宿命の対決

お竜

宿命の対決

 男は、息を殺し待っていた。


 今日こそ決着をつける。

 何日も探し続けた。逃せば、奴はまた姿をくらます。


 奴の運動能力は、男より優れている。

 その小柄な身体から想像もつかない驚異的な瞬発力、恐るべき俊敏さ。

 ときに空を舞うことさえある。あのときほど男は、自分の無力さを感じたことはない。


 そこで今回は、飛び道具を調達した。近接戦闘に備え打撃武器もある。


 重苦しい時間が流れた。


 耐えろ。

 我慢のときだ。


 視界の隅に、奴の姿をとらえた。


 こちらが動いた刹那、奴も動く。

 すっと物陰から滑り出た奴に、男の手に握られた噴霧器から、強力なガスが噴き付けられた。


 ガスは致命傷こそ与えなかったが、奴の動きを緩慢にした。

 いつもの奴と比べれば、まるで遅い。


 勝利を確信した男は、武器を持ち替え、右手をためらいなく振り下ろした。


 ズバムと激しい衝撃音。


 得物を静かに持ち上げると、身体を砕かれ、内臓をはみ出させた、奴の醜い姿があった。

 身体の一部が千切れていても、いまだにぴくぴく蠢いている。


 男は、再び得物を振り下ろした。

得物の上に両腕を乗せ、体重をかけて奴をすり潰す。


 今度こそ、奴は完全に死んだ。


 男は、ほっと息をついた。

「でかいゴキブリだったぜ」


<了>

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