エピローグ、もしくは始まり

 デルフィは声にならない悲鳴を上げて、上半身を跳ね起こした。

 荒い息を吐きながら、自らの枕元で寝息をたてるフェーネを見下ろす。

「寝、ちゃってた」

 半開きの天窓からは、眩しい光が流れ込んでいた。

 何時から、夢で、何時から、現実、そんな事を呟きながら、胸の中央辺りに手を重ねる。

「みんな」

 デルフィは、聖痕が痛む気がしてわずかに顔をしかめ、天窓を見上げた。深く息を吐く。

「シーラさ、シーラにも会いに行かなくちゃ」

 そう呟いた時だった。どんどんと、扉を叩く音がする。

「う~、今、出る。出ます」

 デルフィはベッドから飛び降りる。

 その反動でベッドが揺れ、枕元に居たフェーネは眠そうな顔で頭を上げる。

「何ぃ~? もう朝ぁ~?」

 デルフィは箪笥の扉を開けながら振り向かずに答える。

「そう、みたい」

 ハンガーに吊るしてあった貫頭衣を頭から被ると、体に通し、部屋の扉に駆け付けると開けた。

 外には赤い両脇開きのコートタバードを着けた協会兵がいた。

「アルトネック師がお呼びです。このままお出で下さい」

 デルフィは緊張した面持ちで、自身の頭をぱふぱふと叩く。

 それは凄い寝癖だった。

「ちょ、ちょっと待って! 今整えます」

 デルフィは慌てて扉を閉め、サイドテーブルに置かれた洗面器に水差しから水を注ぐと、顔を手早く洗って髪に櫛を通す。それからホタテ貝と真鍮の懐中時計を首からかけると再度箪笥を開け、両脇開きのコートタバードを着こんだ。ベルトを締め、軍刀を腰に刺すと、慌てて扉の所に戻ってそれを開けた。

「すいません」

 壮年の協会兵は表情を崩さず、

「いえ、朝から申し訳ありません」

 と言う。

「フェーネ」

 デルフィがそう言うと、フェーネはベッドから飛び降りて、床を蹴るとデルフィの肩に乗った。

 協会兵に先導され、廊下を歩くデルフィの肩の上、フェーネがその耳に囁く。

「こんな朝早くから、何の用だろう」

「何かあったに違いない。きっと、アルバレス・パティス」

 フェーネは首をかしげる。

「アルバレス・パティス? 何があったの?」

「アルバレス・パティスに設置されたクリシュナスピールが襲われたんだ」

 フェーネがえ、と言う。

「きっと昨日中にロンド達が向かった筈。昨日の集まりはそれが理由」

 フェーネはデルフィの耳に体を摺り寄せ、

「で? デルフィはお留守番だった訳?」

 デルフィは目を細めると、

「うるさい、そうだよ」

 とぶっきら棒に言った。

「何か?」

 その言葉に反応した兵士が振り向く。

 デルフィは慌てて両手を振った。

 そうしていると、アルトネックの部屋の前へと辿り着いた。

 協会兵は、デルフィ達に振り返り、

「アルトネック師と他のお二方がお待ちです」

 そう言って扉を開けた。

「待ってて、フェーネ」

「いや、フェーネも一緒に入りなさい」

 部屋の中から声がかかり、デルフィがそちらを見ると、アルトネックがエステリティウスとアミエスタを前に立っていた。

 ネルヴァ兄妹はデルフィの姿を見て、あからさまに表情を歪める。

 デルフィも一瞬、顔を歪めるが、直ぐに表情を引き締める。

「失礼します」

 デルフィは礼をして、フェーネを肩の上に乗せたまま、アルトネックの部屋に入った。

 部屋の扉が協会兵に閉められ、部屋の中の人間が四人と一匹のみになったのを確認すると、アルトネックは口を開いた。

「復興していたエルファティアが何者かに襲撃されました」

「え?」

「あなた達には直ちにエルファティアに出発していただきたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神域と神の法則 こざくら研究会 @lazu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ