3-3
***
サラがいる方向とは逆に、なるべく遠くに。それだけを念じて、やみくもに走ってきた。息が上がり、足がもつれ、
「いたぞ!!」
白地に青い
「ノア・オズウェルだな」
「無礼者」
「
隊長格の男は目を
「
非難を
指先で確かめるが、
ノアは大きく息を吸うと、
「そなたらこそ立場をわきまえよ。教会はあまねく民を救う公平な機関。
体勢を立て直そうとしてか、彼は長身の剣を抜き払った。
「思い違いも
月明かりを浴びて、抜身の刃が
それをノアの首元に突きつけ、隊長格の男は言い放った。
「レガリアを渡せ。そうすれば楽な死に方を選ばせてやる。
「できるかな?」
ノアは不敵な笑みで言った。
「ここで私が死ねば、父エリシャ・オズウェル公は必ずそなたらの息を止めるぞ」
『サフィラスの
だが、隊長格の男は高笑いした。
「
頭を
「なっ……」
父が、自分を教会に売った?
そんなはずはない、あり得ないと打ち消しても、目の前にいる隊長格の男の自信に満ちた笑みが心を突き崩してくる。
「オズウェル公爵家の方々は、皆、教会の取り調べに進んでご協力くださった。領主様も最後には我々の説得に応じられ、《
隊長格の男の言葉が、一つ一つ胸に突き
血の
それとも、妻や息子を
「
そう言うと、隊長格の男は剣を振り上げた。
――まずい。
ノアは立ちすくみ、思わず目をつむった。
「待ちなさい」
声と同時に、キンと金属質の音がして、ノアは顔を上げた。
見ると、隊長格の男の剣が空中で不自然に止まっている。まるでノアとの間に、見えない
月光を
サラだった。サラがそこに立っていた。だが、知っているはずの少女が、まるで見覚えのない者のように思える。
彼女の周りを白く
「サラ、どうして」
――どうして来たんだ。それに、どうやって。
あんなに体調が悪く、もはや起き上がることさえ難しそうだったのに。
もうこれ以上、危険にさらされてほしくなかったのに。
「貴様、何者だ!!!」
隊長格の男の剣の切っ先が、ぶるぶる
サラは静かな瞳で彼を見つめた。それだけで手が
一体何が起こっているのか分からず、混乱が聖兵たちに伝わっていく。
「その人を傷つけるのは、私が許しません」
サラは気高く、
――これが本当に、あのサラなのか。
つい先ほどまで不安や恐怖に
「立ち去りなさい」
「立ち去れだと……?」
隊長格の男は額に
――《聖具》だ。
「サラ、下がれ」
ノアは言ったが、それより早く金の鈴が
赤々とした蛇のような
「危ない!!!」
ノアは手を伸ばしたが、
そのとき、再び信じられないことが起こった。
炎の渦がサラに届く直前で、ぱっと消えてなくなってしまったのだ。
「なっ……!」
隊長格の男も、さすがに言葉を失っている。聖兵たちは恐怖の目でサラを見つめ、じりじりと後ずさり始めた。この状況の異様さに怯えているのだ。
サラだけが涼しい顔でそこに立っていた。
「あなたに《マナ》を使う資格はない。立ち去りなさい」
「黙れ黙れ黙れえええっ!!!」
隊長格の男は、今度は宝石のついた
「隊長!! それは」
聖兵の一人が止めようとするが、その腕を振り払う。
「貴様ら、何をぼさっとしている! 早くこの二人を殺し、レガリアを取り戻すのだ!! 任務を
その言葉で、聖兵たちの心に火がついた。彼らは弓を構え、剣を取り、《聖具》を手に
ノアはサラの元へ
「サラ!!」
「大丈夫」
サラは
「かかれ!!!」
隊長の合図で、全員が
サラは右手を顔の高さに上げ、左から右に空気をなぎ払うような仕草をした。
「うわああああああっ!!!」
地面が割れて大穴が空き、何人かがそこへ落ちてゆく。何とか
「ま、待てっ」
慌てて手を伸ばすが、それらは飛んでゆき、サラの元に集まると、彼女を守るように周囲をぐるぐると回っている。
ノアはただひたすら、目の前の現実離れした光景に圧倒されていた。
「化け物……」
誰かが
「これが最後のチャンスです。今すぐ立ち去りなさい」
もはや誰も
彼らがいなくなるのを見届けると、サラの周囲から白い光が消えた。
「サラ、君は一体……」
言いかけたノアの前で、彼女の体がぐらりと
「サラ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます