店員の義務

お竜

店員の義務

 ピピピピ!


 盗難防止ゲートのアラームが鳴った。


 店に入ろうとした客が、手元の袋を見て戸惑っている。

「鳴っちゃうんですが……」

 

 私は、愛想笑いを返した。

「袋の中身を見せていただけます?」

「もちろん」


「うちの商品は入ってないですね。たまにあるんですよ、誤作動。どうぞ、入ってください」

「どうも」

 男は苦笑いして店に入り、五分ほどして何も買わずに出ていった。

 アラームは鳴らなかった。やはりただの誤作動だ。


 私はため息をついた。

 うるさいのはごめんだ。

 私は、店の商品が盗まれないように気を付けてさえいればいい。

 それが、店員の義務だ。


 ピピピピ!


 再びアラームが鳴った。


 今度の客は、重そうな紙袋を下げ、アラームに臆することなく、悠々と店に入ってきた。


「その袋、見せていただけます?」

「ああ、いいとも」


 袋の中身は、黒ビニールに包まれた大きな塊だった。

「なんですかこれ?」

「家内だよ。やっと静かにさせたんだ」

「うちの品ではありませんね。どうぞ、入ってください」

「そうさせてもらうよ。うるさくないのがいちばんだからな」


 私は深く同意した。

「まったくですね」


「実は、これを埋める道具を探していてね。あるかな?」

「はい、お任せを!」


<了>

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