これは、本当にヒーロー好きな人が、「わかる!」と共感する為のシナリオではないかと思わされます。
秒でわかりました。これは日本のヒーローを本当に好きな人が書いた小説だ、と。
実際、戦隊パロ自体はもうプロアマ問わず多くの人がやってると思います。なんか見たと思います。非公認戦隊は公式なので頭から除外してください。あれは認めます。
しかし、まあ世の中に溢れる戦隊パロでパロられる「お約束事」というのはろくに見なくても浮かぶようなイメージばかり。
なので、ガチ勢はどうしても「そんなお約束はねえ!黄色はそこまでデブばかりでもねえ!」とガッカリさせられてしまう(この突込みも特撮ファンはもうとっくに諦めたでしょうが……)。
特撮好きな方、昭和ヒーロー好きな方は、そんな経験あるんじゃないでしょうか。
しかし、なんと今作は違います。
普通に戦隊です。概ね、BFJ~ダイナマンくらいの感覚に加えて、その時になかったモノを加えて面白く仕立てています。普通の戦隊なんです。でも超面白い戦隊なんです。
戦隊と言う誰でも知ってるコンテンツを利用して面白がって、ろくに見もせずに抱えた勝手なイメージをまた勝手に崩して楽しむようなパロじゃないんです。
この作品からは、とにかく知識や実際の視聴経験や思い出や楽しみ方に裏付けられた真実の「愛」や、「戦隊はこうやるんだ!」ってな意気込みが感じられますよ。
本当の戦隊の雰囲気や、あとは戦隊以外にも昭和漫画の楽しさや輪郭をよく把握したうえで、そこにまた「自分の戦隊!」っていうオリジナリティを付け加えた面白さ。
「ああ、このテンポ!」「こういう単発エピソード!」「このネーミング!」と言うリアリティを伴いつつ、完全パロディアンチではなく、「パロディの良さ」「ブラックユーモアの良さ」もちゃんと使っている。
「痴漢」とかそういう公式では出せないモノを出せる自由があるのも非公認の良さ!!!そういうのも余す事なく利用!!!
「とにかく面白く戦隊を作りたい!!!」っていう一作ですよ。
敵の名前がムー帝国なんて凄いですよ。
確かに昭和の特撮にとてもありそうな題材。というか、まんまムー帝国が一個、ムー一族が一個思い付いちゃいますよ。
これの何が凄いって、「ヒーローの方が悪く見える事を狙った、良い人ばっかな悪の組織」だとか、社会人式の悪の組織だとかじゃなくて、そういう「あ!特撮だ!」って悪の組織なんですよ!
昭和作品をあんまり知らない方にはこういうところはわかりづらいかもしれないんですが、この「ありそう」感。更にそこにちゃんとキャラに向き合ったストーリーがついてきてるのが、王道なんですね。
で、あと言いたいのは、やっぱり、本家東映のスーパー戦隊は、実は大昔から「ちょっとふざけた敵」である事を感じさせるのが見事ですよね。
だから下手なパロディなんかよりも本家の方がずーーーっとギャグセンスが高い!!って思いながら見ちゃってたんですが、本作はそういう敵のギャグっぽさを個性として使い、本家をうまく捉えている。
なーんかこういうのも、変にシリアスでエグい敵を出してオマージュされちゃうパターンをよく見かけましたけど、そうじゃない。どっか「わりーやつ」ってくらいのノリで言えちゃう愛嬌がある。それを捉えてます。
……長々語って熱狂しましたが、僕はどうしても、世間の言う叫ぶだけの王道、世間の茶化すパロディよりも、こういう作品に共感を覚えます。
良いですよこれ。特撮や昭和が好きなら、ぜひ読んでほしい。