黄色いコート②

 赤は目立ちたがり、青はクール系、ピンクはかまってちゃん、黒は大人らしさをアピールした背伸び、オレンジは能天気、白は優柔不断という勝手なイメージを私は持っている。なら黄色はというと子供っぽいである。

 その黄色のトレンチコートを真壁総一は着ていた。彼の性格からは似合わないと感じた。それは私だけでなく周りの子もそう感じていたらしかった。らしかったとはどういうことかと言うと、私達はなるべく彼のことは口にしたくはなかったからだ。

 なぜなら私達は真壁総一を生贄にしようとしたからだ。このことは私達だけでなく、ほとんどの学生が知っていることだ。勝手に生贄にするとはひどいことだが、これは我が校の学生が空気で決めたことだ。誰が最初に言ったのかは分からない。でも、生贄に誰をとなった時、まず浮かび上がったのが彼であろう。だから、彼が選ばれた時は誰も反対しなかった。誰も彼に声を掛けた私を非難しなかった。

 生贄は彼に。そして全ては終わる。

 そのはずだった。だけど、結果は予想外のこととなった。

 ヤリサーで有名な彼らが謎の事故死を迎え、生贄の彼だけが生き残った。いや、警察も彼を調べなかった。まるで彼は最初から関わってなかったように。

 そんなことはない。ヤリサーの彼らは目的地に着き、計画通り肝試しを行い、そして彼を一人置き去りにしたというメールを友人知人、そして私にも送った。

 メールが届いた時はこれで全ては丸く収まり、明日からは平穏が訪れると喜んだ。

 けど結果は予想外なことになった。

 私達は肝試しの翌朝、彼が教室に入ってきて驚いた。あの距離では歩いて帰れるのは難しい。仮に出来たとしても時間と疲労で登校は難しいはず。なのに彼は何もなかったように普通に登校していた。そして彼は私に何も言わなかった。私は彼を騙したのに、彼は怒ったり文句を言うことはなかった。その後、ヤリサーの彼らが事故死したことを知った。なぜ事故死をしたのか。そして彼らがどうしてそんな遠い地へ向かったのか。謎だけが残った。

 それから三ヶ月が経ち、冬が訪れた。寒い時期にコートを着るのは別段おかしくはない。私だってコートを羽織る。だけど黄色いトレンチコートを着た彼は誰よりも不気味なほど浮いていた。彼が持つ性質だけではない、謎の力が働き、私達の意識を彼へと集中させたではと考えられた。

 しばらくすると彼は黄色いコートを着て来なくなった。だけどそれと同時期に学生が通り魔に刺殺されたという情報が学内を回った。

 またかという言葉が頭に叩き込まれる。最悪は終わっていなかったのだ。一人また一人と学生が刺殺される。掲示板には独り歩き、夜遊び禁止というポスターが貼られた。そんなことポスターで貼らなくても皆、理解していた。理解していてもなぜか学生は夜を歩き、そして刺殺される。怖がり、部屋に閉じ込もる者でさえも、夜に予定がなくても殺される。どれだけ予防を立てても最悪は例外なく防げない。

 一週間ほどが経ち、ある新情報が流れた。それは犯人が黄色いトレンチコートを着た男だという噂が。それを聞いた時の私は……いや学生全員はすぐに真壁総一を思い浮かべただろう。彼が犯人かと。警察と繋がりのある学生はそのことを話した。だが、彼は捕まることも重要参考人になるこもなかった。


 年を越えて黄色いコートを着た男が殺されたことをニュースで知った。それを聞いた時、真壁総一が殺されたと思った。が、その殺された男は真壁総一ではなかった。知らない男だった。学生でもなければ接点のない男。そしてその男が死んで学生連続殺人事件もなりをひそめた。これでやっと平穏がと思われた。けれど、警察は殺された男と連続殺人事件の男は関係ないことを発表した時はまだ完全には最悪は終わっていないと感じた。そしてもう一つ疑問がある。黄色いコートの男は一体誰に殺されたのか。


 いつの間にか私は外にいた。どうしてか。ここまでの記憶がない。今日は夕食を食べて、風呂に入って、あとは適当にテレビを見ていたはず。その後は……ない。どうして私は外にいるのか。あれほど独りでの夜の外出は控えていたのに。

 帰らなくては。

 まるで魂と肉体が合っていないかのような錯覚を覚える。

 それでも意識すると足はきちんと前へと歩いてくれる。

 ……足音が二重に聞こえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神魔幻妖禍録伝 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ