ある夢のような御伽噺

小欅 サムエ

あなたは愛してくれますか

 わたしは、愛が好きでした。愛すること、愛されることが好きでした。


 お父様は、わたしに『愛してる』と言ってくれました。


 お母様も、わたしに『愛してる』と言ってくれました。


 両親の『愛してる』に育まれ、わたしは成長しました。




 小学生のころ、わたしを好きだ、と言ってくれる男の子がいました。


 わたしは、『愛して』くれるの? と聞きました。


 男の子は、『愛してる』って何? と聞きました。


 それで、わたしは彼に、『愛してる』を教えました。


 男の子は、わたしを『愛していない』と言いました。


 それから、男の子はわたしに近づきませんでした。


 それでも、わたしは良かったのです。だって、『愛して』くれない人は、いらなかったから。




 中学生のころ、わたしを好きだ、と言ってくれる女の子がいました。


 わたしは『愛してくれるの?』と聞きました。


 女の子は、『愛してあげる』と言いました。


 わたしは嬉しくなって、たくさん彼女を『愛して』あげました。


 彼女も、わたしをたくさん『愛して』くれました。


 でも、女の子はわたしの元から消えてしまいました。両親から、彼女は遠い所へ引っ越した、と聞きました。


 わたしは悲しかったけれど、また、『愛して』くれる人を探しました。




 高校生になり、わたしは、男の子を好きになりました。


 彼の大きな手は、お父様に似ていました。


 彼のきれいな瞳は、お母様に似ていました。


 だからわたしは、彼に『愛してる』と言いました。


 彼は、わたしの『愛してる』を受け入れてくれました。


 わたしは嬉しくなって、たくさん『愛して』あげました。




 わたしは、たくさん『愛した』彼を、両親に紹介しました。


 けれど、両親はわたしのことを侮辱し、責め立てました。


 わたしは、両親の言っていることが分かりませんでした。


 お父様は、わたしを『愛してる』と言ってくれていました。


――――お前を『愛して』いるよ。だから、お母さんには黙っていなさい。


 そういってお父様は、わたしに痛いことや苦しいことをしました。でも、それが『愛してる』だと言っていました。


 だから、わたしは彼に、痛いことや苦しいことをしました。


 お母様は、わたしを『愛してる』と言ってくれていました。


――――お前を『愛して』いるよ。だから、お父さんには黙っていなさい。


 そういってお母様は、他の男の人と出かけていきました。でも、それが『愛してる』だと言っていました。


 だから、わたしは多くの彼を、たくさん『愛して』あげました。




 お前を『愛して』いない、と両親は言いました。


 わたしは、両親が嘘を言っているのだと思いました。


 だから、わたしは両親も『愛して』あげました。


 両親は、もうやめて、と言いました。


 わたしは、両親を『愛し』続けました。もちろん、彼と一緒に。


 そのうち両親は、彼と同じように『愛して』くれなくなりました。




 家には、誰もいなくなりました。


 両親や、彼はいたけれど、もう何も言わなくなってしまいました。


 わたしは、『愛して』欲しかっただけなのに、どうして誰も『愛して』くれないんだろう、と思いました。


 そして、わたしはわたしを『愛して』あげました。たくさん、たくさん『愛して』あげました。


 そうして、わたしはわたしをも『愛して』あげられなくなりました。


 どうして、誰も、わたしも、わたしを『愛して』くれないの?


 ああ、『愛』って、何?


 痛いことなんでしょう?苦しいことなんでしょう?


 それをみんなに、平等に与えたのに、なんでわたしを『愛して』くれないの?


 さびしい、さびしい。


 誰か、わたしを『愛して』ください。




――――この手記は、ある少女が書いたとされるものである。この少女は、近所の住民により通報を受けた警察官により保護された。その体は痩せ細り、生傷だらけだったという。


そして、その家からは複数の遺体が発見された。

家の持ち主である男と、その妻。そして、その娘の通う高校の同級生男子、総勢15名が、変わり果てた姿で、ベッドに横たえられていた。


 保護された少女は、今もなお、深い眠りに落ちたまま、目を覚ましていない。しかし、夢を見ているのか、たまに譫言を繰り返している、という話だ。


「『愛して』あげるから、『愛して』ください」と――――

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