桜餅 さくらもち
雨世界
1 恋は甘い? それとも……、苦い?
桜餅 さくらもち
プロローグ
恋は甘い? それとも……、苦い?
本編
君と出会う。
僕が君と出会ったのは、春の始まりの時期だった。二人の出会いは学校に向かう、一台の青色のバスの中だった。
「おっす」
君はそんな軽い感じで僕に馴れ馴れしく声をかけてきた。
バスの中に学生の姿は二人だけ。
僕と君。
僕はバスの最後尾の席の右側の席に座って、君はバスの最後尾の左側の席にあぐらをかいて座っていた。
「君、新入生? あんまり見ない顔だね」君は言う。
「……まあ、そうだけど」
ちらっとだけ君を見て、僕は言う。
君は僕と同じ高等学校の制服を着崩してきていて、ワイシャツの胸元は結構空いていて、黒色のスカートもかなり短かった。(絶対に生徒指導の先生に注意されるような短さだった)
首元の赤いリボンもとっているようだ。
そんな君が僕を見て、「うん? どうしたん? 私に一目惚れでもしたの?」とにっこりと笑って言った。
君はとても綺麗な人だった。
モデルのような顔立ちをしていて、メイクはあまりしていないようだったけど、薄くしているそれは、君によく似合っていて、髪の毛も茶色に染めていた。
(確かに一目惚れしても、おかしくない容姿を君はしていた。君本人も、それを経験的に知っているのだろう。その顔にはつねに自信が伺えた)
「ねえ、君、名前は?」君が言う。
僕は君に名前を答える。
僕はバスの中から君とは反対側にあるガラスの窓越しに外に流れる町の風景を見ていた。
「よいしょっと」
そう言って、君が僕の横の席に移動をした。
僕は君を見る。
すると君は自分の名前を僕に言って、それから「これから、よろしくね」とにっこりと笑って、僕に言った。
「よろしく」と僕はつまんなさそうな顔で言っただけだったけど、内心は、その君の笑った、まるで可憐な花がその場所にだけ咲いたような、そのきらきらと輝く笑顔を見て、僕は、恋に落ちていた。(いや、落ちたのではない。……きっと、僕は恋に胸を撃ち抜かれたのだった。君の撃った恋の弾丸は確かに僕の胸を正確に撃ち抜いていた)
あなたと出会う。
その日、私は高校に向かうバスの中に乗っていた。
いつもの指定席である、バスの一番後ろの席に座っていると、そこに、見慣れない一人の男子高校生がバスに乗ってやってきた。
私と同じ高校の制服をきっちりと着こなしている真面目そうな顔をした、いかにも優等生って感じの(実際にこのあとわかったことだけど、あなたはとても真面目な性格をした優等生で、成績も進学校である私たちの通っている高校の順位において、上位十番くらいに入るくらいの頭のいい、努力家の高校生だった。……しかも一つ、年下の)
その男子高校生は本を読みながら、バスの中を移動をして、私のいるバスの最後尾までやってくると、私のいる席の反対側の窓際の席にゆっくりと腰を下ろして座った。その間、その高校生は、一度も私を見なかった。こっちを見るように、わざと、足を組み直してみたり、(短い制服のスカートがちらつけば、こっちを見ると思っていた)ちらっと、そっちのほうにわざと自分の顔を向けたりしたのだけど、無視されてしまった。
なので、私は正面からその可愛らしい顔をした男子高校生に声をかけてみた。
それがあなただった。
あなたは、私のたわいもない会話に相槌を打ちながら、一応、付き合ってくれたのだけど、あんまり楽しそうな顔をしてはいなかった。せっかくこっちから話しかけてあげたのに、この私と(私は結構男子にもてた)話していてもつまらないというのか? ……この贅沢者め。
そのあと二人で、高校前のバス停で降りたあとで、「それじゃあ」と行って、あなたは私と一緒に高校に登校することなく(不真面目な格好をしている私と一緒にいると、自分の成績が下がると思ったのかもしれない)一人で歩いて、先に高校のほうに行ってしまった。
「ばいばーい」と言って笑顔で、あなたの背中を見送った私だったけど、内心はすごく、すっごく不満だった。
なぜなら、このとき、すでに私は、まだ顔と名前しか知らない、バスの中でちょっと話しただけの同じ高校に通う男子高校生であるあなたに、一目惚れの恋をしていたからだった。
桜餅 さくらもち 終わり
桜餅 さくらもち 雨世界 @amesekai
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