極寒のタルタロス

九十九(つくも)

第1話 プロローグ

 ボロボロのパイプを無理やりダクトテープで補強した、軍艦の内部を思わせる配管がむき出しの通路には、とても濃い硝煙と血の匂いが充満していた。


 血の匂いの主は、もうすでにこと切れた、物言わぬ肉塊となり果てた男の姿。眉間に穴が開いており、抵抗しようとしたのか、その手にはナイフが握られていた。


 逆に、硝煙の匂いをあたりにまき散らしたのは、齢14、5くらいの大人と子供の間の、人物。フードをかぶり、顔の下半分は布で隠し、上半分は飛行士用のゴーグルで隠すという過剰なまでの防御力により、人物の性別は判断できなかった。


 少年、あるいは少女は拳銃を構え、死体に二発銃弾を撃ち込んだ。何もこの人物に死体に危害を加える趣味があるわけでない。そういうのことは異常者のやることだ、という信念のようなものがあるこの人物。けして安くはない銃の弾丸を二発も余計に消費したのは、この物言わぬ肉塊が、しっかりと、確実に死亡しているのを確定させるためであった。この少年、または少女にとって、この確認を行ったためにあわや死にかけたことは苦い思い出である。


 男の懐をあさり始めた。たばこ、手に握っているナイフの鞘、娼館の会員カード。いろいろなものが出てきたが、それは目的のものではなかった。中身の少ない財布はちゃっかりとくすねていたが。


 やがて目的のものを見つけたのか、人物は通信機を使い始める。鉄の塊だらけのここは、携帯電話のようなものの電波は、届きもしなかったのだ。


 「目的のマイクロチップは手に入れた。明日渡しに行く。依頼完了だ」


 その声は、やはり姿と同じく男女どちらとも取れない声だった。


 「ああ、そうだ。中身は指示通り確認していない。興味もないしな。が、金はしっかり払ってもらうぞ。では明日だ」


 そのまま通信機をしまい、その人物は死体をそのままに、暗闇の中へ去っていった。赤い血がぽたり、またぽたりと、床の隙間から流れていった。

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極寒のタルタロス 九十九(つくも) @takanashi_iroha

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