小さな魔法使いたちとリデル先生の物語

雨世界

1 影たちの舞踊

 小さな魔法使いたちとリデル先生の物語


 登場人物


 コメット 小さな魔法使い 本が大好きな男の子


 リデル 大魔法図書館の司書 歴史の管理人 魔法学校の先生


 プロローグ


 私があなたを救ってみせる。


 魔法使いという種族について


 その一、魔法使いは空を飛んで一生を終える種族である。

 その二、魔法使いの魔法とは空を自由に飛ぶことである。

 その三、魔法使いはその生涯をかけて自身の魔法使いの研究をする。

 その四、魔法使いは森とともに生き、森とともに死する種族である。

 その五、魔法使いが死ぬと、その魂は根元の海と呼ばれる場所に還っていく。

 その六、魔法使いは魔法樹という大樹を信仰する。

 その七、魔法使いは他種族と交流を持ってはならない。


 本編


 影たちの舞踊


 私のこと、忘れないでね。


 魔法使いのリデルは逃げ出した影たちを追いかけながら、「もう! なんでこんなことになっちゃったのよ!!」と泣き言を言った。


 そのいつも温和な顔に、今日は泣きべそをかきながら、リデルは魔法の杖にまたがって空を飛びながら、高速で薄暗い煉瓦造りの、地に口を開いた洞窟のような、あるいは巨大な空洞のような、大きな通路の中をひたすら前に向かって進んでいた。


 そんなリデルの魔法の杖の先端につけられている『魔法のランプ』の明かりが照らし出す、淡いオレンジ色の光の中には、『無数の逃げ出した影たち』が、まるで自分たちのことを必死で追いかけてくるリデルのことを、馬鹿にするように、あるいは、大人と一緒に『追いかけっこ』のような、そんななにかの遊びをしている小さな子供たちのように、はしゃぎながら、やはりとても速い速度で、リデルの前を走るようにして、逃げ回っていた。


「こら!! あなたたち、待ちなさい!!」

 リデルは叫ぶ。


 でも、そんなリデルの怒ったような声を聞いても、影たちはずっとふざけてばかりいて、反省する様子はちっとも見られなかった。


 影たちはリデルの前を、逃げ続けている。


 やがて影たちは煉瓦造りの通路を抜けて、巨大なダンスホールのような、貴族たちの晩餐会や、あるいは社交界の舞踏会がおこなわれているような、そんな巨大な宮殿の広場のような場所に抜け出した。


 一気に世界が明るくなって、(それは宮殿の天井にある巨大なシャンデリアと、そして無数のろうそくの火の灯った燭台の明かりのせいだった)影たちを追いかけて、そんな場所に突っ込んできたリデルは一瞬、その目がくらんだ。


 影たちはそこでばらばらの方向に走り出し、自分たちを追いかけてくるリデルのことを煙に巻こうとした。


 そんな中で、空中で一度回転をして、少し速度を遅くしたリデルは、そのまま周囲の状況を確認して、『目的の、ある一つの影の姿』をその中から探し出した。


 ……いた。コメットくんの影だ


 めがねの奥で、きらっと光ったリデルの目が、一つの見知った人物と同じ形をした黒い小さな影の姿を捉えた。


 それは間違いなく、ついさっきまで魔法学校の地下にあるリデルの仕事部屋を訪れていた、魔法学校の生徒の一人である、『コメットくんの逃げ出した影』だった。


「いた!! 見つけた!!!」空中で、上下、反対になりながら、リデルは叫ぶ。


 リデルはそのままとりあえず一旦、ほかの影たちのことは無視して、(あとで絶対に全員捕まえてみせるけど)そのコメットくんの影に向かって、斜め下方向に、直角の角度で、思いっきり、速度をあげて、全速力で、突っ込んで行った。

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