第10章 勇者になる前に戻り

 そして、タニルはどしんと膝をつき、膝を地面に直接ぶつけたが、彼は麻痺したようだった。


 タニルがこんな姿になったのを見て、伯父と伯母はさらに感傷的になって、また涙を流した。


「アルウィあの子、まだ若いだ……どうして家の中で、勝手に離れてしまったの?…」


 伯母は悲しみながら言った。


「なんですか?!…」


 グランは驚いた。


 彼だけでなく、伯父と伯母の口からの言葉も、タニルには理解できなかった。


「な…何を言っています……か?」


 タニルが呆然として尋ねた。


「今になっては… まあ…納得できないのも無理はないだよね… 彼女が去ったとき、体には何の傷もなかった。

ただ、彼女の様子は… そんなに悲しくて、苦しくて……!」


 そう言って,伯母はいっそう嗚咽し始めた。


「まるで……この世界を惜しむようにね…!」


 伯母は思わず泣き声を出した。 伯父は彼女の背中をタップしながら、自分の口を覆い、悲しみをしのごうとしている。


「で、それで? ……それなら、私とタニルは…家を出たのは何のためですか?」


 グランは急いで尋ねた。 彼は何か変なところを見つけたようだった。


 伯父は困惑していた。


「何を言ってるんだ、グラン? まさか、君もばかになったか?… 君達は自分で言ったのではないか?

アルウィが去っていくのを受け入れることができないから、しばらく旅に出るつもりだったのか?」

「そ……そうですか?」


 グランは思わず呆然とした。 彼は頭の中の情報を整理しようとして、もっと混乱していた。


「アルウィ!……アルウィ!!…」


 墓石の前にひざまずいて、タニルは地面の土をゴツゴツとひっくり掘っている。


「おい!…タニル!? やめろ!!」


 グランがあわてて止めると、タニルの指から血が出ているのを見た。


「アルウィはそこにいる!… 彼女を見せてくれ…!」


 タニルは絶望的に言った。


 そこで、グランはタニルの肩をさすり、自分も頭を上げて涙をこらえる。 アルウィの両親はタニルを見て、もっと悲しくなった。


「旦那さん… 彼ら三人は、いい子なのに!……でもどうして?…」


 誰もが泣いていて、裏庭に悲しみの雰囲気だけが残っている時、


「タニル、グラン」


 少しなじみのある優しい音色が、少女の声ではない。


 そして、悲しみの中の二人は見上げて――


 成熟して美しく、身だしなみが端正で、服装が高貴で上品。 墓石の上に現れた彼女は、少女アルウィとは全然違う。


 ただ、彼女の目つきはアルウィが憑依された時の、冴えて冷たくて、哀れみに満ちたまなざし、そっくりだった。


「私、光の女神です。」


 女神は淡々と言って、二人は初めて彼女の顔を見た。 今も彼女は空に浮かんでいるが、実体ではない。 煙のような女神の体を通して、後ろの景色が見える。


「時間が短い、私が直接説明します。 過去が変わったため、アルウィの死が事実となりました。」

「過去が変わった?! ……ちょっと待って」


 グラン驚いたが、それは合理的だと思い、考えながら言った。


「光の女神、あなたは前に言いました… 魔剣は時を越えることができます…!

まさか、あのリアというやつですか!?」

「まさにです。 リアは過去に戻り、タニルが勇者になる前の夜――闇の魔法を使って、アルウィを殺害した。」

「それは……!!」


 グランは再び驚き、怒りを交えながら、筋肉が歪んで顔が言葉にならないようにした。


 アルウィの両親はまだうつむいてて、光の女神が見えない、彼女の言うことも聞こえないようだ。 夫婦は互いに肩を寄せ合って、顔を覆って泣いている。


「でも、まだチャンスがある」


 光の女神は迷わず言った。


 この言葉を聞いて、タニルは即座に立ち上がった。 さっきから、光の女神をずっと見つめてて、彼女とグランとの会話を聞いていた。 顔には何の表情もないが。


 しかし今、タニルもズボンの膝にまみれた土や、手に地面を掘った傷をものともせずにいる。


「……どうすればいいですか?」


 タニルは光の女神に尋ねた。


「君たち二人の意識を、過去に送り返すことができます。 アルヴィさんが殺害される前に。」


 そう言って、光の女神は二人の顔を確認した。


「私はこの姿を維持することはできません。 早速ですが、準備はできていますか?」


 と聞いた。


「もちろんです。」


 タニルは丁重に言った。 アルウィに再会することへの期待と、あのリアという女への怒りは、今、織り交ぜて、胸いっぱいに満ちている。


 しかし、タニルはすぐに自分の気持ちを片付け、後ろのグランも準備ができていた。


 そして光の女神が儀式を展开する。


 銀黄色の魔法陣の光の中央で、タニルの目はしっかりしている。


「アルウィ……」


 希望を見た瞬間から、タニルはすでに覚悟を決めた。




 どういう光景を見たのか分からないで、ひとしきり目がくらくらした後。


 二人は、タニルが勇者になる前の時間に戻った。


 意識が回復したとき、二人はそれぞれタニルの部屋にいることに気づき、アルウィもいる。 二人はまだ覚えて、三人が明日のピクニックのことについて話している。


「明日は魚の雑煮や……焼き肉を作る! そうだ、果物も持ってきて!…」


 ベッドの前の狭い空き地で、アルウィはウロウロしながら、独り言を言っていた。


 タニルは枕元に座り、グランは窓際のテーブルのそばに寄りかかった。


「魚スープは必ず作ってね。魚を捕まえたいから!……ねえ、聞いたか? タニル、グラン? ……タニル?」


 いつのまにか、アルウィは顔を近づけ、タニルを見つめた。 疑惑の表情で、手のひらでタニルの目の前をゆらゆらする。


「どうして急に黙っているの?」


 アルウィは首をかしげた。


 もしかしたら、意識がタイムスリップしたばかりのせいか、タニルとグランは少し鈍い。 あるいは、アルウィが目の前でぴんぴんしていることに、驚きすぎて見入っていたのか、すぐには反応できなかった。


 ふと、タニルが立ち上がり、両手でアルウィの肩をつかんだ。


「タ……タニル!?」


 アルウィはびっくりしたのでしょう。 ちょっと驚き、心配そうに相手を見つめている。


「俺たちは……確かに過去に戻ってきた。」

「いったいどうしたの?」


 身体をつかまれたアルウィは、呆然とタニルを見てた。


 タニルはアルウィの肩を手放し、努力して冷静になった後、また真剣な表情を見せた。


「アルウィ、今夜、君はリアに殺される。 でも俺とグラン、決してそんな事が発生させない!」

「リア?……誰だ?」


 アルウィは茫然として、少しカッコいいタニルを見ていたが、その中の言葉に不安を感じていた。




 田舎には城がある。


 城の主は、体が太った男爵で、今は、ソファーに腰をおろして、大好きな美酒を楽しんでいる。


 男爵の懐には万種の風情があり、珠光宝気の情婦が抱かれている。 情婦の豊かな身体は、男爵の大きな腹に比べれば、たちまち弱々しく小さく見える。


 太った男爵と情婦の身の前に、一人の騎士が両手で拳を抱え、片膝を床についていた。


「男爵様、ここ数日、近く一帯の治安は良好です。 連合軍の軍隊は見たこともないし、何の異常も見つけられませんでした。」

「よくやった、出て行け」


 男爵は情婦と午後のレジャーを楽しむ。


 騎士は立ち上がる前に、男爵の情婦を見た。 情婦は気づいたようだったが、言葉もなく、相変わらず目を細めて男爵のお腹にうつぶせになって、男爵に甘い息を吐き、まるで力がないようだ。


 男爵の豪華なラウンジを出て、騎士は城の外側の廊下を独りで歩き。―― 騎士は、この前タニルたちと出会い、不幸にしてオーガ人食い魔になった奴だ。


 しかし、タニルとグランがタイムスリップをしたため、あの事件の前日に戻ってきた。 だから、村の外の川や林は、この時の騎士一度も行ったことがない。


 騎士が廊下からベランダに来て、窓から風景を眺め、一人で考えている時。


 ベランダの外側の石垣の上から誰かが現れた。 一般人がそんな場所に登ることはあり得ない。 そして立っている位置が危険すぎて、うっかりして城の高いところから落ちて、粉々になってしまう。


「おや、騎士さん。 一人で何を考えていますか?」


 騎士が振り返ると、訪れたのは女性だ。 相手が高いところに立つのが危険だということに驚きながら、騎士のイメージでは、この女性とは初対面だ。


「すみません、お嬢さん、俺は本当に思い出せませんだな。 あなたは私のどの夜の情事のヒロインですか?……ちょっと待って…

……いや!!…お前は!?…」

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真善の裁決:聖剣と魔剣の伝説 悪の魔王 弱 @devil_puny

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