こっくりさんはお休みです
雪白紅葉
本編
「こっくりさんこっくりさん勇気君の好きな人を教えて下さい」
香織がそう言うと指が勝手に動き出す。そうして指し示したのは『ゆ』。私、優香と由美のどちらかが候補にあがった。
「ゆ……」
「待って!? ほんとに勝手に動いてるんだけど……」
由美はその事実に驚き、思わず手を離しそうになる。
「手を離すと呪われちゃうよ!」
「ひっ……」
指を離そうとした由美にそう言うと、青ざめた顔のままごくりと大きくつばを飲み込むのが聞こえた。
そうして私たちの指は次のひらがなの元へ動いていく。
指し示したのは『う』。つまり、私――!?
「え、ごめん私勇気君別に好きじゃ無いんだけど……」
「優香……恨むよ……」
「香織……恨まないで」
そうして指は『か』へ……ん? さらに下に……『き』……『き』!?
「ほっ、優香じゃなかったか」
「え、勇気君ってナルシスト?」
「そんな勇気君もかっこいい……」
せやろか。それにしても、こっくりさんって本当にいるんだなあ……これ、今指離したら呪われるんじゃないっけ……?
さて誰が指を離そうと無言の時間が続く。誰かがつばを飲み込んだ音がし、私たちの指がまた勝手に動き出す。
「あれ、なんで指動いて」
「何も言ってないよ!」
「待って。勇気、じゃなくて、ゆうきって名字……つまり悠木さんなのかもしれない」
クラスメイトの悠木千香さんのことが好きならば、こっくりさんが続いているのも頷ける。
「確かに悠木さんは美人だけど……くぅっ! イケメンはやはり美女とくっつく運命にあるのか!」
「うぅ……勇気くんぅ……」
私たちの隣で弁当を食べている勇気君の親友、大地君がその様子を見ながら苦笑いをしている。
「五月蠅くてごめんなさい」
「んや、こっくりさん見るの初めてだし、アイツが誰好きなのかもちょっと気になるしな」
「大地君も知らないんだ?」
「まあ、色恋沙汰に興味無さそうな感じだしなああいつ」
「確かに」
さて、指は次はどこに……『う』。悠木ゆう……?
「ゆうって子いたっけ」
「うちのクラスにはいないかなー」
「なら隣?」
「どうだろねー」
分からん。ゆうきゆうって子がいるんだろうけど……ん? この指まだ動くぞ。
次は……『き』。
……。
「勇気君って、すっごいナルシスト?」
「ゆうきゆうき君かもしれないよ!」
「ホモぉ……?」
「ゆうきって女の子もいるからほら!」
そうなんだよね。『ゆうき』って名前だと男も女もいる。どっちだか全く分からんな……そんなダブルネーミングな子も思い当たらないし。
とか考えているとまた指が動き出す。え、まだ続くの?
『ゆ』を指したかと思うと『う』を指し、最後に『き』を指した。
……ちょっと。
「こっくりさんバグった?」
「ゆうきゆうきゆうき」
「勇気凜々元気」
「おいまて」
「あ、指離れた」
なんか気付いたら全員指を離していた。これで終わりってことかな?
ゆうきゆうきゆうきって同じ名前を三回指した。勇気君がそれだけ自分を好きって事……?
「あ、チャイム」
「ほんとだ」
「じゃあ終わりだね」
昼休憩も終わりだ。香織が五十音のひらがなを書いた紙を丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
「ナイスシュートっ!」
「いえいいえい」
「それ呪われない大丈夫?」
こっくりさんゴミ箱に捨てたようなもんなんじゃ……まあ、気にして無さそうだし良いか。
しかし、やってみたは良いけどよく分からなかったなー、興味無いけど。
※
そんなやり取りを横で見ていた鬼頭院勇気の親友、橘大地は正解が何なのかに思い当たる。
「ゆうき、ゆうき、ゆう……」
その後、三人の指が離れた時、十円玉は『か』の上にあったのだ。
どうやら三人は気付かなかったようだが、最後に指したのは『き』ではなく、その上にある『か』だったのである。
それらの単語を順番に並べると、ある一つの用語が浮かぶ。
「有給休暇……って……こっくりさん、お休みだったのか」
月給いくらかのかなーと気になった大地である。
こっくりさんはお休みです 雪白紅葉 @mirianyu
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