青春の兆しは彼女から

@sameharu

第1話 動き出す歯車

何故こんな事をしなければいけないのか、、、

やることなす事全てそう考えてしまう。


勉強だって運動だって友人関係だって全て必要な事なのは分かるけどどうしてもそう考えてしまう。

今あげているもの全てやれてはいるのだ、勉強だって常にトップの成績を維持してる、運動だって部活をやっている奴らに負けない程の事が出来る、友人関係も恵まれている。


だけど、何故か物足りないのだ、心の隙間が何故か埋まらない。


両親にも期待されている、あなたは将来有望ね。

そう言われている。

でも何故かそれを聞く度イラついてくるのだ、何故だろう、、、褒められているはずなのに。

友人だって先生だって口を揃えて親と同じことを言う。


その度にありがとうとそうは言うが、心の中では苛立って仕方がないのだ、その言葉が重りになる、どんどん重く黒く歪んだ形をした重り。

最初はそんなのはみえなかった、期待されてそれに応える、それが俺の価値だと思った。それが生きる意味だと思った。


でも、そうじゃなかった。期待はやがて大きくなり、自分じゃ抱えきれないほどの大きな重りになってしまった。


そんな時にみえ始めたのがあの黒い重り。

ただの自分の中での想像の物だが、それが自分にはとても苦しかった。

そう思い始めた頃に今の思考に至った。

何故こんな事をしなければならないのだろうかと、、、


やってもやっても苦しくなるばかり、でもやらなければいけない。


親の期待?先生の期待?友人の期待?

そんなもの聞いたくない。

自分の人生はお前らの期待で出来てるんじゃない、、、


もう自分の人生がつまらなくなるばかり、毎日が作業にしか思えなくなってきた。

同じ事の繰り返し。


それならばもういっそ、、、

なんて事を今までどのくらい考えたのだろうか?

人の理想は時に人を殺す俺はそう思う。

重いプレッシャーに潰された時に人は生きてはいられなくなる。


不謹慎ではあるが自殺する人達がどう言った理由で逝くのかは分からない。きっと俺には考えもつかないほど重くそして酷く濁ったものがあるのだろう。

酷く濁ったと例えたのは、理由なんて歪であるものでしかないから、イジメ、虐待、孤独、喪失感、プレッシャー、etc…。あげればあげるほど理由は黒く歪であるもので。複雑である。


楽しく生きているのならば自殺なんてそう言った思考にはならないだろう。

必ずしも黒いものを持った人が亡くなっていく。


傍からみたらこんなやつ恵まれ過ぎだと思うだろう。俺でもそう思う。

でも恵まれすぎも辛いのだ、、、

現時点でこうなってしまっているから。


そんな思考をしながら辿り着いたのは、とある工事現場、作りかけの建物の上へ上へと登って行く。


コツコツと響く足音は虚しく反響し更に気持ちを暗くする。

一番上に辿り着き、外にでると風が吹く。

この建物はビルの建設途中のものらしく、高さが40メートル程ある。階数にすると約12階数程。

端にたって下を見下ろすと下からの風が吹いてきて髪を揺らす。

夜となった都会の街はイルミネーションのように美しく絢爛豪華だ。


この景色をみれるのは今は自分だけ、、、

そして俺の最期の場所には丁度いい。

惨めに終わるよりはこっちの方が綺麗だろ。

そして何故か両親の顔が浮かんできた。

俺の事をステータスとしか思っていない両親。常に周りに自慢をし、自分の株をあげる、そんな事ばっかりで嫌になる。


「はぁ最悪だ、人生最期が両親を思い浮かべならが死ぬのかよ。綺麗なものが観れて折角ちょっとはいい最期で終われるなと思ったのに。」


そんなことを言いながら建設途中のビルから飛び降りようとした時。


ガチャ

とドアが開く音がした。

驚いて飛び降りそうになっていた所をやめ、後ろを振り向くと。

黒髪の綺麗な少女がドアを開け外に出てきた。


「え?なんでこんな所に人が?」


少女が驚きながらそんな事を口にした。

そんなの自分も同じである。

普通はこんな所に人がいたり、やってくるなんて思いもしないだろう。


「えっと、、、人生リセットするためかな?」


なんて事を言うと少女は酷く顔を顰めこう言った。


「貴方凄く黒く歪んでいますね。」


この言葉を聞いた時、何が変わったような気がした。今まで生きてきた中で、言われたことのないような事。

それなのにどうしてだろう。凄く救われた気がした、、、。

この気持ちを分かってくれる人が現れたのだから。




俺の止まっていた人生の歯車が動き出したのはこの時からだった。

そしてそれを和也かずや自身が自覚するのはまただいぶ後の事、、、。





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