3-4
***
目が
「気がついた?」
背後から声がして、サラは振り向いた。
ノアの顔がすぐ近くにあって、思わず「わっ」と前に向き直ってしまう。毛布にくるまった状態で、後ろから
ここは森の
――そっか……ばれちゃったんだ……。
あれだけ大々的に《マナ》を使ったのだ、もう言い
「助けてくれてありがとう」
ノアは言った。サラは前を向いているので、表情は分からなかった。
「サラがいなかったら死んでたな。また助けられちゃったね」
「そんなこと……
「あなたが死ぬかもしれないと思って、どんなに怖かったか分かる? 一人で生き残ったって、何にも
「ごめん。でも……俺も同じだよ。君を死なせたくなかった。このままだと君は、任務のために命を捨てると思った」
「任務は関係ない」
思わず強い
「任務のためじゃない。私の意志よ。《マナ》を使ってでも、私があなたを助けたかったの」
本当なら、ノアは自分を見捨てるべきだった。サラを
けれど、ノアはそうしなかった。サラに生き
だからサラも、《
「この力は生まれつきなの。最初はみんな使えるんだと思ってた。でも、親や周りの人に気味悪がられて、特別な力なんだと知って。それで本で調べて、ようやく《マナ》だと分かったの。私が集中して何かを望んだり、感情が高まったとき、力が
義父ビルは、サラの力を知っている。出会ったとき、サラが《マナ》を使うところを見たからだ。だが、養子として引き取られてからも、この力について
「……どうして、俺に話してくれたの」
ノアに
「湖で《マナ》を使っているのを見たのに、あなたはその後、何も聞かなかった。今だってそう。待っててくれたんでしょう? 私が自分から言い出すのを」
答える代わりにノアの手が肩を
サラは目を閉じた。名前も知らない、温かな感情が胸に
――何だろう……この気持ち。
こんな気持ち、今まで
「《マナ》は人を傷つけるためのものじゃない、救うためのものだ。そうだろ?」
ノアが話すと、
――人を傷つけるためじゃなく、救うため……。
五年前、父を
「だからサラはその力を
ノアを、自分を、誰かを守るために、自分の意志で《マナ》を使うことができる。
言葉に込められた意図を
「ありがとう。きっと……王位も同じだわ」
良い方向に使えば多くの人を救い、悪用すれば国を
「ノア。領主様は、あなたを売ったりしない」
ぎょっとしたように、ノアの体が
「聞いてたの?」
「風が教えてくれたから」
「そんなこともできるのか……。《マナ》ってすごいな」
ノアは言い、ばつが悪そうに頭をかいた。
「そんなはずないって思っても、
「ノア、聞いて。領主様はあなたが道に迷ったとき、こう伝えてくれとおっしゃったわ。『自分の心に正直に生きろ』と」
その言葉を聞き、ノアの
「領主様はあなたを信じてる。きっと今も無事を祈ってくれているはずよ。それに、万が一そうじゃなくても、世界中があなたの敵に回っても、私はあなたの味方だから」
これが、今のサラに言える
――もっと速く、正確に、思いや情報を伝えられたら。
「ありがとう。でも、もどかしいな。今すぐ父さんの無事を確かめたいし、俺たちも無事だって伝えたいのに」
考えていることと全く同じことをノアが言ったので、サラは息を
目が合った瞬間、ノアもそれが分かったようだった。
「そうか。そのために《
サラは
《
「そうね。そのために私たちはいる」
やりたいことが見つかった。途方もなく難しいし、どうすればいいか見当もつかないけれど。
――でも、やってみたい。
そのためにも、まずはレガリアを真の王の元へ届けよう。
「ノア。必ず任務を成功させましょう。そして、一緒にサフィラスに帰るの。領主様も、お父さんも、きっと私たちを信じて待ってくれている」
そのときノアは複雑そうな表情をしたが、サラはそれを心配と
――サフィラスに帰って落ちついたら……この気持ちと向き合ってみよう。
初めて
そのときは手紙を書いて、城へ届けに行こう。ノアは貴族で、気軽に会うことはできないが、思いを届けることはできるはずだ。
――私は、《
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2020年2月1日発売!!
角川ビーンズ文庫
「アルビオンの伝令
橘むつみ イラスト/あいるむ
アルビオンの伝令 白銀の光導、黄金の王 橘むつみ/角川ビーンズ文庫 @beans
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