Case3

 ベテラン刑事の藤堂と新米刑事の田淵は車である場所へと向かっていた。

「藤堂先輩、これどこへ向かってるんですか?」

「例の食人鬼の件でお前に紹介したい人がいる」

 そう言うと藤堂は田淵に目隠しをするよう指示した。

 不穏な空気を感じながらも田淵は渋々とその指示に従うのだった。

 どれくらい走っただろうか、そのあまりの長さに田淵はいつの間にか眠ってしまっていた。

「起きろ」

「へ?」

 藤堂は強引に田淵を起こすと腕を掴んで目の前の建物へと入っていった。

「目隠しはもう外していいぞ」

「ここどこなんです?」

「研究施設だ。食人鬼のな」

 建物の壁は全て打ちっぱなしのコンクリートで、窓は一つもなく外の様子を窺う事は出来そうになかった。

 エレベーターで地下へと降りると館内放送で老人の声が聞こえてきた。

「やあ藤堂君、そちらは誰かね」

「お久しぶりです博士。こちらは後輩の田淵です」

「え、え?」

「まあいいそのまま奥に入りたまえ」

 謎の声がそう言うと二人の眼の前の壁が音を立てて動き始めた。

「行くぞ」

「あの、状況がよく分かってないんですけど」

「行けば分かる」

 廊下を進むとひときわ大きな鋼鉄の扉が姿を表した。

 藤堂が扉の前へと進むと扉はゆっくりと開き始めた。

「ようこそ私の研究室へ」

 二人の前に現れたのは白髪の老人、外見年齢は六十程、眼鏡をかけており一見すればどこにでもいる普通の老人だ。

「あ、初めまして田淵と申します」

 田淵が何気なく右手を差し出すと老人は少し様子を見てからそれに応じた。

「初めまして。私はこの国で唯一の食人鬼研究家で名を大木と言う。以後よろしく頼むよ」

 手を握って初めて田淵は大木の右手が義手であることに気づいた。

「す、すみません」

「いいんだ気にするな」

「そ、その腕はどうしたんですか? もしかして食人鬼に……」

「ははは、それなら私はもう生きてはおらんよ。この手は以前事故で失ったのさ」

「博士、挨拶はもうそれくらいでいいでしょう」

「そうだな。それで藤堂君、今日はどんな要件で来たのかね?」

「市街地に食人鬼が現れました。それも一般人に目撃されています」

「ほう、それは興味深い。詳しく聞こうじゃないか」

 大木は二人を研究室の奥へと案内した。

「二人共そこの椅子にかけてくれたまえ。ああ、珈琲でも飲むかね?」

「いただきます」

「では少しばかり待っていてくれ」

 大木はインスタントの珈琲を淹れると二人の前に置いた。

「ミルクと砂糖は要るかい?」

「いえ大丈夫です」

「僕は貰おうかな」

「ふふ、糖分は大事だよ二人共。頭を使うならなおさらね」

 藤堂は机の上に事件の捜査資料を広げた。

 大木はそれらを一つ一つ手に取るとじっくりと精査を始めた。

「時刻は午前五時頃、場所は街中にある公園、散歩中の老人が目撃と……被害者の身元は判明していないようだね」

「遺留品は無く、あるのは被害者の血痕と体の一部のみ。性別すら不明な上に行方不明者の捜索願いも現時点では出ていません」

「となると被害者本人に化けている可能性もあるねえ」

「もしくは身寄りがないのかもしれません」

「え、そうなんですか?」

「それくらい分かれよ田淵……」

 呆れる藤堂を見て大木はくっくと笑っていた。

「君が連れてくるからどんな人かと思えば、面白いねぇ」

「すいません……」

「いいかい田淵君、もし君の家族が行方不明になったとしよう。君ならどうする?」

「そりゃもちろん警察に捜索願いを出しますよ」

「その通り、では君の家族が行方不明じゃなかったら?」

「え? 別に何もしませんけど」

「そういうことだ。つまり捜索願いが出ていないというのは本人に化けて普段どおりの日常を演じているか、もしくは通報する家族がいないかのどちらかなのだよ」

「あー! なるほど!!」

 やっと物事を理解した田淵を見て藤堂はさらに呆れるのだった。

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食人鬼《Unknown beast》 teru @LOL

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