第5話 夢のつづき

 俺の海賊船は髑髏の旗を翻し、新たな世界へと船出した。

――男なら、禁忌をかえりみず、堕ちると判っていても交際しなくてはならない時が来る。男の娘だと判っていても、据え膳喰わねばならない時が来る。俺はそれを知ってしまった。

 もはや、彼女とは呼ぶまい。彼とも呼ぶまい。彼女でも彼でもない、「かをる」はカヲルだ!観自在菩薩様の如く自由で神々しい。確か、観音様って本当は男だよな?


 カヲル菩薩様の導きにより、百八の煩悩を祓い清める密儀が夜通し執り行われた。甘い唇は三十六の煩悩を吸い、甘い指は三十六の煩悩を宥め、甘い桃は三十六の煩悩を消し去った。しかし、甘い姿は再び三十六の煩悩を生み、甘い香りは再び三十六の煩悩を誘い、甘い言葉は再び三十六の煩悩を惑わした。


 カーテンの間から陽が射した。俺はまどろみながら、かをるの柔肌の温もりに浸っている。暖房も付けてないのに、とても温かい。

 「ケンちゃん、おはよう!君の初夢は成就したんだよね?」

 「うん、そうだけど。俺、カヲルに酷いことした?」

 「全然酷くなかったよ。全然嫌じゃなかった」

 かをるはプゥプゥっと噴き出て笑い、話し続けた。

 「君は『俺』になったんだよね?でも『カヲル』って呼び捨てにしてくれて嬉しいよ」

 揶揄われることも快感だった。

 「ところで、カヲルの初夢はどうなったの?」

 「ぼくの見た夢とは何かが違うね。その何かが、何なのか、よく思い出せない。だから、ぼくの初夢は、これから正夢になるんだよ」


―― 完 ――

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小蕊の蜜に誘われて――初夢【改】 Peeping Dom @peeping_dom

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