第42話
陽太郎はまだソファに眠っていた。龍作が寝かしたそのままの姿で、気持ちよさそうに眠っていた。
「いい子だったかな」
龍作は優しく二度ばかり撫でた。
奈良博物館にあった龍作が描いたひまわりは、館長のマンションに戻してある。もう一つは、ここで陽太郎と共にある。龍作は同じ絵を二つ描いていたのだ。
(小原警視正はきっと気に入ってくれるに違いない)
本物のひまわりを龍作の描いた絵に交換をしたのは、彼の仲間によってなされた。
「さあ、家に帰ろうか。お母さんが待っているよ。いい夢を見ているか」
陽太郎を抱き上げた。足を龍作の体に巻き付けて来た。
(起きたかな!)
陽太郎の足が龍作の体にしっかりと巻き付いたのである。だが、気のせいだった。顔は龍作の肩から顔を出した。子供の体の暖かさが直に伝わって来る。
(重い・・重くなったな)
龍作は、今改めて感じた。
「ふぅ・・・」
心地よい暖かさだった。龍作の顔が崩れた。
「これから、お母さんの所に帰ろう。きっと待っているよ、あの人は」
龍作は急に立ち止まった。
「ねえ・・・」
耳元で、陽太郎が囁いた。
(やはり、起きているのか・・・起きたのかな?)
と思ったが、まだ夢の中にいるようだ。
「あの絵・・・あそこに僕と・・・僕のお父さんがいるよ」
陽太郎の目はうっすらと開いているように見えたが、やはり夢を見ていた。
(ふっ!)
(この子は・・・いい子だよ、小原警視正)
「そうだね、よく覚えているね」
陽太郎は頷いたように感じだが、気のせいだと龍作はまた感じだ。
(まだ、眠っている)
「よし、いこう」
トナカイがひくソリは、大空に舞い上がった。雪はまだ十分待っていたが、龍作はしっかりと抱き締めていた。
「寒くないだろう、うんと暖かいはずだ」
彼は自分の体の体温を、この子に与え続けた。
「もう少し、お休み」
龍作は眠っている陽太郎に優しく声をかけた。
「陽太郎・・・今日のことは夢ではないんだよ。みんな私からの贈り物だよ。しっかりと受け止めておくれ。そして、たぶん、君が送ったプレゼントも、みんな夢ではないんだ。朝目が覚めたら、君に感謝するに違いない。いい子だから、もう少し夢を見続けておくれ。私は、もう行かなくてはならない。また、来年のクリスマスに会いに来るよ」
城倉美千代は、陽太郎が眠っているベッドのシーツを直していた。寝返りを打ち、手がシーツからはみ出たのである。
「いい夢・・・見ているのね」
美千代は立ち上がり、窓から外を見た。
まだ雪は降っている。雪のクリスマスになったわね、と美千代は呟いた。
(ピッピッ・・・ピッ)
美千代は雪の中に鳥を見た。
「あの鳥・・・」
後は、言葉にならない。でも、
「あの人をよろしくね。そして、一度でいいから、私の前に現れて」
こう伝えてと心で思った。」
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