3-2
それから
清らかに降り
「寒い……」
体は燃えるように熱いのに、背骨のあたりが冷水を注がれたように寒い。頭の中でがんがんと音が鳴り
「ほら、これを着て」
ノアが自分の上着を
「変な
笑いたいのに、
ノアにもらった粉薬を飲んだのがお昼前。それからも、体調は坂道を転がり落ちるように悪化し続けている。
「……
低い声でノアは
――瘴気病。
瘴気を吸い続けたことでかかる病気。
「大丈夫です。私……瘴気なんかに……負けませんから」
言葉を発するたびに、
ノアは「
「ごめん……なさい。私のせいで、遅れて……」
熱で目が
「大丈夫だよ。サラは軽いから全然疲れなかった。それに行程の半分は越えたはずだ」
ノアはサラの両手を
――足を引っ張るなんて、最低だわ……。
この任務には国の未来がかかっているのだ。三日以内にレガリアを王都へ運ばなければ、真の王は即位できない。
――こうなったらもう、置いていってもらうしかない。
意を決して口を開こうとすると、ノアがぽつりと言った。
「俺はさ、サラみたいになりたいんだ」
月明かりに照らされて、
「サラみたいに、自分のなすべき役目を、誇りを持って果たす人間になりたい。君にしかできないことがあるように、俺にしかできないことが、きっとあると思うから」
――違う。
呼吸が荒くなる。
「私は、そんな
体が
「好きで《
涙の
「サラ」
背中に腕を入れて
「《
ノアは何も言わず、背中をさすり続けている。喉につかえたものを全部吐き出してしまえというような、手のひらの
涙が止まらない。サラはしゃくり上げた。
「だけど……私だって本当は、普通の女の子みたいに遊びたい。友達が欲しい。制服じゃなくて
「そうすればいい」
「できないよ……」
力なく首を振ると、サラは両手で顔を
「お父さんやお母さんが、いい人だってことは分かってる。何の
義理の両親は、サラを愛してくれている。《
けれど、怖いのだ。
両親が、ある日突然いなくなったら。サラをどこかへ売り飛ばそうとしたら。
どんなに優しくされても、可愛がってもらっても、
せめて有能な《
「サラ、聞いて」
ノアの手が自分の手に重なる。涙にぼやける視界の中で、
「もしサラが《
「どうして」
「どうしてだろう。多分、同じ……だからかな」
なぜかノアの顔が泣きそうに
「君を見てると、小さい頃の自分を見てるような気がする。一人ぼっちで死ぬほど
握られた手に、ぎゅっと力がこもる。
「あなたにも……そんなことがあったの?」
サラが
「知ってるかもしれないけど、俺は正妻の子じゃない。だからオズウェル
サラは目を
一見恵まれた
「母上は俺を
普段の明るく
涙の流れが
「俺たちなら、友達になれると思うんだよ。《
ノアの言葉に、心が軽くなっていく。サラは
「それなら……できるかも」
「ね」
ノアはサラの肩を軽く
「ご両親にも、そのままの気持ちを伝えればいい。きっと分かってくれるよ。だってサラが今回の任務を引き受けたのも、ビルさんと、彼が作った伝令所を守ろうとしたからだろ?」
サラは
「でも……もし
不安が黒い足音で忍び寄る。また捨てられたら。そう考えるだけで体がすくんでしまう。
だが、ノアは全ての不安を吹き払うような、明るい笑顔で言った。
「そのときは、俺のところに来ればいい。どんなことがあっても、俺は君の味方だ」
その言葉には光があった。
「本当……?」
おそるおそるサラは問い返した。
「約束する」
ノアはしっかりと目を合わせて頷いた。
――ああ……。
サラはノアの手を握り返し、
ノアは自分を買いかぶっているのだと思っていた。《
でも、そうではなかったのだ。ノアは自分を理解してくれている。出会って間もないのに、今まで会ったどんな人よりも深く分かってくれている。そんな気がする。
――ノアになら、《マナ》のことも打ち明けられるかもしれない。
なぜか生まれつき使える
ノアなら、受け入れてくれるかもしれない。
「ノ……」
言いかけたサラの
サラをかばうように抱きかかえ、
「何か聞こえる」
サラは我に返った。
――そうだ。こんなところで、ゆっくり話してる場合じゃなかった。
土を
――どうしよう。私が足手まといになったせいで、ノアが……。
昨日のように
「サラ」
顔を上げて、サラは驚いた。
ノアは
この状況で、落ちつきを失わずにいられることが信じられなかった。
「ノア……」
思わず口に出すと、ノアの笑顔が
「やっと呼んでくれたね、俺の名前」
「そんなこと……言ってる場合じゃ……」
「大丈夫」
ノアは
「私を置いて、先に」
「サラ、ここまで俺を連れてきてくれて、本当にありがとう。君がいなきゃ、俺は昨日の夜に殺されてただろう。任務は王都までだったけど、もう十分だと思う」
目を見開くサラを置いて、ノアは立ち上がった。
「《
「生き
「駄目っ」
サラは立ち上がろうとしたが、
ノアは勢いよく走り出し、その背中が見る間に遠ざかっていく。
「ここだ! レガリアはここにあるぞ! 俺は逃げも隠れもしない、追ってくるがいい!!」
月夜を
「くっ……」
サラは土を
――お願い、体、動いて……!!!
立ち上がって、ノアの後を追わないと。でないとノアが――殺されてしまう。
「ううう……っ」
頭が痛い。体が重い。全身が熱くて吐き気がする。苦しくて死にそうだ。
それでも――ノアを助けたい、何としてでも!!
「あああああああああっ!!!!」
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