2 天才魔法使い サン
天才魔法使い サン
……さて、どうしてこんな大変なことになってしまったのかというと、話は少し前の時間にさかのぼる。
どこの世界にも、天才と呼ばれる人はいるもので、この魔法使いたちが暮らす魔法の森にも天才と呼ばれる魔法使いがいた。
その天才魔法使いの名前はサンと言った。
魔法の森に暮らしている魔法使いたちの代表である大魔法使いの次の筆頭として名高い天才魔法使いの少女、サン。
魔法の森の魔法学校を当たり前のように飛び級で、しかも首席で卒業して、若干十四歳にして、すでに自身の魔法使いの研究、『医術。薬草学。優れた新薬の開発』において、一定の成果を達成して、『白真珠の魔法書』(自分の魔法書を書くことは、一人前の魔法使いの証だった)を書上げるなど、優れた成果を出し続けてきた、これだけ聞くと、欠点などどこにもないように思える天才魔法使い、サンには、でもたった一つだけ、どうしても抑えきれない『欠点』というものが存在した。
それはあまりにも『未知のものや、未知の魔法に対する好奇心が強すぎる』ことだった。
好奇心旺盛である。
もちろん、それ自体はいたって良ことなのだけど、サンの場合はその度合いが強すぎた。
それがどれくらい強いかというと、魔法使いたちの掟(ルール)を研究のためなら破ってしまうくらいに強かった。
そして、ただ好奇心旺盛なだけではなくて、サンには膨大な潜在魔法力と本当の魔法の実力があった。(そして、持って生まれた才能と、驚異的な集中力と、継続して努力をする体力もあった)
その強すぎる好奇心のおかげで、今まで何度か魔法の森の中で事件を起こしてきたサンだったのだけど、今回もまた、それをやってしまったというわけだった。
今回、サンが起こした事件。(……いや、今回は大事件だ)
それはずっと魔法学校の地下にある魔法図書館に封印されていた『影の魔法書』の封印を解いてしまったことだった。
影の魔法の研究は、数ある魔法使いの研究の中でも、研究のピラミッドの最上位クラスに位置する禁呪の一つであり、有名な無限の魔力を生み出すとされる賢者の石や、不老不死を可能にすると言われる不死鳥の魔法に匹敵する、かなり危険な魔法だった。
先代の第魔法使いが封印していた影の魔法書の封印をサンは自力で解いた。(それができること自体が天才の証なのだけど)
そして封印を解かれた影の魔法の暴走により、天才魔法使い、サンは影の世界の中に『自分に協力をしてくれた魔法学校の生徒に一名とたまたまその現場に居合わせた魔法学校の生徒、コメットくんと一緒に』地下魔法図書館の司書であり管理人である、魔法使いリデルが見ている前で、三人は影の魔法書の中に飲み込まれて、消えてしまった。
影の魔法書の中にある異世界、影の世界に迷い込むと、その人物の影が本人から離れて一人歩きしてしまうようになる。(逆に本人は影の世界の中に閉じ込められてしまって、ある一定の時間が経過すると、立場が逆になり、本人がもともとの影のようになってしまうのだ)
そうなる前に『本人から離れた影を捕まえて、本人の元に影を連れ戻さなければいけない』のだ。
それが現在、魔法学校の先生であるリデルがコメットくんの影を必死で追いかけている理由だった。
小さな魔法使いたちとリデル先生の物語 雨世界 @amesekai
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