平凡な一年

 今日で私たちは、卒業する。

 メタリック・ヤンキーたちのメタルと泣き声がスポーツ場に響く。昔は体育館と呼ばれたらしいが、体育という言葉は二百年ほど前に無くなった。


「今日で卒業か。早かったね」

「うん。ユリちゃん、卒業式出れなかったの残念だね」

「今はTOKYOに潜ってるんじゃない? 国連軍に引き抜かれちゃったもんね」


 ユリちゃんは一足先に将来の夢を叶えた。

 りっちゃんは看護師になるということで、専門学校に進むそうだ。


「ユリちゃんが夢を叶えたのは嬉しいけど、しばらく会えなくなるのは寂しいなあ。それに心配だし」

「うーん、ユリちゃんのバイクも改造に改造を重ねて何かあったら変形して緊急脱出するようにしたから大丈夫だと思うけど」

「アレ作ったの誰か、ユリちゃん上官に問い詰められたらしいよ。絶対に口を割らなかったみたいだけど」


 ユリちゃんが国連軍に引き抜かれたのはバイクのこともあるが、あの強靭な意思もある。

 どんな褒美をちらつかせても私のことは話さず、それどころか「絶対に言わないから拷問してみてくれ」と上官に言ったそうだ。

 我が友人ながら、意気である。


「……マイちゃんは、どうするの」

「どうする、って……ちょっと思うことがあってね」


 今日もあの場所へ向かう。


 私はこの一年、担任の先生からよく呼び出されていた。進路希望調査に「ガラクタの神、二代目」と書き続けたことが原因だろう。

 しかし、私はまだしばらくガラクタの神になるつもりはない。


 ガラクタの神様がいた場所。そこに置いてある端末に手をかざすと、への扉が開く。

 ガラクタの神様はいつの間にか、私の生体認証を登録していたようだ。

 地下へ続く階段を降りると、ガラクタの神様が使っていたアトリエがある。そこには一通の手紙が私の用意したケースに入れられている。


『さらば、友よ』


 短い文章で、実に神様らしい。

 彼の字を見たのは初めてだけど、達筆で整った字をしている。


「この一年、いろんなことがあったよ。りっちゃんに彼氏ができたり、ユリちゃんがTOKYOに潜り込んじゃったり」


 アトリエの机を撫でる。


「このMACHIDAに住む人にとっては、大きなニュースがあったね。巨大隕石が地球に接近していて、それが人知れず破壊されていた、なんて」


 隕石の破片もほとんどが兵器によって消滅させられていたらしい。

 地球には遅れて、流れ星がいくつか降った。


「ちょうどガラクタの神様がいなくなった日から、一ヶ月後らしいよ。隕石が破壊されたと予想される日」


 TOKYOが消滅したのはなんでだろう。

 ガラクタの神様は昔を懐かしむようにTOKYOの話をしてくれた。歴史書にも載っていないような細かいことまで。

 その度に、寂しそうな表情をするのだ。そしてたまに、『二度とあんなことが起こらないで欲しい』と言っていた。


 TOKYOが消滅した理由も、どこにも載っていない。ガラクタの神様も教えてくれなかった。MACHIDAだけが取り残された理由も。

 だけど、そんなことは私には関係ない。彼がロケットを作っていたのも、いなくなったのもそれが関係しているのだろうという考察だ。


「まだガラクタの神、二代目を名乗るつもりはないんだ。帰ってきてもらうよ」


 彼の旧型テレビ――に見せかけた高性能な機械化頭部――は独特の信号を発している。

 そして、その信号をキャッチする機械を私はここで完成させた。


「地球への軌道に入ったみたいだね。今から更に一年。大気圏突入前に宇宙で迎えに行くよ、神様」


 私はロケットの部品を精査して、へと持って行く。このアトリエでロケットを作るのはスペース的に難しい。


「神を迎えに行く……神の使いのこと、天使って言うんだっけ」


 それなら私はガラクタの天使だ、なんて思いながら。

 ガラクタの神様のように巨大隕石と戦うわけではないから、慎ましいものでいい。人が二人乗れるくらいのもので。


「うーん、ただ宇宙に行くだけのロケットならすぐに作れてしまうな。そのまま宇宙でも見て回るか? ユリちゃんのバイク改造のノウハウが活きそうだ。ワープとかもしてみたい」


 予定変更、私はこの一年でガラクタの神様が驚くようなロケットを作る。

 それが私にとって、本当の卒業になるのかもしれない。


 待ってろ、神様。

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MACHIDA 古代インドハリネズミ @candla

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