕を組み、ニヤリと笑みを浮かべた。
マゼンダ色の額縁に、黄色いひまわりは見るものの心を苛立たせるかもしれない。だが、彼は、
「気に入っている、俺は」
と呟き、ふっと息を吐いた。今ごろ小原警視正も同じ気分なのかもしれない。だが、
(俺のプレゼントを素直に受け取ってくれただろう)
小原警視正は。龍作はそう願っている。この先小原警視正とは何度も会い見舞えるだろう。その時、今度の事件の真相を呟くことがあるだろう。その時まで語らずに置くことにする。
龍作は急に立ち上がり、
「いいクリスマスだった」
こう呟いた。
来年、またあの子に会うのが楽しみだ。私が望んでいる以上に成長しているのが、何よりもうれしい」
(あの子は、来年、また成長しているだろう。そういう子だ、あのゆうは)
九鬼龍作の冒険 黒いヒゲのサンタクロース 青 劉一郎 (あい ころいちろう) @colog
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